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映画『エイリアン』と生殖のエロティシズム ~異星人という異物

リドリー・スコットの映画『エイリアン』について
SFスリラーの傑作『エイリアン』には性と生殖のメッセージも込められている。H・R・ギーガーのデザインを中心に、男性生殖器として蠢くエイリアンの不気味さ、胎内への侵入を試みる本能などを映画コラムとして紹介。女性航海士リプリーの真の恐怖とは何なのか、性的なモチーフから読み解く新感覚のレビューです。

18禁コンテンツです。年少者はご注意下さい。グロテスクな映像・動画を含みます。

最後までネタバレします。未見の方はご注意下さい。

目次

【映画レビュー】 エイリアンが象徴するもの

私が初めてリドリー・スコット監督の出世作『エイリアン』を見たのは、映画館ではなく、TV朝日の『日曜洋画劇場』だ。

映画館で鑑賞した友人が、「怖い、怖い」と脅かすので、「たかがSFだろう」と思って見始めたら、フェイスハガーが襲いかかる場面で息を呑み、チェストバスターで完全にフリーズして、ブラウン管の前で凍り付いた数少ない作品の一つである。(ちなみに、夜も眠れないほど恐ろしかったのは『エクソシスト』 関連記事 →悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる / 映画『エクソシスト』

一般に、『エイリアン』といえば、グチュグチュ、ニュルニュルの、不気味な異星人が、宇宙船のクルーに次々に襲いかかる、SFホラーの金字塔であるが、一方で、エイリアンをデザインした、H・R・ギーガーの芸術を味わう作品でもある。

http://www.hrgiger.com/

エイリアンの造形

その流れで、いろんな記事に目を通していると、H・G・ギーガーの作品の根底にあるのは『性』や『生殖』であり、エイリアンもそれを受け継いでいるという一文があり、(なるほど)と納得いったものだ。――ちなみに、この出典は、映画誌だったか、レビューサイトだったか、まったく記憶にない。

エイリアン=女性器にとっての異物と考えるなら、この作品のまったく新しい側面が見えてくるからである。

*

まず、この映画の見どころは、「光」(特にフラッシュ)の使い方が絶妙という点だ。

『エイリアン』に並ぶ、リドリー・スコット監督の代表作『ブレードランナー』もそうだが、光の角度、フラッシュのタイミング、青みがかった閃光、どれをとっても映画人らしい創造性に溢れている。

当時はそこまで映像技術が発達してなかったので、『照明器具(ライト)』を用いる以外になかったのだろう。

何でもCG処理する近年のヒット作と異なり、幾多の照明器具を使って、オン・オフ・オン・オフ・・・を繰り返す様子が、かえってリアリティを感じさせる。

なぜなら、宇宙船ノストロモ号の乗組員たちも、実際に、通路の照明が点いたり、消えたりする、パニック状態の中で、逃げ惑うからだ。

また、この作品は、あえて大スターを起用せず、「誰がいつ死んでもおかしくない」状況を作り出している。

シルベスタ・スタローンやトム・クルーズのような大スターが出演すれば、誰が最後まで生き残るか、ポスターを見ただけで分かってしまうからだ。

ところが、本作は、いわゆるアクションスターが登場しないので、まったく物語の先が読めない。

まあ、船長は生き残るだろうと思っていたら、それも外れて、次々にエイリアンの餌食となる。

当時、シガーニー・ウィーバーも、そこまで名の知れた役者ではなかったから、もしかして、全員皆殺し? という恐怖が、エンドロールまで延々と続くのが、本作のポイントだ。

実際、シナリオは幾通りもあって、「全員皆殺し。エイリアンは猫に寄生して、そのまま地球に直行する」「リプリーと船長が生き残る」「リプリーだけが生き残る」、等々。最後まで協議が続いたそうだが、さすがに皆殺しはないだろう、という話になり、リプリーだけが生き残るエンディングになった……とTVロードショーで解説していた記憶がある。

何にせよ、皆殺しの緊張感を最後まで引っ張る手法は見事という他ないし、一人生き残ったリプリー二等航海士=シガーニー・ウィーバーが、従来のヒロイン像に革命をもたらし、続く『エイリアン2』で“闘う女”の造形を不動のものにして、80年代を牽引する「強い女性」の象徴となったのも印象深い。(関連記事 → 女は強く、賢く ヒロインの源泉 ~リプリーからワンダーウーマンまで

ところで、エイリアンと言えば、『フェイスハガー』と呼ばれるカブトガニのような媒体が人面に張り付き、細長い送卵官を人体の奥深くに差し込んで、幼虫を植え付け、成長した『チェストバスター』が人間の腹を食い破って出てくる誕生シーンが有名だが、このチェストバスターのデザインは、男性の性器、もしくは胎児を表しているという説があるそうだ。

