アレクシス・ワイセンベルクの魅力 ドビュッシー名曲集より

アレクシス・ワイセンベルクについて
美麗なピアニズムで知られるワイセンベルクの魅力が凝縮したドビュッシー。『月の光』『組み合わされたアルペジオ』の映像的な演奏をはじめ、日本では廃盤になって久しい『ラフマニノフ・ピアノソナタ第二番』、変態プレイが炸裂する『ペトルーシュカ・ロシアの踊り』、その他おすすめCDをSptifyとYouTubeで紹介。CDのライナーノーツの抜粋も掲載しています。朝露のようにピュアで、流麗なドビュッシーが印象的
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アレクシス・ワイセンベルクについて(ライナーノーツより)

1927年7月26日(蟹座❤ 注・管理人)、ブルガリアのソフィアに生まれた。幼少のころから母親からピアノを習い、第二次大戦中はイスラエルに行き、その後アメリカに渡っている。
アメリカではジュリアード音楽学校でオルガ・サマロフに師事し、1948年2月、ジョージ・セル指揮ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏会でデビューしている。
しかし1956年から約10年間活動を中止して自己研鑽を重ね、その間にパリに移り住んでいる。そして1966年11月にパリで再デビューしてから、国際的なピアニストとして高い名声を博している。(求道者(´<_`)ワイセンベルクのドビュッシーは、20年ほど前に今回とほとんど同じ曲目のレコードがあったが、比較的珍しいといえる。元来音の澄んだ美しさをもっている人だから(そうそう)、ドビュッシーの演奏にはそれが大切で、強弱の表現がとても細かいのも音楽を立体的に聴かせるのによい効果を発揮している。 ことに強弱の表現が音の遠近感となって聞こえてくるのがおもしろいし(音の遠近感ですって!)、全体に高度な技巧に支えられたすっきりとした表現が、このドビュッシーの演奏の特色といえよう。CD『ドビュッシー:ピアノ作品集』 ライナーノーツより 渡邊學而

アレクシス・ワイセンベルク ドビュッシー名曲選

アレクシス・ワイセンベルク ドビュッシー名曲選

ピアニストの個性を教えてくれた、ワイセンベルクの音色

音楽が全人的な存在になる瞬間

YAMAHAであれ、Steinway & Sons であれ、ピアノメーカーの規格は非常に厳しく、手描きの絵皿みたいに「一台、一台、キーの重さも、弦の張り方も違うんです♪」ということはまずない。

中には、専用のピアノを調達してもらう有名ピアニストもあるけれど、それでも基本の規格は同じで、「Aさんのピアノの響板はエゾマツですけど、Bさんの響板は特殊な塗料を加えて、高音がよく響くようにしてるんですよね」ということも、まずない。

ということは、誰が弾いても、同じ音色に聞こえるはずだし、まして、この世にショパンの楽譜は唯一つ。譜面に忠実に弾けば、アルゲリッチが弾こうが、ポリーニが弾こうが、どれも似たり寄ったりで、大差はないはずだ。

でも、実際はそうじゃない。

同じようにSteinway & Sonsのピアノを弾き、同じようにショパンのエチュードを弾いても、同じ演奏は二つとしてなく、100人のピアニストがいれば、100通りのフォルテがあり、クレシェンドがある。

その違いが分かるようになれば、そこに聞こえるのは、もはや「ショパンのエチュード」ではなく、ピアニストそのものだ。

誰もが知っている「あのメロディ」の向こうに、生きた人間の息づかいを感じるようになる。

同じエチュード、同じグリッサンドでも、ある人は雑で、ある人は、天に突き抜けるような高揚感を感じさせる。

それは決して技術の差異ではなく、想像力と美意識の差だ。

右から左に流れる環境音楽と異なり、たった四小節の間にも、ショパンやドビュッシーの楽譜には、表現すべきことがたくさんある。

和音一つにも、解釈の差が如実に現れ、技巧はいまひとつでも、宇宙的な広がりを感じさせる人もある。 

ピアノでありながら、ピアノを超えた「何か」に出会った時、それは「音楽」という枠組みを超えて、音色を含めた全人的な存在になるのである。

そして、恋におちる

私にとって、アレクシス・ワイセンベルクは、そういう存在だ。

どこが、どう、と問われたら、私にも答えようがないのだけれど、初めて耳にした時から、音の透明性に心惹かれずにいられなかった。

しかし、クラシック通に言わせれば、「ワイセンベルクが好き」というのは、なかなか恥ずかしいようだ。(同様の存在に、サックス奏者のガトー・バルビエリがいる)

