生物冶金と新技術の意義 世界に可能性を知らしめる

金属成分を凝集する微生物と生物冶金(バイオリーチング) 技術の可能性を世界に知らしめる

生物冶金と新技術の意義 世界に可能性を知らしめる

鉱物資源は技術と社会を変える

人類の歴史は常に新技術と共にありました。原始的な石器に始まり、青銅、鉄、火薬、蒸気、電気、通信、原子力と、新しい技術が世に送り出される度に世界の構図も変わり、現代も百年前からは考えられないような情勢にあります。ある意味、技術というのは、富や権力にも勝るパワーであり、不可能が可能になる時、世界もその手の下にひれ伏すのかもしれません。

このパートでは、ファルコン・グループの一党支配に風穴を開けるべく、海底鉱物資源の採掘事業に乗り出した本当の動機が描かれています。

地下深く坑道を掘り進め、貧しい労働者を投入し、原始的なやり方でレアメタルを採掘しなくても、完全自動化された採鉱プラットフォームで海底鉱物資源を回収し、これまでとは違った方法で製錬する。その新たな手法を世界に示すこと自体が目的であり、それが広く実用化されて、「ニムロディウムの採掘→精製」のプロセスがファルコン・グループの独壇場でなくなれば、世界の構図も変わる……というわけです。

実際、石油の価値も、20世紀とは変わりつつありますし、それがいよいよ本格化すれば、中東をはじめとする世界情勢も大きく変化するでしょう。

未来世紀、今度は宇宙植民地で鉱物資源の採掘が始まれば、「世界」とか「国際」とかいう概念自体も大きく変質し、いよいよボーダーレス、そして、上下の格差が顕著な映画『エリジウム』の世界観に突入するのではないでしょうか。(マット・ディモン主演の映画。近未来では、富裕層は『エリジウム』と呼ばれる美麗な人工衛星都市に暮らし、下層民は荒れ果てた地上で搾取されながら生きていく)

関連のあるエピソード → 宇宙文明を支える鉱物資源 ~なぜ採鉱システムの技術革新が必要なのか

【小説の抜粋】 製錬所の見学 ~収益よりも技術を世界に知らしめる

稀代の経営者と名高いアル・マクダエルの娘、リズは、ニムロイド鉱石の製錬所を訪れ、ニムロディウムの抽出に生物冶金の技術が活かされていることを工場長から聞かされる。

海底鉱物資源の採鉱システムの開発に成功し、順風満帆に見えたが、採掘された鉱石から純粋なニムロディウムを抽出するには、まだまだ技術的困難と経済的な課題が伴う為、決して手放しに喜べる状況ではない。

しかし、父の狙いは、ニムロイド鉱石の採掘で大儲けすることではなく、絶対不可能と言われた海底鉱物資源の採鉱システムを完成させ、最先端の生物冶金を駆使して、より安全で、より安価な高純度ニムロディウムを市場に送り込み、技術の可能性を世界に知らしめることにあると納得する場面。

このパートは『海洋小説『曙光』(第三章・海洋情報ネットワーク)』の抜粋です。
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【リファレンス】 金属成分を凝集する微生物

「金塊を生み出す微生物」が見つかる:研究結果 WIRED でも紹介されているように、ある種の微生物は、生命活動の結果として、鉱物に含まれた金属成分を還元したり、濃縮したりする機能を有します。

現代文明を支える鉄鉱石の鉱床、『縞状鉄鉱床』も、海中に溶け込んだ大量の鉄イオンを、古代の微生物が数億年かけて酸化して作り上げたもので、ある意味、世界最大の生物冶金みたいなものです。

実際、微生物を利用した生物冶金は一部で実用化されており、有害な物質を排出せず、より自然に近い形で還元や濃縮のプロセスを可能にすることから、今後ますます需要が高まると思われます。

微生物1個が濃縮できる量など、たかが知れていますが、環境さえ整えば、どんどん増殖して、無限に働いてくれるので、使い勝手のいい労働者ですね。ノー・コンプレイン、ノー・インシュアランス。

