青春と革命は相性がいい 三好徹『チェ・ゲバラ伝』より

青春と革命は相性がいい。

大義があれば道は正当化され、迷いには答えが与えられる。

社会への疑念。

大人への不満。

報われぬ努力。

満たされぬ自我。

そこに誰が倒しても納得の相手、この世に存在する価値も無い下劣な敵が存在すれば、人生の道筋は非常に分かりやすいものになる。

すべての革命がルサンチマンを基礎にしているとはいわないけれど、若いエネルギーを吸い込みやすいのは事実だと思う。

*

私がチェ・ゲバラの自伝を読んだのは、The Boomの宮沢和史さんの楽曲「ゲバラとエビータのためのタンゴ」を聴いたのがきっかけだ。

そういえば『チェ・ゲバラ』という人がいたな。

確か、しりあがり寿さんが『ゲバラちえ子の革命的日常』というマンガを婦人誌に連載していたような……。(さびれた喫茶店でスパゲティ・ナポリタンを食べるエピソードが印象に残ってまス)

という微かな記憶を頼りにネットサーフィンしてみると、出てくる出てくる、熱心なゲバラ・ファンのウェブサイト。

実際にキューバまで行って、ゲバラゆかりの地を訪れたり、モニュメントの前で記念撮影をしたり。

それで少し自分でも読んでみようと購入したのが次の二冊。

ゲバラ・ファンには無言で通じる代表的な著作です。

読めば、100%、バナナに対する見方が変わります。(あの甘いフルーツにこんな苦い歴史があったとは・・)

 増補版 チェ・ゲバラ伝 (文春文庫) (文庫)
 著者  三好 徹 (著)
 定価  ¥957
 中古 44点 & 新品  ¥327 から

チェ・ゲバラはもちろん、キューバ革命や米ソ冷戦下の南米情勢など、当時の社会背景も分かりやすく解説されています。誰もがおすすめするスタンダードな一冊。

 チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫) (文庫)
 著者  戸井 十月 (著)
 定価  ¥594
 中古 54点 & 新品  ¥1 から

カスタマー・レビューにもある通り、作者の戸井十月さんの想いがいっぱいに詰まった、ロマンティックな印象の伝記。ゲバラの生い立ち、フィデル・カストロとの出会い、恋と結婚、キューバ革命に参加した動機、革命の信念など、丁寧に描かれています。

ある日、死んだ場合には、誰に報せたらよいか、と訊かれたことがあった。そして、そういう現実の可能性に、ぼくらはみなうちのめされてしまった。その後ぼくらは、それがあり得たことで、革命においては──それが真の革命であれば──人は勝利を得るか死ぬかだということを学んだのだ。多くの同志が勝利にいたる道程で倒れてしまった。

--

いま世界のほかの国が、ぼくのささやかな力添えを望んでいる。きみはキューバの責任者だからできないが、ぼくにはそれができる。別れの時がきてしまったのだ。

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もし異国の空の下で最期の時を迎えるようなことがあれば、ぼくの最期の想いは、この国の人々に、とくにきみに馳せるだろう。きみのあたえてくれた教えやお手本に感謝したい。

そしてぼくの行動の最後まで、それに忠実であるように努力するつもりだ。ぼくは、わが革命の外交政策にいつだって自分を同化してきたし、これからもそうであり続けるだろう。どこにいようと、ぼくはキューバの革命家たる責任を自覚するだろう。そのように行動するだろう。

ぼくは妻子にも何も残さなかった。それを後悔するどころか、むしろ満足している。国家がかれらの必要とするものや教育をあたえてくれるだろうから、ぼくがかれらのために求めるものは何もない。

きみやわが国民にいいたいことは尽きないのだが、その必要はないようだ。言葉はぼくのいわんとすることを表現できないし、これ以上は紙をよごすに値しない。

永遠の勝利まで。祖国か死か。

ありったけの革命的情熱をこめてきみを抱擁する。

※キューバからボリビアに移るにあたって、盟友フィデル・カストロに宛てたゲバラの手紙。「別れの手紙」として有名。(三好徹:チェ・ゲバラ伝より)

この頃、キューバを取材した「タイム誌」の記者はゲバラの第一印象をこう書いた。
三頭政治(フィデル、ラウル、ゲバラ)の、一番魅力的で危険な人物。

女性たちの気持ちを掻き乱しそうな、優しくてはにかんだ微笑みで、抜け目のない冷静さで、広範な知識で、高度な知性とユーモアのセンスでキューバを指揮する男

(戸井十月:チェ・ゲバラの遙かな旅より)

ゲバラの生涯や革命の思想、キューバ革命に関しては、一般ファンのコメントから専門家の分析まで、いろいろ出揃っているので、ここでは一人の人間の生き様に対する感想を記す。

*

おそらく、ゲバラの生涯を知ったら、誰でも一度はこう訊きたくなるだろう。

「裕福なアルゼンチンの家に生まれ、喘息というハンディすらもつあなたが、なぜキューバやボリビアの為に命を懸けて革命運動を?」

実際、ゲバラがボリビアで捕らえられた時、亡命キューバ人のCIA隊員フェリクス・I・ロドリゲスは実際に問うている。

「私は、キューバ生まれのアメリカ人です。アメリカ留学時代にフィデルとあなたによる革命が起こり、キューバに戻れなくなったのです。ボリビア人でもないあなたが、どうしてここまでやるのですか?」

