リプリー船長が最も美しいコメディ映画『デーヴ』

目次

映画『デーヴ』の魅力とシガニーのエレガントな演技

シガニー・ウィーバーは不思議な女優さんだ。

絶世の美女でもなければ、ムキムキマッチョの体育会系でもない。

カワイ子ちゃんでもなければ、妖精でもなく、女優の看板がなければ、どこかの中学校のベテラン教員というイメージだ。

なのに、知的で優しくて、女性らしい魅力にあふれている。

それは、マシンガンを片手にエイリアンと戦っても同じこと。

ほっそりした方なのに、全身から気迫が漂って、女性の強さを具現化したように見える。

そんなリプリー船長(正しくはリプリー二等航海士)が最も美しく輝いて見えるのが、大統領の替え玉をテーマにしたハートフル・コメディ『デーヴ』だ。

秘書と不倫中に脳溢血を起こし、意識不明の重体に陥った大統領の身代わりをつとめることになった、物真似上手のデーヴ。

人材派遣事務所を経営する彼は、人を喜ばせ、幸せにすることが大好きな男だ。

冷淡で鼻持ちならない大統領と極秘に入れ替わったデーヴの心温まる言動はたちまち大衆を魅了し、支持率もぐんぐん伸びていく。

しかし、この活躍を喜ばない者がいた。

大統領補佐官ボブ・アレクサンダーである。

大統領の後釜を狙うボブにとって、デーヴの存在はまさに目の上のタンコブ。

偽物といえど、このまま好きにさせておけば、さらなる国民の支持を取り付けて、『本物の大統領』になりかねない。

そこでボブは一計を案じ、「本物の大統領」が隠蔽していた汚職を暴露し、デーヴを社会的に葬ろうと目論む。

※ 初めて大統領の替え玉として公衆の面前に立つデイブ。
そこで大統領夫人とは私生活において完全に破綻していることを知る。

しかし、デーヴには心強い協力者があった。

シガニー・ウィーバー演じる、大統領夫人エレンである。

度重なる浮気が原因で、夫である大統領にすっかり愛想を尽かしていたエレンは、いつしか、デーヴが夫の替え玉であることに気付き、心を開くようになる。

エレンの後押しもあり、デーヴの掲げた雇用政策は国民の高い支持を得て、すべては順調に行くかと思われたが、業を煮やしたボブの告発により、絶体絶命の窮地に立たされる――。

この作品の見どころは、『大統領の替え玉』という、どう考えても有り得ない設定にもかかわらず、まったくプロットが破綻することなく、自然に話が進んでいくところ。

しかも、ファーストレディを演じるシガニー・ウィーバーの上品で美しいこと。

ウェーブのかかったショートヘアや知的にメーク、膝丈のスタイリッシュなスーツ姿など、どれをとっても米国大統領夫人にふさわしい装いだ。

こんな素敵な女性がファーストレディなら、国民もどれほど幸せだろうと思わずにいないほど。

豪奢なホワイトハウスの一室で、椅子に腰をかけて、TVを見る場面があるのだが、上品な膝丈のスーツからすらりと伸びた足がすばらしく綺麗で、シガニーの女性としての育ちの良さや洗練された暮らしぶりが垣間見えるよう。

私のDVDコレクションに、ほとんどコメディはないのだけども(もう一枚はロビン・ウィリアムズの『ミセス・ダウト』)、デーヴは一等星に位置する、お気に入りの作品だ。

脚本も、演出も、分かりきった展開で、すごいトリックがある訳でもないのだけれど、シガニーの知的な微笑や、エレガントな立ち居振る舞い、この作品でゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞したケビン・クラインのハートフルな演技を見ていると、人間の素晴らしい一面と、ハリウッドの良心を感じずにいられないからだ。

物語は、デーヴの見事なパフォーマンスによって、意識不明の大統領と難なく入れ替わり、「(本物の)大統領の死」という悲しい結末で終わるが、最後に素晴らしい愛のギフトが用意されている。

もしかして、エレンは再びファーストレディに? なんて想像を掻き立てられる見事なサプライズ付きだ。

また、最後までネチネチとデーヴに絡む、大統領補佐官ボブ・アレキサンダーを演じるフランク・ランジェラも素晴らしい。

近年では、ウォーターゲート事件で失脚したニクソン大統領のインタビューをテーマにした作品『フロスト×ニクソン』(詳しくはこちら『フロスト×ニクソン』アメリカ国民を釘付けにした伝説のTVインタビュー)で、数々の主演賞を受賞しただけあって、いやらしくも愛嬌のある演技に目が釘付けになる。