【リファレンス】 生物冶金(バイオリーチング)について

『海台クラストの生物冶金』の元ネタはたくさんあります。実際に、生物冶金(バイオリーチング)は、鉱業の世界で実用化されていますし、鉱業でなくても、微生物を使った還元や分解はリサイクルなどの分野で応用が広がっています。

バクテリアを使った低品位銅鉱石からの生産技術開発(石油天然ガス・金属資源開発機構)

バイオリーチングの説明あり。バクテリアを使って、効率よく金属を溶かし出す。
小さな怪物! 金属資源とバクテリア(同上)

近年では、金のウンコをする微生物の存在が話題になりました。金塊を生み出すというよりは、生命活動の結果として、体内に金を濃縮する生物がいるということです。

「金塊を生み出す微生物」が見つかる:研究結果 WIRED

あらゆる元素と同じように、金は微生物の反応サイクルのなかで、絶えずつくり変えられている。だがある微生物は、金が含まれた鉱石から金を溶かし出し、純金の小さな金塊へと濃縮することができる。

「自然界では、金は生物地球化学的な風化作用によって、地表や堆積物、水路の中に入り込み、それから海に行き着きます」。研究の著者のひとり、フランク・リースは言う。「しかし、なかには金を溶かし出し、濃縮させる微生物がいます」

しかも、これは金に限ったことではなく、鉄、マンガン、銅など、あらゆる鉱物が微生物によって還元されたり、濃縮されたり。鉱物も微生物も、全てが一体となって、地球というシステムを作り上げているのです。

現代文明を支える鉄鉱石の鉱床、『縞状鉄鉱床』も、海中に溶け込んだ大量の鉄イオンを、古代の微生物が数億年かけて酸化して作り上げたもので、ある意味、世界最大の生物冶金みたいなものです。

詳しくは下記のURLを参照して下さい。

ストロマトライトの存在と縞状鉄鉱床の生成

鉄鉱石って、何? その生い立ちに迫る by 新日鉄住金(PDF)

こちらは縞状鉄鉱床の生成をテーマにしたミニビデオ。

人間も、腸内に3万種類、約2キロほどの微生物を持っています。乳酸菌とか、ビフィズス菌とか。

彼らも人間の生命活動に欠かせない存在です。

地上にあるものは、全て微生物と共存しており、人間も、厳密には、単体ではなく、複合体です。

どれを欠けても地球のシステムは成り立たず、このように複雑な生命の連鎖が自然に作り出された事自体が奇跡なんですよね。

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生物冶金に絡むお話です。 私も子供の頃――といっても、中学一年生の時ですが――自分の目で微生物を観察したいと思い、川の水を汲んできて、ガラス瓶に入れ、日当たりのいい場所に置いて、培養したことがありました。 その頃、600倍まで拡[…]

微生物と顕微鏡の倍率
海洋小説 《曙光》 MORGENROOD 『上巻』
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稀少金属『ニムロディウム』の発見により、宇宙開発技術は劇的に向上するが、世界最大のニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社の手に落ちたことから一党支配が始まる。 海底鉱物資源の採掘を目指すアル・マクダエルと潜水艇パイロットのヴァルター・フォーゲルとの出会い、採鉱プラットフォーム、治水と復興ボランティア、海洋情報ネットワークのエピソードを収録。

シンガーソングライターの小椋佳は定年まで銀行員を勤め上げた。
人の心に触れる曲を作るには、人間社会との関わりが不可欠であることを知っていたからだ。
売れっ子でも、だんだん作品がつまらなくなるのは、内輪の世界に閉じてしまうから。
パートやボランティアや結婚生活等で人間社会の勉強を続けているアーティストは長続きする。

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海洋小説『曙光』MORGENROOD

宇宙文明の根幹を支える稀少金属『ニムロディウム』をめぐる企業と海洋社会の攻防を描く人間ドラマ。生き道を見失った潜水艇パイロットと、運命を握る娘の恋を通して仕事・人生・社会について問いかける異色の海洋小説です。
Kindle Unlimitedで公開中。冒頭部の無料PDFもあり。

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