愛憎と虐待の間 母親への屈折した感情を歌うエミネムの『Cleanin' Out My Closet』

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『愛憎』と『虐待』の違い

虐待のニュースが世間を騒がせて久しいが、虐待について語る際、一点、一つ注意すべきことがある。

それは「虐待」と「愛憎」は別ということだ。

これを混同すると、親子間のねじ曲がったものは何でも「虐待」とみなされ、加害者と被害者の関係になってしまう。

多くの場合、加害者は親であり、子は被害者に違いないが、虐待と愛憎が決定的に違うのは、後者の場合、「お互いが求め合っている」という点だ。

虐待は一方的になされるが、愛憎は求め合う気持ちが奇妙に歪んで、「馬鹿、死ね、コノヤロー」の中に「母さん、僕を見て、僕を愛して」という本音が隠れていたりする。逆の立場では、「我が子よ、ごめんね、愛し方が分からない。それでもママのことを好きでいて欲しい」みたいな。

ここに紹介するエミネムのヒット曲「Cleanin' Out My Closet」は、母親との屈折した関係を生々しく歌いあげたものだ。

ビデオクリップに登場する母と子のエピソードは、エミネム自身のものだろうか。

いらいらとモノに当たり散らす母親の態度に怯え、クローゼットの中に逃げ込んだ息子の身体を暴力的に引きずり出したり、息子の目の前でクスリをあおったり。
男関係も上手くいかず、家庭内暴力は日常茶飯事。
その怒りと不満は全て、幼い子どもに向けられる。

普通に考えれば、こんな母親は最低で、思い出す必要もないだろうに、それでもママはママ、きれいに切って捨てられるものではない。

お互いに求める気持ちがあるから、憎みもするし、後悔もする。

これは”憎しみ”という名の愛なのだ。実に奇妙な感情ではあるけれど。

子どもはいう。

「あんたを傷つけるつもりはないし、泣かせたいわけでもない。でも、心のクローゼットをぶちまけずにいないんだ」

このアンビバレントこそ、苦しみの正体だ。

なんだかんだで、そこに愛があるから、苦しんでしまう。

本当に不要な親ならば、心が痛みもしなければ、思い出すこともないだろう。

それは母親の方も然り。

きちんと愛を返せないから、その対象である子どもに当たり散らす。

一言謝れば済むものを、決して過ちを認めようとはしない。

謝れば、自分が負けて、子どもの愛が失われると思い込んでいる。

結果はその逆なのに。

愛の扉の開け方に永久に気がつかない。

これは誰が歌っても悲しい歌だ。

こんな悲しい歌を子供に歌わせてはいけない。

1972年10月17日生まれ。本名マーシャル・"ブルーズ"・マザーズⅢ。 12歳までカンザス・シティとデトロイトを母親と2,3ヶ月ごとに転々とし、友達もできず、トラブルの絶えない生活を送る。 「唯一の安らぎがラップだった」というエミネムが繰り出すそのライムには幼少の頃からの環境/リアルな経験が刷り込まれ、 結果的に過激に響くそのライムは類まれなる強烈な世界観を生み、全世界の若者達の熱狂的な支持を得ている。

エミネム 公式サイトより(リンク元は削除されています)


日本語訳はこちらのサイトからお借りしました。(リンク元は削除されています)

Cleanin' Out My Closet - Eminem

憎まれたことがあるか、差別されたことがあるか

俺はあるぜ

抗議もされたし、デモもされた

デモのプラカードは俺の邪悪な詞に向けられた

タイムズを見てみろよ

この騒動の裏には

心が病んでいるいまいましい奴がいる《翻訳困難》

心の動揺は深いぜ。海の底での爆発のように

親からぶつけられた癇癪は無視して前に進むだけ

誰からも何も奪うつもりはない

ただただ息が続く限り与え続けるぜ

朝からひたすら尻を蹴り続け、夜にはブラックリストに載る

やつらの口を酸っぱくして後味の悪い思いをさせ

ほら、やつらは俺に向かって引き金を引くことはできるが、俺を理解することはできないんだ

さあ今の俺を見てくれ、

きっとあんたは俺にうんざりしているんだろうけどな

そうだろう、母さん、

今度はあんたを笑いものにしてやるぜ

ごめんよ、母さん

あんたを傷つけるつもりは全然ないんだ

あんたを泣かせるつもりは全然ないんだ

でも今夜は、クロゼットに隠されていたものを全部ぶちまけるんだ

やりきれない思い。
憎みきれない憎しみ。

読むだけで、とても切なくなる。

ここにあるのは、怒りでも恨みでもなく、超えようのない愛憎だ。

この傷が、「親」の立場にある人に分かるだろうか。

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初稿: 2008年4月4日

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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