魅力的な悪役 : アラン・リックマン
アラン・リックマンといえば、今の若い人には「ハリー・ポッター」のセブルス・スネイプ先生なのでしょうね。
でも、私のようなおばちゃまになると、アラン・リックマンといえば、やはり『ダイ・ハード(ブルース・ウィリス)』の悪役テロリスト。
そして、英国アカデミー賞助演男優賞を受賞した『ロビンフッド(ケヴィン・コスナー主演)』のノッティンガム司法官です。
日本にも成田三樹夫センセイという、コメディからヤクザの悪人まで幅広く演じる名優さんがいらっしゃいますが、アラン・リックマンの悪役も非常に魅力的です。
マンガ『ガラスの仮面』で、「どんな悪役も演じ方次第で印象が変わる。イギリスの名優が『ヴェニスの商人』で悪役シャイロックを演じた時、観客はその演技に涙したのよ」という姫川亜弓お姉さまの言葉通り、アラン・リックマンの悪役は、邪悪の中にも上品さを感じさせるが、どこかお茶目で間が抜けている……というのがポイントです。いわば、『小悪党』ですね。
映画『ロビンフッド』(1991年)
私が一番好きなのが、映画『ロビン・フッド』のノッティンガム司令官です。(ラッセル・クロウのロビンフッドではない)
この作品は、1991年、ケヴィン・コスナーの全盛期に制作されました。
テーマ音楽は、ディズニーのDVDのCMで耳にされた方も多いのではないかと思います。
ロビンフッドといえば勧善懲悪の典型ですが、悪役に魅力がなければ、ヒーローも輝かないもの。
この作品では、アラン・リックマンが「とんでもないワルで、野心家で、一見才能ありそうだけど、実は甘えん坊で、間抜けな代官」をお茶目に演じているおかげで、作品自体の魅力が百倍以上にアップしています。ケヴィン・コスナーだけでは、ここまで印象に残らなかったでしょう。
賢哲で逞しいムーア人を演じた、ブレイク前のモーガン・フリーマン(モーガンの出世作はサイコスリラーの傑作『セブン』)と、かなり人気が出始めた頃のクリスチャン・スレーターが薄幸な弟役で出演しているのもポイントですが。
参考記事 → 神への回帰と殺してもいい権利 映画『セブン』と七つの大罪
アラン・リックマンはとにかく表情豊か(#^^#)
徹底してワルになろうとするけれど、どこか腰砕けで、甘えん坊で、威厳のカケラもないマザコン代官を好演。
心ひそかに劣等感に苦しむキャラクターをユニークに演じています。
スクリーンに登場するだけで、惹きつけられますよ。
こちらは言葉巧みに代官を支配する魔女。今でいう毒親ですね。
この代官、一見、救いようのないアホに見えますが、心の底には純粋なものを持っています。
こちらは、ロビンフッドの幼馴染みで、リチャード国王の従妹でもあるマリアン姫を強奪し、無理矢理に結婚式を挙げる場面。
魔女は「さっさと子種を仕込むんだ」とけしかけますが、「それはきちんと祭壇の前で式を挙げてからだ! 生涯に一度くらい、汚れなきものが欲しいんだよ」の一言に胸をつかれます。
これも脚本の勝利ですね。
この台詞に代官のキャラクターや生き様が集約されているし、また、それを必死の血相で訴えるアラン・リックマンの演技が、この作品の印象を大きく変えたと思います。
で、司祭の前でコトに及ぼうとするけれど、ロビンフッドたちが場内になだれ込んで「集中できない!」と繊細な一面も見せます・・・。
また、この作品には、私の大好きなメアリー・エリザベス・マストラントニオが『マリアン姫』で出演しています。
繊細な中にも、強さと優しさを秘めたヒロインを演じればピカイチ。
ジェームズ・キャメロンの海洋SFアクションの傑作で、エド・ハリスの嫁さん役を演じた『アビス』も、史上最大のストームに見舞われる、気丈な船乗りの妻を演じた『パーフェクト ストーム』もいい作品です。
参考記事 → 俳優エド・ハリスをよいしょする 「アビス」「ザ・ロック」「敬愛なるベートーヴェン」他
ケヴィン・コスナーも一時期、飛ぶ鳥の勢いでしたが、当たりもあれば、ハズレもあり、どちらかといえば、周りにやっかまれるタイプの俳優さんですよね。
映画評論家の“おすぎ”が「自分の顔をあんなドアップで撮らせる男って、ナルシストみたいで嫌い~」とか言うてましたな。
でも、改めて見直すと、それほど世間に酷評される理由は見当たりません。やはり、やっかみじゃないでしょうか。
ハンサムだし、スクリーン映えするし。一時期のレオナルド・ディカプリオみたなものですね。
でも、私はやはり、最後のサプライズに登場したショーン・コネリーがいいです。
一度だけ、世界中のどんな人でもデートが叶うとすれば、まじでショーン・コネリーとデートしたいです。
ちなみに、この作品は、クリスチャン・スレイターの出世作でもあるんですね。
司令官と最後の戦い。
ケヴィン・コスナーはアクションも綺麗なんですよ。ホイットニー・ヒューストン主演の映画『ボディガード』でも、スマートにガンアクションを決めていました。