もしかしたら、「わたし、ヤクザの親分を好きになってしまったの!」と告白するのと同じくらい、リスキーで、孤独なことかもしれない。

もちろん、アレクシス・ワイセンベルクは、盲目のベートーヴェン的な、話題先行型のキワモノではないし、クラシック界の大御所、カラヤン先生にも認められ、名盤と称される録音もちゃっかり残しておられる偉大なお方だから、「ワイセンベルクが好き」と広言したところで、何の問題もないかもしれない。

だが、それ以上に、恥ずかしさの方が上回る、奇妙な存在だ。

「ポリーニが好き」「アルゲリッチが好き」といえば、誰もが納得するのに、「ワイセンベルクが好き」といえば、皆が一斉に振り返る感じ。

そういう怪しさが彼のピアノにはある。

ファンの私でさえ「おいおい」と思うような乱暴な演奏もあって(本当の話です。特にライブ盤)、「一流」「巨匠」と呼ばれる、優等生的な演奏とはかなり毛色が異なるからだ。

魅惑のクリスタル・サウンド

彼のピアノは、一言で言えば『クリスタル』。

光で編み上げたレースのように繊細でありながら、深く斬り込むような鋭さがあり、それが時に、驚くほど、剛胆だったりする。

そのくせ、浮世離れしたような透明感を感じさせ、どれほど俗っぽい弾き方をしても、澱むところがない。

たまに思い出した時だけ、俗人の前に姿を現す仙人みたいに素っ気なく、聴衆はおろか、自分の周りの人間にさえ振り向かないような孤高の世界に生きてはいるけれど、『ドビュッシー名曲集』のように、一音、一音、研ぎ澄まされたような音色を聴いていると、「ワイセンベルクが……」というよりは、我々の側が、惰性との中に生きているような気がするんだな。

ワイセンベルクは、「これからクラシックを聴こう」という人におすすめできるタイプではないけれど、印象派とは何か――絵画性や音の透明感を体験したい方にはぜひ聴いてもらいたいピアニストの一人だ。

関連記事 → 己の美学のままに アレクシス・ワイセンベルクの『ラフマニノフ ピアノソナタ 第二番』

代表作 : 『ドビュッシーの名曲集』より

ワイセンベルクとの出会いは、ドビュッシーの名曲集が始まり。

最初からこだわりがあって購入したわけではない。

たまたま選曲が私の好みだったことと(「ベルガマスク組曲」「子供の領分」「喜びの島」が収録されている)、ケースの帯にかかれた「現代的」という謳い文句に引かれて、手に取った。

その前に、「ドビュッシーを聴くなら、ギーゼキング」「いやいや、やっぱミケランジェリでしょ」みたいな定番があって、私もそれに倣ったけれど、いまいち、私のイメージに合わず、「現代的」を試してみた次第。(ミケランジェリの『沈める寺』は絶品だけども)

聞いて、陶然とした。

光を音にすれば、こんな演奏になる、と。

朝露のようにピュアで、流麗としたドビュッシー。

これが私の探し求めた『Clair de Lune』と確信し、目を閉じては、夜の水面にたゆとう月の光を瞼に浮かべたもの。

ベルガマスク組曲について

ドビュッシーのピアノ曲の中でもとくに人気のある作品のひとつである。初期のころの1890年に作曲されたとされているが、1905年に出版されるまでに15年の月日があり、その間に当然いろいろな改訂が行われたと考えられる。実際この曲を出版したフロモンに宛てたドビュッシーの手紙の中に、この組曲の最初の形のものを手渡すのは馬鹿げているし、無意味なことである、ということが記されている。そうしたことから、この組曲にはいまだにマスネ、フォーレ、サン=サーンスといったフランスの先輩たちの影響を残しながらも、和声や音の響きの点では彼独自の印象主義の彷徨を明確に示しており、その意味で過渡的な作品といえる。

CD『ドビュッシー:ピアノ作品集』 ライナーノーツより 渡邊學而

わけても心惹かれたのが、『組み合わされたアルペジオ』。

指の隙間から、光の粒が零れ落ちるような透明感で、この世のものとは思えぬ美しさだ。

それでいて、超絶技巧が冴え冴えと輝き、決して甘いだけの夢の世界ではない。

このクリスタルのような横顔が、「ワイセンベルク様」と及びしたくなる所以である。

ドビュッシーと言えば、たいがい『月の光』が入り口で、私も例にもれず、子どもの頃から憑かれたように聞いていたのだけども(ちなみに当サイトの最初のホームページ名は『Clair de Lune』)、その次に惹かれたのがこの曲。それも「アレクシス・ワイセンベルク様の演奏に限る」というのが前提。

