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水深4000メートルの愛 ~相手からは見えないけれど

水深4000メートルの愛 ~相手からは見えないけれど

水深4000メートルの愛 ~相手からは見えないけれど
「まあ、それが今まで独身できちゃった所以。もっとも、私のこの顔じゃあ、男も遠慮して寄りつかないでしょうけど」

「そんなことないよ。今からでもプロポーズすればいい。相手は戸籍上、独身だろう? だったら何も問題ないじゃないか」

「……あなた、ずばっと直球な事を言うのね」

「それだけが取り柄でね」

「でも、そう簡単じゃないわよ」

「どうして」

「口に出して言わなきゃ、分からない?」

「分からんね」

「私も、一応、『女』だってことよ。……女の私から言い出すなんて、夢がないじゃないの」

「なるほど」

「ただでさえ、この十五年間、何の興味も示されなかったのに、突然、直球なんて投げられるわけがないじゃないの。この年になって一世一代の求愛を鼻先であしらわれたら、いくら私でも生きて行けないわ」

「じゃあ、君は、十五年間も黙って側で見てたわけ?」

「大きな声で言わないで! 」

「案外、相手も、同じことを考えてるかもしれないよ」

「どんな風に?」

「今まで隣人づきあいして、年も離れて、離婚歴もあるのに、今更、好きだの、結婚だの、気恥ずかしい」

「それはないわ」

「どうして分かる?」

「だって、向こうにチラとでも気があるなら、何かしらアクションがあるでしょう。食事に誘うとか、身体に触るとか。でも、この十五年間、本当に何も無かったんだもの、悲しいくらいにね」

「必ずしもそうとは限らないよ。気持ちを秘めれば秘めるほど、表面的には無愛想に見えるんじゃないかな、海と一緒で」

「あなた、おもしろい事を言うわね」

「水深4000メートルの愛情だ。きっと、そうに決まってる」

海洋小説 《曙光》 MORGENROOD 第二章より

この会話は、『淋しさなんて、慣れるもの? ~海の仕事と孤独と優しさ』の前に存在した下書きです。

採鉱プラットフォームに勤務する数少ない女性スタッフのオリガは、腕のいい機関士。

彼女の直属の上司で、機関士長だったワディが急病になった時、ヴァルターが嵐の中、遠洋のプラットフォームからローレンシア島の病院まで、連絡船でワディを連れ帰ります。

最初は新入りのヴァルターに疑念を抱いていたオリガも、彼の度胸と優しさに心を打たれ、食堂で一緒に食事をしながら、ワディのことで礼を言います。

その流れで、「淋しさなんて、慣れるもの?」という台詞が続くのですが、それ以前は、『オリガがワディに心密かに想いを寄せていた』という設定でした。

しかし、男女の色恋で結びつくのも不自然と思い、「オリガの両親が、ワディと親しかった」という流れから、オリガもワディを伯父さんみたいに慕うようになった……という設定に変更してます。そして、それで正解でした。

でも、これはこれで、味のある会話です。

気持ちを秘めれば秘めるほど、表面的には無愛想に見えるというのは、その通りだと思います。

心理学者の加藤諦三氏が「大袈裟に愛を宣言をする者を信用するな」みたいな事を言っていたのを思い出します。

つまり「私は世界で一番、あなたを愛している」とか、「世界中で、あなたが一番大事」みたいな台詞です。

一瞬、そういう気持ちになったとしても、人間はどこかエゴイスト。

自分より、他人を、そこまで深く愛せるものではありません。

愛の本質を知っているからこそ、愛には懐疑的だし、「愛」という言葉を口にすることさえ躊躇われるのではないでしょうか。

多くの人は、愛という言葉が好きだけれども、本当の愛に巡り会える人は少数です。

何所に存在するのかといえば、誰かを愛するあなたの心の中としか言いようがありません。

文書作成:2012年4月17日

第二章 採鉱プラットフォーム Googleブックスで試し読み

水深3000メートルの海台に広がる海底鉱物資源を採掘する為、潜水艇パイロットのヴァルターは洋上プラットフォームの採鉱システムを接続するミッションに参加する。採鉱事業を指揮するアルの娘リズは彼に一目惚れするが、彼の態度は素っ気なく..。
Googleブックスで試し読みできます。

初稿: 2018年3月24日 @ 7:39 AM

海洋小説 《曙光》 MORGENROOD
ブックカバー
宇宙文明を支える稀少金属ニムロディウムをめぐる企業の攻防と、海洋社会の未来を描く人間ドラマ。心に傷を負った潜水艇のパイロットが、恋と仕事を通して成長する物語です。