必要は成功の母

今でこそ外出先でスマホで音楽を聴くなど当たり前だが、レコード世代にとって、「いかに音楽を持ち出すか」は重要な問題だった。
何せ、プレイヤーは家の中にしかない。
どこかに出掛ければ、その間は聞きたい音楽も聞けず、頭の中でメロディを繰り返すのが精一杯。
それは時に退屈で、飢餓的ですらあった。
ゆえに音楽大好きな井深大が「音楽を持って歩きたい。何とかならねえか」と言いだし、盛田さんや、当時のSONYを代表するエンジニアらが必死にウォークマンを作り上げたのも頷ける。
私もウォークマン以前は、旅先にまで小型のラジオ付きカセットデッキを持ち歩いていたし、それに伴うカセットテープの量も半端なく、旅行カバンにぎゅーぎゅーに詰めて、親にられたのも懐かしい話だ。これでレコード盤も持ち歩けたら、どんなに素晴らしいだと思っていたら、80年代にウォークマンが登場して、ついに音楽好きの夢が叶った、テクノロジー万歳、そりゃもう世界中の若者のライフスタイルが変わるわけです。本当に夢の機器だったから。

そこまでしようと思ったら、当然のこと、開発者に執念がなければ無理だろう。

もちろん売る為の工夫や戦略は必要だけれども、「何が何でもプレイヤーを持ち歩きたい。外出先でも好きな音楽を自由に聞きたい」という情熱がなければ、ユーザーのニーズにジャストフィットする製品は生まれないだろう。

必要は発明の母とはよくいったもので、何かを生み出すのに、枯渇感や不自由感は無くてはならないものだ。

近ごろのWindowsアップデートに以前ほどの熱狂が無いのも、既にある程度の需要を満たし、これ以上、「新しい何か」も思い付かない、というのが大きいと思う。もちろん、様々な需要はあるけれども(働く母に代わって完璧に家事をこなすロボットとか、人が嫌がる3Kの仕事を黙々とやってくれるレプリカントとか)、そこに至るにはまだまだ技術が追いつかず、かといって、今、手の届く範囲で、世界中が熱狂するような『何か』を作り出せるわけでもない。すべてが過渡期であり、とりあえず既存のものをいじって、丸いものに無理矢理角を生やすような事をやってるのが多くのメーカーではなかろうか。

今の時代、製品やサービスに対して、『絶対的必要』を感じるのは難しい。

そんでもって、本当に不足している所に技術が及ばないのは(特に重労働)、何とももどかしく、文明の皮肉でもある。

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