「何か、感動する映画はないですか? お涙頂戴でもなく、シリアスでもなく、見終わった後、ほっと心が温まるような作品は?」と訊かれたら、一も二もなく、『デーヴ』をお勧めするだろう。

シガニーのファンでなくても、一度は観て欲しい、本当に素敵なヒューマンドラマである。

※ フランク・ランジェラの演技も秀逸。

映画『デーヴ』のもう一つのテーマ : 政治と良心

『デーヴ』を観ていると、大統領夫妻の心の交流だけに注目しがちだが、この作品には大きなテーマが二つある。

一つは、行動すること。

もう一つは、政治のあるべき姿だ。

どんな高い理想を掲げても行動しなければ意味がないし、行動したからといって必ず上手く行くとは限らない。

でも、行動することによってしか物事は変わらない。

誰にでも出来る小さな革命、それは「行動すること」。

もしかしたら、その行動は、世界の歴史さえ変えるかもしれない、ということだ。

そして、行動を起こしたデーヴは、最後の演説でこう語る。

大統領は国民の雇われ者だ。大統領が執務室で元気に仕事をしていると思えばこそ、国民も安心して暮らすことができる

政治とは何か。

実にシンプルな答えだ。

富を上手に分配し、国民を幸せにするためのシステムに他ならない。(富には、お金以外にも、公的支援や都市インフラなども含まれる)

政治は政治家のものではなく、国民の為のものであり、政治家が国民を“食わせてやっている”のではないのだ。

それを「雇われ者」という言葉で表現した点に、制作者のメッセージがあると思う。

ともあれ、リプリー船長は何を演じても美しい。

こちらはデーヴの正体を知った二人が共にホワイトハウスを去ろうとした時、警察官に呼び止められ、とっさのパフォーマンスで「大統領&大統領夫人の物真似コンビ」の振りをするもの。

普通の乗用車が降りてきたのが「本物の大統領&大統領夫人」とあっては警察官もビックリ、周囲も騒然となるところ。

しかし、デーヴの熱演とエレンのぎこちない歌唱によって事態は収束する。

ちなみに、この場面で歌われるミュージカル『アニー』の「トゥモロー」は、実際にシガニーが舞台で歌った曲らしい。

DVDの紹介

デーヴ [DVD]
出演者  ケビン・クライン (出演), シガニー・ウィーバー (出演), フランク・ランジェラ (出演), ベン・キングズレイ (出演), ケビン・ダン (出演), アイバン・ライトマン (監督)
監督  
定価  ¥1,980
中古 26点 & 新品  ¥1 から

再版が待たれる上質なハートフル・コメディ。
最後のワンショットで「あっ」と驚く展開があり、最後の最後まで楽しませてくれる。
ホントにおすすめです!

エイリアン [DVD]
出演者  トム・スケリット (出演), シガーニー・ウィーバー (出演), ベロニカ・カートライト (出演), ハリー・ディーン・スタントン (出演), リドリー・スコット (監督)
監督  
定価  ¥2,781
中古 5点 & 新品   から

シガニーの存在を一躍世界に知らしめた出世作。
映画監督リドリー・スコットの代表作でもあり、SF史に残る傑作でもある。
乗務員の腹の中から飛び出した残忍かつ凶暴なエイリアンに次々に襲われる宇宙船ノストロモ号の船員たち。
あえて有名なアクション俳優を起用せず、最後まで誰が生き残るか分からない演出にしたスコット監督の目論見は見事成功した。
まさかシガニーが生き残るとは思えなかった本作だが、ラスト、「幸運の星よ、お願い、守って」と、宇宙服姿で息絶え絶えにキャビンの開閉スイッチを探る迫真の演技が素晴らしい。

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高まる期待を一身に集めてジェームズ・キャメロンが挑んだ『エイリアン2 [DVD]』も、リドリーとはまったく異なるスピーディーなタッチで楽しめる。シリーズ第二作として大成功した数少ない作品の一つ。
巨大かつ無慈悲なエイリアン・クイーンと対峙するリプリー様はまさに宇宙の戦士。
Avatar アバター』も悪くはないけど、やっぱりリプリー船長が一番でしょう。

初稿 2010年5月21日

Photo : http://www.rogerebert.com/reviews/dave-1993

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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