そのスマートさが、同世代の男性の嫉妬をかったのでしょう。
ケヴィン・コスナーほど、実力と世間の評価がマッチしない俳優もないような気がします。
もっとも、高齢になってからは、NASAのアフリカン系の三人の女性の活躍を描いた『ドリーム』で、人種差別に苦しむヒロイン(実在の人物で、アポロ号の軌道計算をしていたキャサリン・ジョンソン)の盾となり、彼女を計算係に取り立てる白人系上司アル・ハリソンを好演して、高評価を得たり、他の作品でも存在感のある脇役を演じて、演技力が見直されています。
DVDはこちら。
出演者 ケビン・コスナー (出演), モーガン・フリーマン (出演), クリスチャン・スレーター (出演), メアリー・エリザベス・マストラントニオ (出演), アラン・リックマン (出演), ケビン・レイノルズ (監督)
監督
定価 ¥781
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映画を知らない人も、このテーマ曲は絶対に聴いたことがあるはずですよ。
ディズニーの名作DVDのCMに使われてますので。
映画『ダイ・ハード』(1988年)
言わずとしれた、ブルース・ウィリスの出世作。
それまで『こちらブルームーン探偵社』というTVシリーズで、ぼちぼち名前は知られていましたが、ジョン・マクナティアン監督のアクション映画『ダイ・ハード』で一躍有名になりました。
『謎のテロリストが日系企業の高層ビルをジャックし、社内のクリスマス・パーティーで、たまたまその場に居合わせたジョン・マクレーン刑事が、丸腰で敵と対峙する』という単純明快なストーリーながら、当時、こちらも飛ぶ鳥の勢いだった日系企業が狙われたこと、最後まで目の離せないスピーディーな展開で、世界中の映画ファンを釘付けにしました。
それも、これもアラン・リックマンの悪役が秀逸だからこそ。
ブルース・ウィリスが輝いて見えたのも、アラン・リックマンが、冷酷かつ間抜けなテロリストの親玉を好演したからです。
上等なスーツに身を包み、問答無用で相手の眉間を撃ち抜く。
スマートな悪の魅力に目を見張った人も多いはず。
日系企業のタカギ社長。
ダイハードが制作されたのは、まさに日本バブルの絶頂期。
アメリカの有名企業や不動産、世界的名画などを買いあさり、「東洋のサル」と顰蹙をかうこともありました。
当時は空前の円高だったこともあり、(1ドル=80円~90円)、高齢のリタイアカップルから女子大生まで、パリだ、ロンドンだと、そりゃもう好景気だったこと。
団体様で、有名観光地を訪れ、あっちでパチパチ、こっちでパチパチ、写真を撮りまくり、シャネルやエルメスのブランド店では、this one ! this one ! this one! とカタコトの英語で買い物三昧。一流店の雰囲気が壊れると、現地の店員が苦情を申し立てたこともありましたっけ。
外国人観光客が……なんて、決して笑えないのです。
我々だって、苦しい戦後から抜け出して、小銭を手にした時には、意気揚々と海外旅行の出掛け、買い物三昧で、第二の人生を謳歌していたのですから。
そんな背景もあって、ロサンゼルスに一際高くそびえ立つ日系企業ナカトミ・ビルを占拠し、派手に銃をぶっ放して、ヘリコプターまで突っ込むアクションは、当時のアメリカ人にもずいぶん受けたようです。
そりゃもう、『アジアの猿』と見下していたのが、あれよあれよという間に経済成長を遂げ、ニューヨークやロサンゼルスの不動産や会社をばんばん買い漁るようになったのですから。当時のアメリカ人にしてみれば、日本の名だたる企業やシンボルタワーが隣国の大富豪に乗っ取られるような気分だったと思います。
でも、それも、とおい、とおい、昔話みたいなもの。
もう二度と、あんな景気のいい時代は戻って来ません。
ヴィクトリア女王の大英帝国が二度と戻ってこないように。
これもイヤミだね。
日本人は世界的な名画を購入しても、ぐるぐる巻きのまま金庫に放ったらかし、芸術など理解しない人種だと言いたいわけですよ。
ちなみに、70年代~80年代のハリウッド映画には、日本人を揶揄する表現がけっこうあります。
他国の人種差別問題には敏感だけど、自分自身の人種差別には、なぜか気付きもしないという・・^^;
アラン・リックマンが凄いなと思ったのは、クライマックスのショット。
ビルの窓から転げ落ち、ブルース・ウィリスの嫁さんを道連れにしようとするが、しがみついていた腕時計を外され、あえなく落下・・。
「演技の上手い役者さんだな」と思ってフォローしていたら、今はハリポタのスネイプ先生で大人気です。
マクレーンの奥さんの手首にしがみつき、お前の女房も道連れにしてやるとニンマリ。
ところがマクレーンが腕時計を外す。
(この高級腕時計は、昇進のプレゼントとして会社から奥さんに送られたもの。いわばマクレーンと奥さんの不仲の象徴です)
腕時計と共に真っ逆さま。この壮絶な表情がたまらん..
