ショートヘアのきっかけはハル・ベリー
私はずいぶん長い間、ばかの一つ覚えみたいにストレートのミディアム・ボブで通してきました。
薄毛の絶壁なので、それしか決めようがないというのが大きな理由です。
しかしながら、二人目を産んだ頃から、一本、二本と抜け始め、だんだん頭がオバQに。
このままでは本当に後頭部が禿げてしまうと恐怖を感じ、ずっと憧れだったベリーショートにすることを決心。
その勇気をもらったのが、ハル・ベリーでした。
ベリーショートでも、このセクシーさ。
顔は全然違うけども、ベリーショートでも、こんなに色っぽく決まるなら、いいんじゃないかな、と。
Photo:http://www.biography.com/people/halle-berry-9542339
女の変容(メタモルフォーゼ)
映画『キャットウーマン』は、XーMENシリーズで人気を不動にしたハル・ベリーを主演に迎え、2004年に制作されました。
魅力的な作品にもかかわらず、興行的には振るわず、作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞の4部門でラジー賞を受賞。
それでも、ハル・ベリーは授賞式に出席し、ユーモラスに対応して、女優としての評価をいっそう高めました。
多分、黒いピチピチのコスチュームがファンのイメージに合わなかったのかもしれません^^;
しかし、ハル・ベリーの『キャットウーマン』の魅力は、アクションではなく、物語にあります。
アメリカン・コミックのキャラクターではなく、女性の変容(メタモルフォーゼ)をテーマにした成長物語なんですね。
若くて才能のあるグラフィックデザイナー、ペイシェンス(ハル・ベリー)は、高収入にひかれて化粧品会社「ヘデア社」に就職します。
でも、最初に志した「芸術の創作」とはまったくかけ離れた世界で、ひたすら化粧品のCMを作る日々。
いったい何のために学び、働いているのか、自分を見失っていきます。
そんな彼女の心の支えは、同僚のサリー。
サリーは社員の特権で発売前の美容クリーム『ビューリン』を手に入れ、スキンケアに夢中。
一方、ヘデア社のジョージ・ヘデアは『ビューリン』のプロモーションを強硬に推し進めます。
長年ヘデア社のイメージモデルを務めてきた妻のローレルを差し置いて、新しいモデルの登用を決めます。
(こんな所にMATRIXのメロビンジアン様が・・いかにもセコそうな悪役を演じさせると秀逸)
プライドを傷つけられ、密かに夫への復讐を誓う妻のローレルを演じるのは、元祖セクシー女優のシャロン・ストーン。ここでは「悪い老け役」に徹し、ハル・ベリーを引き立てます。
自分の看板は下ろされ、自分よりもっと若くて美しいモデルに取って代わられた悔しさと哀しさ。
ある日、ペイシェンスはアパートの高所に取り残された猫を助けようと、外壁をよじ登ります。
そこにたまたま通りかかったトム・ローン刑事が、自殺と勘違いし、必死の説得を試みます。
ベンジャミン・ブラットは私の大好きな俳優さん。超ハンサムではないけれど、優しい気持ちが満面に溢れているでしょう。こういう人がいいのよ😍
二人はたちまち恋仲に。
照れ笑いするハル・ベリーがとってもキュート♪
作品を提出しようと、夜遅くに会社を訪れたペイシェンスは、美容クリーム『ビューリン』の恐るべき副作用を知ります。
その為に殺し屋に追われ、排水口から外に投げ出されて命を落とします。
そこに現れたのが、先日助けた猫のミッドナイト。
不思議な猫の魔力により、『キャットウーマン』として蘇ります。
猫のもつ奔放さや勝ち気を授かったペイシェンスは別人のように強くなり、文句を付けに来た社長にも堂々と口答え。
今まで内気で恋人もできなかったのに、トムに対しても積極的。
バスケットボールのシーンは、激しいプレーを通して、二人の気持ちが高まる様子を素敵に演出しています。
さらにパワーがみなぎるペイシェンスは、だらしなく伸びた髪をささっとカット。
女の子が変身する時はヘアスタイルから! の王道ですね。
以前は恥ずかしくて到底着られなかったレザースーツに身を包み、バイクにまたがって、夜の町を疾走します。
この辺りはXーMENなノリ。
スタイルがいいからバイクにまたがっても似合う。
「女は、欲しいと思ったものは、必ず手に入れる」のノリで宝石店に押し入り、先に強盗に入っていた男どもを猫のようにやっつけて、大量のジュエリーを独り占めします。
が、その為に、宝石泥棒としてトムに追われることになります。
朝になって我に返り、何か大変な事が身に起きていると悟ったペイシェンスは、ミッドナイトの飼い主である謎の夫人を訪ね、古代より選ばれし女性に魔力を与えてきたエジプトの猫神「マオ・キャット」の存在を知ります。