組み合わされたアルペジオ(≪練習曲集≫第2巻から 第11曲)

1915年の作曲で、ドビュッシーが当時デュラン社からの依頼で行っていた『ショパン全集』の校訂の仕事と無関係ではない。各6曲ずつの2巻、計12曲から成るが、その第11曲<組み合わされたアルペジオ>は、ドビュッシーのもっとも得意とするアルペジオの手法がさまざまな形で繊細に組み合わされ、この≪練習曲集≫の中でもとくに美しい詩情をもっていることで知られる。

CD『ドビュッシー:ピアノ作品集』 ライナーノーツより 渡邊學而

『ワイセンベルク様』とお呼びしたい

ちなみに「ワイセンベルク様」とお呼びしているのは、私だけではないらしい。


ピアノぶらぼー! もっと身近にクラシック より 『ペトルーシュカおすすめ第2弾(のだめアニメ第22話)』

こちらの管理人:ドルチェ様の熱い記事も非常に面白いです。曰く、

こちらも 変態的なくらいのテクニシャンぶり。
おまけに、そこまで裏事情 さらさんでも・・・ って呆れるほど、はっきりくっきり 曲の細部まで見せてくれる演奏です。(ワイセンベルクの場合、この曲に限らずだけど)
もうちょっと、ペダルでぼかしたり、あいまいに弾いてる方のが多いと思うのですが、ここまでやられると、このおじさん変態かも?! と思ってしまいます(爆)。

その変態技が炸裂したのがこちらの映像。
この映像を見たカラヤンが「これを撮影したカメラマンとピアニストを連れてこい」と言ったのが彼らの出会いだとか。(よそ様のブログで読んだ)
※ こちらの映像は下記のDVDに収録されています。

ストラヴィンスキー作曲 『ペトルーシュカ』 から「ロシアの踊り」

ストラヴィンスキー作曲 『ペトルーシュカ』 から「ロシアの踊り」

己の美学のままに : 美しき俺様イズム

ワイセンベルクに対して、好き嫌いがはっきり分かれるのも、「芸人」だか「芸術家」だか境界が曖昧で、「己のために弾いている」という「俺様イズム」がどこか鼻につくからではないだろうか。

王道に縛られず、聴衆に媚びを売ることもなく、ただひたすら己の道を突き進むようなストイックさは、クラシック界のアイドルには無いものだ。

巨匠と呼ばれる人達の演奏に親しみ、「これがクラシック」という自分なりの尺度を持ったリスナーから見れば、ワイセンベルクの超然としたピアニズムは、耳の中に異物がゴロリと転がり込んだみたいに、やかましく、きらきらしすぎて、決して相容れないかもしれない。

しかし、ひとたびその魅力にとらえられると、俺様イズムを突き進むような演奏がこの上ない快感となって胸に響く。

なぜにワイセンベルク?

それは彼のようなピアニストが他にいないからだ。

優等生は他にもたくさんいる。

でも、ワイセンベルクは、この世にあなただけ。

この恋愛じみた興味と磁力に動かされ、明日もまたCDを買ってしまうのだ。

その他の名盤と呼ばれるものには見向きもせず……。

Spotiryでワイセンベルクを聴く

『ドビュッシー名曲集』 ベルガマスク組曲・子供の領分・組み合わされたアルペジオ、他

こちらは欧州Spotifyでリリースされている『ドビュッシー名曲集』。
選曲は日本で流通しているグラモフォン盤と若干異なります。

アレクシス・ワイセンベルク 大全集

欧州のSpotifyでは、『150曲収録・12時間22分』という、アレクシス・ワイセンベルク大全がリリースされています。日本の環境で視聴できるか分かりませんが、とりあえず。
収録曲は、モーツァルト、ショパン、ブラームス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ラヴェル、ムソルグスキー、バッハ……有名どころは全部入ってます。幕の内アレクシス弁当。

ラフマニノフ ピアノ・ソナタ第二番 第二楽章

ラフマニノフの名手と呼ばれるピアニストは、この世にごまんと存在するが、結局、買ったのはワイセンベルク。
甘すぎず、また主張しすぎない哀愁が耳に心地よい。(この点、アシュケナージは激甘なんですよね)