クルーが卵を発見する

人面に張り付く

チェストバスター

※ YouTubeはこちら Alien (1979) - Chestburster Scene (2/5) | Movieclips

そう考えれば、女性であるリプリーとエイリアンの対決にも納得がいく。

何故なら、エイリアンの寄生=女性器への侵入に他ならないからだ。

クルーが次々に命を落とす中、やっとの思いで宇宙船ノストロモ号を脱出し、小型シャトルで一息つくも束の間。

既に、シャトル内にはエイリアンが乗り込んでおり、着替えを済ませたリプリーに襲いかかる。

着替えを済ませたリプリー

すでにエイリアンが乗り込んでいた

この場面、当初は全裸の予定だったが、最低限の下着は着ける演出になったそう(TVロードショーの解説で記憶あり)

しかし、わずかな下着を身につけることによって、かえって女性の無防備が強調され、余計で恐怖が増したように思う。

この場面の恐怖感には、二種類ある。

一つは、生物としての身の危険。

もう一つは、レイプに近い恐怖だ。

上述の通り、エイリアンは、人間の体内に幼虫を植え付け、幼虫は成長してチェストバスターとなり、人間の胎を食い破って、誕生する。

これは女性にとって、性行為を想起させる。

何故なら、エイリアン誕生のプロセスは、男性器の侵入 → 射精 → 妊娠 に他ならないからだ。

ゆえに、リプリーは、エイリアンの侵入を許すまいと、懸命に闘う。

大人になってから見返すと、この場面が、女性 VS レイプ魔に見えるのは、制作側に意図するものがあるからだろう。

エイリアンの、ぬめぬめした外見は、リドリー・スコット監督いわく「悪夢を形にしたような」と言われているが、H・G・ギーガーのコンセプトを見る限り、やはり女性の胎内に侵入を試みる男性器の象徴に他ならないのである。

エイリアンを駆逐し、白雪姫のように眠りに就くリプリー。

この姿は処女性の象徴でもある。

彼女はエイリアン=男性器の侵入から身を守ったのだから。

安らかな眠りに就くリプリー

【コラム】 生殖とエロティシズム

人間社会におけるエロティシズムには二種類ある。

一つは、性愛や官能を意味するエロティシズム。

もう一つは、生殖に繋がるエロティシズム。

どちらも人間の性に根ざした、真実の姿だ。

そして、H・G・ギーガーのデザインには『生殖』という、生命の根源に繋がる美しさと力強さが感じられる。

ぬめぬめ、べちょべちょとした、ダークな外見の内側に、受精、妊娠、出産、増殖に至る、荒々しいまでの本能が、生き生きと息づいているからだ。

実際、クルーを監視する為に送り込まれたアンドロイドのアッシュは、エイリアンを慈悲も温もりもない『完璧な生命体』と褒め称え、人間に生き残る術はないと説く。

ロボットのアッシュ

即ち、生命の本質とは『自己複製』であり、自らが生き延びる為なら、他の生物を犠牲にすることも厭わない。

我々、人間だって、生きる為に植物の根を土中から引き抜き、動物を屠って、その肉を口にする。

寿司や唐揚げを口にする度に、そこで流された血について、思い巡らす人もないだろう。

ただただ、美味い。

その一言である。

つまり、生物が「生きる」ということは、それほどまでに荒々しく、利己的なものである。

かろうじて、獣と人間を区別するものは、他人に対する思いやりであり、極限下でも、親子や仲間同士、一個のパンを分け合って食べる行為は、その最たるものだ。

それは生殖においても同様で、パートナーに対する配慮を欠いた性行為は利己的な暴力以外の何ものでもなく、問答無用で宇宙に吹っ飛ばされる所以である。

映画『エイリアン』に漂うエロティシズムは、他人(異性)の体内に侵入するという生殖行為であり、ある意味、宇宙船ノストロモ号は、女性の胎内を象徴しているとも言える。

リプリーの闘いは、いわば「母胎への侵入者に対する抵抗」であり、真に守られたのは、彼女の肉体ではなく、操である。

エイリアン以後、女性はいっそう強くなることを己に課し、多くのものを勝ち取ってきた。

その影で、宇宙の彼方に吹っ飛ばされた男性も数知れず、侵入に失敗したエイリアンは、生身の性行為にも飽き、ヴァーチャル、もしくはラブドールに舵を切りつつある。

それでも、性暴力がなくなることはない。

何故なら、生殖の本能は、エイリアンのように利己的で、理性や正論よりも、はるかに強烈だからである。

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エイリアンは1と2だけ見たら十分。
ジェームズ・キャメロンの手がけた第二作は、世界で最も成功した続編の一つに数えられています。

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ちなみに私は1988年 TBS 鈴木弘子版 の大ファンです。
鈴木版は、女戦士バスケスの吹替が山田栄子=岬太郎(キャプテン翼)で、あの可愛い声で「ぶっとばされたいのかい!」「やっちまえ!」とか、お叫びになるのが何とも感慨深いです。

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