楽天こそ才能 インドの教育熱と前向き思考を描く青春映画『きっと、うまくいく』

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インドの台頭を予見した知人の言葉

以前、ある方と歓談して、「この分野において、21世紀に台頭する国はどこか」という話題になった時、その方は即座に『インド』と答えられました。(2000年の時点で)

その頃、インドといえば、ガンジーか、映画『スラムドッグ・ミリオネア』のようなイメージしかなかったので、「え~、インドって、カレーのインドですかぁ」とずいぶん間抜けなリアクションをしたところ、その方に言われました。

「今、インドの若者は、もの凄い勢いで学問に取り組んでいるよ。21世紀になったら、君は方々でインドの天才を目にするようになるだろう」

その時はピンとこなかったのですが、十数年を経て、予言通りになりました。

私も東欧の美容院でインドの大学生に出会ったことがありますが、「あなた、ネイティブ?」というくらいに英語が堪能で、ITの仕事で欧州に来たとのこと。カレーじゃないんですよ、カレーじゃ・・┐(´-`)┌

一方、インドといえば、世界屈指の映画大国で、日本でも『踊るマハラジャ』などが有名ですが、私は一度もインド映画を観たことがない。

そんな中、インドの大学生と出会ったこともあり、『きっと、うまくいく』(2009年公開)という映画を視聴したところ、これが想像以上に面白い。インドでも大ヒットして、スティーブン・スピルバーグが「3度見た」と大絶賛したらしい、教育&青春映画の秀作です。

内容に関しては、AmazonやWikiや個人ブログでたくさん紹介されていますので、ここでは『楽天こそ才能』(市場ではない)というテーマで感想を綴ります。

楽天こそ才能:成功は後から付いてくる

自尊心の低下は高い能力も腐らせる

映画の見所はいろいろありますが、一番よかったのは、独特の感性をもつ主人公・ランチョーの『AAL IZZ WELL(きっと、うまくいく)』の教えでしょう。

原題である『3 idiots』(日本風に言えば「3バカ・トリオ」)』は、いずれも超難関理系大学・ICEの男子学生。

それぞれに能力はあるけれど、激しい競争の中で自信を無くし、どんどん心が磨り減っていきます。

そんな学友にランチョーは言います。「心は弱虫だから、騙してやらないといけない」。

そこで歌われるのが、『AAL IZZ WELL』。

私が見た動画の字幕では、次のような訳詞が付いていました。

人生が手に余る時は 唇を丸めろ
唇を丸め 口笛を吹いて こう言え

うまーく いく

鶏は卵の運命を知らない
ヒナ誕生か それとも目玉焼きか

誰も将来のことはわからない

唇を丸め 口笛を吹いて こう言え

兄弟 うまーくいく

All Izz Well

ダンスの場面でわかるように、ランチョーはどんな時も機知と明るさで乗り越える強さがある。

厳格な教授や学長とも堂々と渡り合い、嫌みや攻撃ではなく、ユーモアでさらりと切り返します。

この世に成績のいい人、頭のいい人はごまんといるけれど、肝心なところで勝てないのは、「根本的に自信がなく、悲観的」という理由が大きいでしょう。

特に日本は自我の根っこがグラグラして、能力はあるけど、逆にそれが負の財産となり、得た知識や技術の半分も活かせない人が多いような気がします。

根本的に、「自分なんか愛されない」「社会に必要とされてない」「周りにバカにされているような気がする」といった自尊心の低下があるので、何をやっても満足せず、自分を肯定することができません。あらゆる努力は空回りし、イライラ、ムカムカするうちに、せっかっくの能力も腐らせてしまうのです。

それにプラスして、「ケンソンの美学」もありますし。

参照記事 →  自分の作品を「拙い(つたない)」なんて言うな

だから目の前に、ランチョーみたいな本物の強さや明るさをもった人間が現れると、心の根っこがぐらぐらして、攻撃的になったりする。

アリみたいに微弱な生き物が相手でも、「こいつに負けるんじゃないか」と焦ってしまう。

実際、仕事でも、人付き合いでも、ランチョーみたいなタイプの方が運も人気もあります。

だから余計で、「今まで自分が必死に努力してきたことは何だったのだ」とアイデンティティが崩壊してしまうんですね。

その果てにあるのは、人間嫌いであったり、無気力であったり、親や社会に対する恨みであったり、いろいろです。

こういう場合、より上のレベルを求めて、ガツガツ努力しても、決して上手く行きません。

その人にとって、ゴールとは「勝ち」を自分にも周囲にも認めさせることであり、ランチョ-みたいな自己肯定の精神からは程遠いからです。

言うなれば、ポジティブな心の持ち方は、優れた知識や技術にも勝るところがある。

10しかないものを、希望やユーモアで、30にも、50にも膨らませるので、落ちても、落ちても、強いです。

悲観的な人から見れば、存在そのものが脅威ですよね。

叩いても、叩いても、こういう人は『明るいゾンビ』みたいに、ヘラ~っと蘇るのですから。

そのあまりの、ふてぶてしさ(?)に、根拠のない自信はどこから湧いてくるのかと、訝しく感じるかもしれません。

でも、楽天的な人にとっては、そういう問いかけ自体があり得ない。

「我、ここに在り」という事実だけで全てに納得いくからです。

楽天的とは、どういう意味か

ところで、「楽天的」というと、「物事を良い方に考える」と解釈されることが多いですが、本当にそれが全てでしょうか。

確かに、この社会を生きて行く上で、「人間、肩書きが全てではない」「コップの水がもう半分、ではなく、まだ半分と考える」「どこからでも道は開ける」みたいな前向き思考は大事です。