実際に、ビルから墜落するわけではないのに、演技でここまで瀕死の顔ができる……というのが役者の凄いところです。
この映画のポイントは、ソ連から亡命したボリショイ・バレエ団の花形ダンサー、アレクサンドル・ゴドゥノフが出演している点。
(写真左。金髪ロン毛のお兄さん)
この頃、よくソ連から有名人が亡命していました。ミハイル・バリシニコフを筆頭に。
突然、病死したという話ですが、見せしめに消されたんでしょ。
ソ連に関しては、病死説は信じません(・_・)
どこが違うの? ダイ・ハードと従来のアクション映画
ダイ・ハードは、確かにそれまでのアクション映画と一線を画していました。
理由その1
主人公が訳ありの不良オヤジで、ボロボロに傷つく。
スティーブ・マックイーンやポール・ニューマンのように、容姿、人格、能力ともに兼ね備えたスーパーヒーローではない。
70年代から80年代にかけてのアクション映画といえば、主人公はタフで、クール。
敵が放つ弾丸は、ヒーローの脇を頭を下げて通り過ぎ、主人公の撃つ弾は百発百中、決して、顔形が変わるまで、ボコボコに殴られたりしない。
泣き言も言わず、恨みもせず、グラマーな美女にメロメロに愛される……というのが定番でしたが、『ダイ・ハード』の主人公は、「嫁に三行半をつきつけられたダメ男」「根性がありそうで、ヘタレ」「傷つきまくって、ボロボロ」という点が非常に新鮮だったのです。
今ではそういう設定も珍しくありませんが、映画『ダイ・ハード』は、それまでの「アクション・ヒーロー像」を大きく変えた作品の一つなんですね。
そして、この次に、コミカルもハードもいける、アーノルド・シュワルツネッガーが台頭します。(スタローンはまだランボーあたりでムキムキやってたけど)
ある意味、ブルース・ウィリスが演じたジョン・マクレーン刑事は「等身大ヒーロー」のはしりかもしれません。
理由その2
アクションが派手。
60年代から70年代にも、『タワーリング・インフェルノ』や『ポセイドン・アドベンチャー』、『大脱走』や『ダーティー・ハリー』のように、豪華・大型アクション映画は存在しましたが――様式美とでもいうのですか――そこには一つの決まり事があり、その決まり事の中で、ヒーローが定石通りに危機に陥り、定石通りに美人と恋仲になり、定石通りに敵をやっつけるという、鉄板がありました。
ところが、ダイ・ハードのアクションは、やりたい放題。
マシンガンは撃ちまくるし、高層ビルからパトカーは墜落するし、ヘリコプターは爆発するし。
そこには様式美もクソもありません。
ただただ破壊があるのみです。
これも今ではまったく珍しくありませんが、『ダイ・ハード』は群を抜いてド派手で、新時代のエンターテイメントを予感させる娯楽大作だったのです。
私はTVロードショーが初見でしたが、あの小さな画面でも釘付けになったくらい。
映画館で鑑賞したら、もっと衝撃的だったと思います。
その後、しばらくこういう路線が続いて、そろそろ派手なだけのアクションにも飽きたな~という頃に登場したのが、『MATRIX』です。
あれも日本アニメの手法を取り入れ、本当に画期的でした。
参考記事 → 映画『マトリックス』が本当に伝えたいこと ~君は心の囚人 / What is MATRIX 英語で読み解く
その間に『エイリアン』や『ブレードランナー』のような斬新なSFもリリースされましたが、アクションに関しては、やはり『ダイ・ハード』が一つの変わり目かと思います。
ヒーロー役が、チャールズ・ブロンソンやポール・ニューマンのような二枚目路線から、ブルース・ウィリスのような「等身大のお間抜けさん」に移り変わった節目でもありますしね。
ブルース・ウィリスもすっかりお年を召して、私も淋しい限りだけども、身体を張って一時代を築いた俳優さんに違いありません。
そういや、デミ・ムーアと結婚してたんだよなー。懐かしい。。。
出演者 ブルース・ウィリス (出演), ボニー・ベデリア (出演), レジナルド・ベルジョンソン (出演), ウィリアム・アザートン (出演), アラン・リックマン (出演), アレクサンダー・ゴドノ (出演), ジョン・マクティアナン (監督)
監督
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そんなわけで、アラン・リックマンのことは「ハリー・ポッターのスネイプ先生」しか知らないという若い方も、興味があれば、上記の2作品をぜひご覧になって下さい。
特にロビン・フッドの悪役代官はとってもチャーミングで見応えがありますよ♪