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アンドレ・ワッツのピアノ・リサイタルに寄せて / ラフマニノフピアノ協奏曲とリスト名曲集

アンドレ・ワッツのピアノリサイタル
今、思い返しても、本当に「ピアノの脚が持ち上がる」ようでした。
いや、本当に、持ち上がってたと思う。
正直、演奏というのは技術うんぬんじゃなくて、オーラですよ。
ライブは特に。
私もいろんな演奏会に足を運んだけれど、
後にも先にも、ワッツ氏&京都市交響楽団(井上道義・指揮)のステージに優るものはなかったです。

追記:2013年

目次

【音楽コラム】 ワッツとラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番

私がアンドレ・ワッツ氏を知ったのは高校生の時。
京都市交響楽団が青少年を対象に、当時としては破格の安さで開催されたクラシック・コンサートにおいて、メイン・プログラムの『ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番』のピアニストを務めたのがワッツ氏だったのだ。(1席=2000円と記憶)

「ラフマニノフの二番」と言えば、耳が腐るほど聴き続けた名曲中の名曲だし、リヒテルの歴史的名演で名高いレコードも繰り返し耳にした。
正直、あれ以上のものはあり得ないと思っていたし、後にも先にも、「ピアニストと言えば、やっぱリヒテルでしょー」みたいな思い込みもあって(他にも優れたピアニストはたくさんいるのだが、幼少時に聴いたリヒテルの印象があまりに強烈だった)、アンドレ・ワッツ氏がラフマニノフを弾くと聞いた時は、「誰、それ? 青少年向けの格安コンサートに呼び出される、三流ピアニスト?」なんて酷いことを考えたりもした。

しかし。

あの夜、アンドレ・ワッツが弾いたラフマニノフの第二番は、まさに炎だった。

コンサートで「鳥肌が立つ」ほどの激しい昂揚感を覚えたのは、後にも先にも、ワッツ氏のラフマニノフだけだ。

ゾウのように大きな黒いグランドピアノが、彼の二本の手の中で、まるで雷に打たれたみたいに揺れるのを何度も見たし(本当の話です)、疾風のようなスケールに圧倒されて、皆が音の渦に呑み込まれる様も感じた。

あの夜は、ピアニストとオーケストラはもちろん、それこそ会場中が一体と化して、壮麗なラフマニノフの世界に「本当に」酔いしれたのである。

あれから、国内外の一流どころも含めて、ラフマニノフの第二番はコンサートで何度も聴いたけど、あれほど会場を湧かせた演奏に、ついにお目にかかることはなかった。大家と呼ばれる人の演奏でさえ、鳥肌が立つほどの高揚感はなかった。

評論家に言わせれば、歴史的名演を残すような世界の巨匠に比べて、ワッツはその足元で淡々と自分のピアノを弾き続けるような亜流の存在なのかもしれない。

でも、「一流」とか「巨匠」とかいうタイトルは誰が決めるのだろう。

時には、それに属さぬ人が、生涯忘れ得ぬような名演を残すことだってあるはずだ。

あの夜のワッツは本当に神がかっていたし、あれほどの演奏を2千円ポッキリで聴けた私もなんと幸福だったのかと思う。

ピアノは、ピアニストだけのものじゃない。

上手く言えないけれど、そんなことを教えてくれたアンドレ・ワッツ氏なのである。

【音楽の友より】 アンドレ・ワッツのリサイタルに寄せて

九月にアンドレ・ワッツ氏のピアノリサイタルを聞きに行った。
一曲目は、私も練習したことのあるモーツァルトのソナタだった。
彼の演奏を聞きながら、ああ、この曲、こんなにきれいな曲だったんだ、と初めて思った。

ピアノの先生は、いつもベートーヴェンは姉に弾かせ、私にはモーツァルトを弾かせた。
姉がダイナミックにベートーヴェンのソナタを弾きこなすのを傍らで聞きながら、私は何度モーツァルトに舌を出したかわからない。
ただ楽譜を追いかけるだけで、弾くほどに嫌になった。
それでも私の指にはモーツァルトの方が合っているからと、根気よく弾かせようとする先生のことまで嫌になっていった。

いやいや、だらだら弾くものだから、上達できるわけがない。
そのうち私はモーツァルトにもピアノにも嫌われて、しまいには自在に指を動かすこともできなくなってしまった。自分の練習不足をたなにあげ、癇癪を起こした私は、とうとう弾くことをやめてしまったのだ。(本当に情けないことに)