しかし、自分で納得できないものを、無理やり自分に言い聞かせても、真のポジティブ・シンキングにはなりません。

たとえば、一流大学の受験に失敗したり、希望の会社に就職できなかった時、「人間、肩書きじゃない! 前向きに生きれば、いつか良い事がある! 自分を信じろ!」みたいな理屈を100万回、自分に言い聞かせても、本物の強さにはならないでしょう。

何故なら、根本に、一流大卒ではない自分を否定する気持ちがあるからです。

鷹になれなかったヒヨコが、コンドルの王者になろう、人気者のインコになろうと意気込んだところで、根本的に「ヒヨコはダメ」と思い込んでいる時点で、幸せからは程遠い。

たとえヒヨコ以外の何ものかになることが叶っても、本当の自分はこれじゃない、と、常に不満を抱き続けることになるでしょう。

本物の楽天家=ポジティブ・シンキングというのは、「ヒヨコも立派な鳥類の仲間」「ヒヨコだって、一所懸命に生きている」「ヒヨコの自分が好き」という自己肯定感に支えられていることです。

「ヒヨコの自分はイヤ。人気者のインコになれば、皆が自分を認めてくれる」「努力してインコを目指すのだ」と思い込むのは、屁理屈シンキングです。

屁理屈シンキングに取り憑かれると、能力は不満を、努力は恨みしか生みません。

たとえ「頑張ること」が前向きであっても、自分自身に対しては、完全に後ろを向いているわけですね。

本物の楽天を身に付けたければ、まずは自分自身を知ること。そして、受け入れること。

それを書いて、前向き思考だけ取り入れても、かえって自尊心を傷つけるだけで、何も得るものはありません。

無理に自分に言い聞かせるのと、自然にファイトが湧くのでは、大きな違いがあるんですね。

悲観的な天才10人より、楽天的な凡人100人の方がいい仕事ができる

学問でも、仕事でも、確実に100点取れる人間が100人集まった方が優秀に見えますけど、悲観的な人ばかりでは、それ以上伸びません。

業績が下がったといっては、落ち込み、失敗したといっては、やる気をなくす。

それどころか、組織内で、お互いに足の引っ張り合いをして、ちょっとでも傷つくことを言われたら逆恨み。

こんな職場では、たとえ能力が高くても、たちまち心を病みそうですね。

それより、70点しか取れなくても、楽天的な人間が100人集まった方が、伸び代は大きいです。

一緒に仕事しても楽しいですしね。

何より、苦境の時も助け合い、支え合う。

そこを抜きにして、福利も信用も期待できません。

そう考えると、ランチョーみたいな若者で溢れかえっている国は強いです。

今は下位から二番目でも、そこから伸びてくる勢いが違います。

何故なら、彼等は、生きることや働くこと自体が楽しいので、負けもなく、絶望もないからです。

どんな学生も、訓練すれば、100点取れるようになりますが、楽天性だけは、技術や口頭で教えられるものではありません。

真の才能とは何かと問われたら、100点取る能力より、自分自身を肯定して、縦横無尽に心の枝葉を拡げられる柔軟性だと思います。

*

作品は、インド映画らしく、歌あり、ダンスあり、お下品なギャグありと、エンターテイメントに徹しており、まったく重苦しさがありません。随所にデフォルメされたキャラクターが登場し(何かといえば「この時計は40万ルピーしたんだぞ!」と価値をお金に換算するヒロインの婚約者など)、マンガ映画みたいなノリです。

上映時間は3時間と長めですが、心の癒しにはもってこい。

くさくさした週末などに気分転換に見ると、少しは気持ちも上向くのではないでしょうか。

作品のテーマである、AAL IZZ WELL(きっと、うまくいく)は、「何もかも自分の思い通りになる」の意味ではなく、「すべて思い通りにならなくても、世の中には、楽しい出会いもあれば、思いがけない幸運もある。きっと、何とかなるさ」という意味です。

*

映画のラストシーン。

インドには、こんな美しい場所があるんですね。

ずっともやもやしていた人も、このラストの景色で心洗われるのではないでしょうか。

案内役のファランの最後の台詞、「まずは実力をつけること。そうすれば成功は後から付いてくる」。

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この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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