特に第二楽章のアダージョの美しさは白眉のもの。

これ、もう入荷不可になってるんですね。涙が出るほど美しい演奏なのに・・
私がの手持ちのCDも家宝になってしまいました。
YouTubeに上がってます。

ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番 by ユニバーサル ミュージック
 定価  ¥19,800
 中古 6点 & 新品  ¥1,250 から


ラフマニノフ 『前奏曲全集』

他にも名盤と呼ばれるのはいっぱいあるのに、どうしてまたワイセンベルクを買っちゃったんだろー、と、家に帰ってから考え込んだ一枚。
天下のラフマニノフもワイセンベルクの手にかかると、なぜか入り込めなくなるから不思議。
アシュケナージのようなお涙頂戴のラフマニノフもいいけれど、一線引いたようなクールなラフマニノフもまた一興かと。
玄人向きです。

ラフマニノフ:前奏曲全集 by Ariola Japan
 定価  ¥1,628
 中古 17点 & 新品  ¥500 から

ラフマニノフ 『ピアノ協奏曲第三番』

ラフマニノフといえば、カラヤンと共演した『ピアノ協奏曲第二番』が歴史的名盤と言われているようですが、万人向けの演奏とは思いません。めちゃくちゃ、クセがあります。

それより、『ピアノ協奏曲第三番』がなかなかおすすめです。

日本ではバーンスタイン版が有名ですが、欧州Spotifyでは、ジョルジュ・プレートル指揮の録音がリリースされています。

第一楽章の、最初のソロは、『さすがワイセンベルク様』と溜め息が出るほどの「オレ様」ぶりですが、二番目のソロ(映画『Shine』でも有名な、ロマンティックな旋律)は、『さすがワイセンベルク様』とお呼びしたくなるような透明感と抒情性、プラス、指が回りまくる超絶技巧で、聴き応えがあります。(そこまで回さなくていいのに、ついつい回しちゃうんでしょうねえ)

第二楽章のクライマックスもゴージャスで、「哀愁のラフマニノフ」というよりは、「シャンデリア」という感じ。

とにかく、きらきらして、自分なりにラフマニノフのイメージをもっている通の人には、かなり耳障りかも。

リスト『愛の夢』

個人的にヒットしたのは、リストの『愛の夢』。
ワイセンベルク様のリストって、クリスタルのようにシャープかと思っていたら、この演奏は激甘。
夜のひと時に、ぜひ。

ショパン 『ピアノ協奏曲 第一番』(スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ 指揮)

ワイセンベルク様のショパンとか、ちょっと怖くて聴けないんですけど、意外によかったのは、ポーランド出身の指揮者、スタニスワフ・スクロヴァチェフスキのお導きが良かったから……?

ピアノもいいけど、オーケストラが綺麗。
ワイセンベルク様にしては、抑えた感じの演奏で、一音一音、丁寧に弾いてます。(中間部でさりげに派手になるけど)
ソロがけっこう優しい感じに仕上がって、新たな一面を見たような気持ちになります。

三枚組のCDで、ピアノソナタ『第二番&第三番』『幻想ポロネーズ』なども収録。
華麗で可憐なワイセンベルク様のショパンを堪能できます。

録音も非常に上質です。拾いものですね。

アレクシス・ワイセンベルクのDVD

上記の「ペトルーシュカ」が収録されているファン垂涎の輸入物DVD。

収録曲は

1. Igor Stravinsky: Three Movements from Petrushka
2. Sergei Prokofiev: Piano Sonata No.3
3. Alexander Scriabin: Nocturne for the left Hand Op.9 No.2
4. Sergei Rachmaninov: Prelude Op.23 No.6
5. Frédéric Chopin: Piano Sonata No.3 - Largo, Nocturne Op. Posth. In C minor, Étude Op.25 No.7
6. J.S. Bach: Chromatic Fantasy, BWV 903, Partita No.6 - Corrente
7. Johanes Brahms: Piano Concerto No.2

ほほーと唸ってしまうラインナップ。

ちなみに、このサイトから、一度売れたことがあります。
お買い求め下さった方には100年分の愛を差し上げたい。

Alexis Weissenberg: Classic Archive [DVD] [Import]
出演者  Alexis Weissenberg (アーティスト)
監督  
定価  ¥2,285
中古 11点 & 新品  ¥1,934 から

Photo : https://alchetron.com/Alexis-Weissenberg

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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