猫神は「女性の二面性」を象徴し、従順でいて攻撃的、愛情深く、かつ残忍。
「キャットウーマンは社会の掟に縛られない、欲望のままに生きるの。それは幸いでもあり、災いでもある。いつも孤独で誤解される存在よ。でも、他の女性が知らない自由を味わえる」
「運命を受け入れなさい。これまでは囚われの人生だったけど、新たな自分を丸ごと受け入れることで、自由になれるの。自由は力よ」
キャットウーマンである自分を受け入れたペイシェンスは、ヘデア社の陰謀を明らかにする為に立ち上がる。
だが、その為に、トムと争うことに。このあたりのやり取りは、北条司の『キャッツアイ』みたい。
追う者と追われる者のシチュエーションが恋の駆け引きみたい。
そして、ついにローレル・ヘデアの屋敷に潜り込み、陰謀の証拠を掴みますが、逆に罠にはまり、ペイシェンスとして逮捕されてしまいます。
老いを恐れるローレルもまた『ビューリン』の虜。この化粧のシーンも鬼気迫るものがあります。
留置所に入れられ絶体絶命。そんな彼女の元にミッドナイトが訪れます。
鉄格子の向こうに見えるのは『THE MIRACLE BEGINS』(奇跡が始まる)のキャッチコピー。
このままでは恐ろしい副作用をもつ美容クリーム『ビューリン』が市場に出回り、多くの女性が犠牲になってしまう。
意を決したペイシェンスは自らの力を信じ、留置所から抜け出して、再びキャットウーマンとしてローレル・ヘデアと対峙します。
美人女優のシャロン・ストーンが、ここではボコボコにやられる役柄を熱演。
女優根性を見た気がします。
そんなローレル・ヘデアもまた美容業界の犠牲者でした。
常に若さと美しさを求める市場に理性を狂わされ、人間としての良心まで失っていたのです。
美容業界こそ女の敵
この作品には二つのテーマがあります。
それはキャットウーマンの変身を通して、女性の変容を描いている点。
もう一つは、女性を手助けする美容業界こそが、女性を追い詰めるという皮肉です。
キャットウーマンの敵を「化粧品会社」に設定したのも、その現れでしょう。
ローレル・ヘデアの焦りと嫉妬が物語るように、美容業界や化粧品会社が謳う「若く、美しく」は必ずしも女性を幸せにしません。
むしろ、「若く、美しく」が強迫観念のように刷り込まれ、化粧品や美容用品の安全性も確かめず、あれもこれも買い集めたり、べたべたと顔や身体に塗りたくったり。
その結果、化学薬品の副作用で肌が荒れたり、体調不良になっても、まだそれを認めようとせず、肌が荒れたら、また別のクリームをすり込むという、二重、三重の過ちを犯していませんか。
猫神の秘密を知る謎の女性はペイシェンスに言います。
「自由になりなさい」。
それは「こうあるべき」という固定観念からも自由であれ、という意味です。
女性はどうしても「若くなければ」「美しくなければ」と思い込むし、自分で「私はこういう女の子だ」と決めつけて、その枠からはみ出すことを恐れます。
でも、それは留置所に入れられたペイシェンスと同じ。
自分で自分を縛って、思い込みの留置所の中で小さくうずくまっているようなものです。
そうではなく、思い込みの鉄格子から抜けだそう。
あなたはきっとそれが出来るはず、というメッセージが『THE MIRACLE BIGINS』。
女性にとって本当の奇跡とは、自分で自分の殻を破って、新しい一歩を踏み出すことなんですね。
映画のラストシーン、ペイシェンスは、本当の自分自身を知り、それを自分自身に許します。
その為に何かを失ったとしても、それはそれ。
明日に踏み出せば、また新しい出会いがある。
そうして、様々に姿を変えながら、タフに、しなやかに、この社会を生き抜こう。
それが『キャットウーマン』のメッセージだと思います。
出来損ないのアクション映画と言われたら、確かにその通りかもしれないけども、それだけで済ますには惜しい魅力があるのもまた事実。ホントにつまらなければ、シャロン・ストーンだって、こんな老けた汚れ役を引き受けたりしないでしょう。(老け役といっても、十分に綺麗ですけど)
結果的にラジー賞になりましたが、私の中では上位に位置付けられる作品です。
ハル・ベリーやシャロン・ストーンのファンには、ぜひ見て頂きたい一本です(^^)
こちらのトリビュートもよく出来ています。
なんでラジー賞なのでしょう。
猫のコスチュームがアレなのか、脚本が少女漫画チックだからか、あまりに評価が低すぎるような。
ハル・ベリーも魅力的だし、ストーリーもスピード感があって、とても見やすい作品なんですけどね^^;