それに対してゲバラはこう答えたという。

「これはプロレタリアートの問題だ。私はアルゼンチン人であり、キューバ人であり、ボリビア人でもある。君には、多分理解できないだろうがな」(戸井十月「チェ・ゲバラの遙かなる旅」)

*

どんな人も、ある時期、自分自身にこう問いかける。

「わたしは何もので、何のために生まれてきたのか。生きるとは、どういうことなのか」

それに対し、世の中には様々な回答が用意されている。

そんなこと考えてもムダ、今が楽しければそれでいいじゃん的なものから、宇宙霊と合体する話まで、実に様々だ。

そのどれもが一つの真実を言い当てていて、「完全に同意はできないが、否定することもできない」というのが、一般的な感想ではないだろうか。

ゆえに、選択肢はいっそう多岐に渡るし、正答を追い求めれば追い求めるほど理屈の迷宮に迷い込む。

どこかの跡取りに生まれた方が、案外、明瞭に道筋が見えて、人生のかなり早期から一つの事に集中できるという点で恵まれているかもしれない。

そんな中、「みんなが嫌いな目に見える敵」と「誰が見ても文句の付けようのない大義」が与えられると、道はたちまち一本化し、他の助言や可能性を排除する勇気を得ることができる。

迷いには答えを。

エネルギーを持て余している青春期にとって、これほど力強いステップはない。

思うに、ゲバラがフィデル・カストロに出会った時、ゲバラが六十過ぎの初老であったなら、物事は全く違った形で進んでいただろうし、もしかしたらゲバラがカストロを諭す側であったかもしれない。

社会正義に燃える若い時分に、カストロという強固な意志とリーダーシップを持った人物に出会ったことは、まさに天の配剤であるし、歴史において何かを為すよう運命付けられた人だったのだろう。

「天は何をお望み?」と聞かれたら、「この現代に、自分の思想に命を懸ける生き様を体現したかった」といってもいい。

多くの人が立派な何かを主張しながらも、途中で腰砕けになったり、結局、大きな流れに迎合せざるを得ない中で、実際に、自分の思想に基づいて行動し、思想のために殉死したという人生は、思想そのものを超越して、英雄的なものへの憧れを無条件に掻き立てるものだ。

自分の思想に殉じて、肉体的にも社会的にも死ぬのは、なかなか難しいものであるから。

*

その昔、矢吹丈は言った。

紀ちゃんのいう青春を謳歌するってこととちょっとちがうかもしれないが 
燃えているような充実感は 
いままで なんどもあじわってきたよ。血だらけのリング上でな
そこいらのれんちゅうみたいにブスブスとくすぶりながら不完全燃焼しているんじゃない
ほんのしゅんかんにせよ まぶしいほどまっかに燃えあがるんだ
そして あとにはまっ白な灰だけがのこる…
燃えかすなんかのこりやしない…まっ白な灰だけだ

参照 灰も残らぬほど創作に燃えて ちばてつやと『あしたのジョー』感動のラスト秘話 

そのように、誰でも心の底では自分の存在や生を実感し、人生を完全燃焼したいと願っているだろう。

たとえ隅っこの市井の人で終わっても、何か一つ、自分がこの世に生まれてよかった、誰かの役に立っている、という手応えが欲しい、と。

そして、それを体現した一人がゲバラであり、キューバの政府高官の地位を蹴って、いっそう情勢の悪いボリビアに赴き、巨大な敵の陰謀の銃弾に倒れた、というストーリーは、マンガではなく、現実だ。

本当にそんな熱い奴がいたのか、と、誰もが憧れやロマンを掻き立てられる。

ゲバラの死は、自分の心の中で死んでしまった青春の情熱や野心そのものかもしれない。

きっと、これからも、若い革命的情熱のシンボルとして、語り継がれてゆくだろう。

ただ一つ、「にわかヒーロー」や「えせヒーロー」と違うのは、ゲバラの言葉には一つ一つに深い愛情があり、単なる狂信的な革命家ではない、という点だ。

心底に貧苦にあえぐ農民を思い、私生活を犠牲にしても社会改革を願い、その軸が一度もぶれなかったことだ。

もちろん、反対側から見れば、彼も人殺しの一人ではあるけれど。

*

「一度、税制改革について、じっくり話し合おうじゃないか」→「逮捕しろ」

「あなたの政策は間違っている」→「殺せ」

と言われない社会に生きているだけでも、私たちにはより人道的で、理知的な方法を選び取ることができる。

ゲバラが日本に生まれていたら、きっと銃ではなく、ペンや弁舌で闘っただろう。

誰もがゲバラのような超人的な生き方が出来るわけではないけれど、市井の人にもささやかな「革命的生き方」はできる。

それは、青年期に感じた疑問や情熱をいつまでも持ち続けること。

その為に、勉強したり、行動したりすること。

今も図書館の片隅で答えを求めて書物を開く人に、ゲバラは遠い空からきっとこう声かけするだろう。

「君の情熱を失うな。信念をもて」と。

ゲバラの伝記は、いつの時代にも、迷える気持ちに活を入れてくれるのである。

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入門編としておすすめ。

ハリウッド的な演出やヒーロー像を期待すると肩すかしを食らうけれど、史実を追ったドラマとしては非常に丁寧に作られていると思います。

28歳の方はキューバ革命を成し遂げるまで、39歳の方はボリビアで銃殺されるまでを描いていて、まったくトーンが違いますが、ぜひ二作続けてご覧になって下さい。

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この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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