ワッツ氏のモーツァルトはきれいだった。
その響きを聞きながら、私は胸が痛いくらい思った。
どうしてもっと努力しなかったのだろう。
そうすればこの美しさにも気付けただろうに、と。

涙があふれそうになるのを必死にこらえながら、私は夢中で彼に拍手を送った。
もう弾くことはできなくても、音楽の美しさに感動できる心をいつまでも持ち続けられるように、と祈りながら。

1998年『音楽の友』に掲載されたものを補筆しました。

【YouTube】 アンドレ・ワッツの演奏

ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第二番
ズービン・メータ指揮、ニューヨーク・フィルハーモニー・管弦楽団(1988年)

年代的には、怒濤の京都市交響楽団から数年後ですね。
私も正確に記憶してないので、頼りないことですが・・。
でも、これぐらいの年齢でした。遠目にも黒目黒髪の、精悍な容姿がはっきりと分かりましたから。

あー、でも、この最初の低音。
これこれ。ズコーンと腹にくるような響き。
あの時の興奮を思い出します。
ワッツさんは、とにかく、音が太いんですね。
指が強いんだと思います。
私なんか、ここまで深く指が入りませんでしたもの(当然のことながら)
手も大きいですし。

それでいて、モーツァルトはすごくプリティで、だから余計で新鮮に感じたんですよね。

でも、この動画でも分かるけど、一音一音が丁寧でしょ。
パートによって、感じがまったく異なるし。

私の苦手なラフマニノフは、「最初から最後までリリカル」「最初から最後までパッション」みたいに、メリハリのない演奏なんですよね。

しかし、ニューヨーク・フィルのピアノは持ち上がらんね。
やっぱ、ビッグアップル?
京都会館のYAMAHAは10キロぐらい、ウェイトが軽かったのかもしれないね^^;

いや、ほんまに、マジで揺れてたんですって。
第三楽章のクライマックスなんて、ワッツさんも、ほとんど腰が浮き上がってましたから。

ちなみに、あの時の指揮者は、井上道義さんです。

で、井上さんも、指揮台の上で飛んでたし。

いやもう、ほんと、何度思い返しても、すごいものを聴かせてもらったと。本当に一生の思い出ですよ。

こちらは私が繰り返し聞いているアンドレ・ワッツの『ラ・カンパネラ』。
他にも名演と呼ばれるものはたくさんあるのだが、結局、この演奏に落ち着いてしまう。
Amazonのレビューにもあるように、一音一音が丁寧で、水面に跳ねる光のよう。
一見、技巧派に見えて、それをひけらかさないところがワッツの魅力かも。

CDとSpotify紹介

ピアノ協奏曲第二番の録音はなくて、第三番(小澤征爾・指揮 & ニューヨーク・フィル)のCDがあるんですね。
三番は意外とスウィート系。
小澤さんの趣味かしら??
第一楽章のソロが、けっこう緩急が大きくて、こういう弾き方をするピアニストも珍しいんじゃないかしら。

こちらは、チャイコフスキー ピアノ協奏曲 & サン・サーンスのピアノ協奏曲 のカップリング。

CD11枚組(8時間)のコンプリート・アルバムもあります。凄い。

ワッツ氏の十八番ともいうべき、リストの『ラ・カンパネラ』はこちら。

リスト:ピアノ名曲集 by ユニバーサル ミュージック (e)
 定価  ¥1,257
 中古 10点 & 新品  ¥781 から

リストの名演と言えば、リスト直系に弟子と言われるホルヘ・ボレット、クラウディオ・アラウ、ウラジミール・アシュケナージなど、世界の大家が名を連ねているが、結局、私が飽きずに聞いているのといえば、アンドレ・ワッツ氏のリスト名曲集。
レビューでもあるように、技巧に走りがちなリストの難曲を一つ一つ丁寧に弾きあげる誠実なピアニズムに心を惹きつけられる。
フジ子・ヘミングさんもそうだけど、「この人に弾けないリスト」を味わうなら、大家には数えられないけれど、ワッツ氏のリストがお薦め。選曲もいい。
「パガニーニによる大練習曲」~第3曲嬰ト短調“ラ・カンパネラ”
第5曲ホ長調“狩”
調性のないバガテル
「3つの演奏会用練習曲」~溜息
など、全12曲。

初稿 2010年5月2日

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