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銀河鉄道999

永遠の命(機械の身体)を求める人は案外幸せなのかも『銀河鉄道999』より

銀河鉄道999
鉄郎。

『年を取る』ということは、生身の身体より、機械の身体がいいな……と感じるようになることよ。

――老眼と更年期障害に苦しむ五十代女性より。

あ、ついで言うなら、

女が年を取るということは、ハーロックより、トチローみたいな男がいいと思うようになることですよ。

家事に堪能で、メカに強くて、嫁が戦場に行く時は、自分でチューンナップしたコスモガンを持たせてくれて、「君の癖に合わせて調整しておいたよ。これで君の身を守るといい」と笑顔で送り出してくれてさ。

トチローが旦那なら、女も心おきなく戦えるじゃん。

嫁がいなくても、一人で何ヶ月でも生活できるし。

留守中、ご飯の心配もしなくていいし。

その点、ハーロックは、死ぬまで「オレの海」で彷徨ってれば、って感じ。

もう帰ってこなくていいよ、みたいな。

結婚するなら、ハーロックより、トチローがいい。

オレが、オレが、と、一人でも生きていける男は、恋人にするには魅力的だけど、旦那にしたら、煩わしいだけと思う。

『永遠の命』といえば、真っ先に思い浮かべるのが松本零士の『銀河鉄道999』の機械化人間。
女王プロメシュームを筆頭に、永遠の命を手に入れた機械化人間が宇宙を支配し、貧乏で機械の身体が買えない生身の身体の人間を襲っては「生命の火」を搾取し、それを自らのエネルギー源にするという設定でした。

貧乏な母子家庭の星野鉄郎少年は、最愛のお母さんを冷酷な機械伯爵に殺害され、「機械の身体をタダでくれる星」に行って最強の機械化人間となり、機械伯爵に復讐することを誓います。

その過程で偶然に出会ったのが謎の美女メーテル。

「銀河鉄道999」の乗車券をあげる代わりに、私を「機械の身体をタダでくれる星」に一緒に連れて行って──という条件で、鉄郎と一緒に旅を始めます。

しかしながら、旅の途中で様々な出来事を体験し、鉄郎少年は次第に限られた命の大切さを実感するようになります。

そして、ついには機械化社会に反旗を翻し、女王プロメシュームを倒す決意を固めるのでした……。

それはまったくその通りで、私も素直に「そうだ、その通りだ」と頷いていたのですけどね。

最近、こうも思うんですよ。

機械の身体を購入してでも永遠に生きたいと願う人は、本当は幸せなんじゃないかな、って。

もちろん、「命には限りがある、だからこそ、他者への思いやりや真摯に生きようという姿勢が生まれる」のはその通りです。

でも、一方で、幸せだからこそ永遠の命を願うことができる。

その幸せの源に、他者への思いやりや、生きたいという情熱があるからこそ、「永遠の命」という選択肢もあるのではないかと思ったりもするんですね。

だって、心から幸せを感じられず、生き辛い人にとって、永遠の命なんて生き地獄でしかないから。

とはいえ、もし自分が永遠に死なないとしたら──傷つくこともなく、衰えることもなく、不死身の若さと命を手に入れることができたら──傲慢になるのは確かでしょうね。

最初は「生きたい、生きたい」と願っても、そのうち生きることに飽き飽きして、機械伯爵みたいに人間狩りに耽るかもしれない。

永遠の命が人間の心を変容させるのも確かでしょう。

だから、それはやはりアンタッチャブルで、「人間が手に入れてはならない力」なのかもしれません。

*

ちなみに、『999』は、一つの階層社会を描いてるんですよね。

そこそこに裕福な人は機械の身体を手に入れ、死も飢えも知らない、豊かな人生を享受できるけども、貧乏人は一生生身のままで、いつかは老いて死んで行く。

そこには歴然とした幸不幸の差があり、機械の身体を手に入れるだけのお金がなければ、死ぬまで機械化人間に追い回され、「生命の火」を狙われるという定めです。

中には自身の信条に従い、「あえて機械化は選ばない人」もあるけれど、総じて「這い上がれない層」に属し、そこから脱するには機械化社会を倒すか、死ぬしかない、という究極の選択があるのみです。

「そんなのSF漫画の世界」でしたけど、いずれテクノロジーの進化はさらなる格差を生み出す。
スティーブン・ホーキング氏の見解に私も同意です。
ホーキング氏、「技術の進歩で格差広がる」 IT業界は反論
http://www.cnn.co.jp/tech/35071892.html

ホーキング氏はこのほど開かれた米ソーシャルメディア「レディット」のイベントで「もし機械の作り出す富が共有されれば、誰もが優雅な生活を満喫できる。だが機械の所有者が富の再配分反対を唱えるロビー活動を成功させれば、ほとんどの人はみじめな貧困に追い込まれる」と指摘した。
その上で「これまでのところ、トレンドは後者に向かっているようだ」と付け加えた。

『機械の身体』は極端な例にしても、実際、PCやネットの使える層と、そうでない層の違いは大きいですし(暮らし、交友、就職など)、世界的に見ても、いろんな面で差違は生じています。

これが更に進化して、機械(AIを含む)がより多くの行為や役割を担うようになれば、それを利用できる層と、できない層の格差はもっと開くし、人間の意識や知的レベルでも差違は生じてくる。

機械化が人間に自由や安楽をもたらすのはその通りだけれども、それはあくまで「それを利用できる層」の話であって、その恩恵は隅々まで行き渡らないし、非常に分かりやすい例を言えば、最先端の医療機器で延命している日本の病院と、最近よーやくお洒落な心電図モニターが入ったような我が居住国の病院では、延命率から満足度まで、ものすごい開きがある。ここで寝たきり老人が問題にならないのは、みな治療が及ばず死ぬからですよ。(無理に延命しないのもあるけど、救急ヘリだの、なんとか薬だの、マイクロ手術だの、遠い宇宙の話)

そうした差違が、医療に限らず、教育、産業、暮らし、いろんな所で広がって、いずれ「底辺から仰ぎ見るような暮らし」がもっと可視化されるのではないかと思います。

日本でも世帯収入が年100万円を切って、子供でも一日一食、あるかないかの層から見れば、学費100万越えの私立学校に余裕で通う子供の暮らしなんて、まさに仰ぎ見るが如しでしょう。
そして、その子たちは、どんどん高度な機器や設備を与えられ、自らのチャンスを伸ばしていくのに、そうでない子は知識でも技術でも差を付けられ、這い上がる機会さえ無いんですからね。

「万人に開かれた技術」といっても、要は金次第。

永遠の命をもたらす機械の身体も、それが買える層にだけ恩恵が与えられ、そうでない層は死を待つだけ……という銀河鉄道999の世界観は決して絵空事ではないんですよね。

*

それでも、もし永遠の生命が欲しいですか? と問われて、「ハイ!」と即答できる人は、それなりに幸せなのだと思います。

私も、まだ観てない映画が何百本とあるし、未読の本は無限だし、エルミタージュ美術館にも行きたいし、ボリショイ劇場もバイロイトも、まだ未踏。
イエローストーン、アイスランド、エベレスト、行きたい所もまだまだたくさんある。
これ全て叶えようと思ったら、あと100年あっても足りない。

『魁! 男塾』も「大威震八連制覇』の続きから読んでないし。(剣桃太郎が首相になったというのは本当か?!)

『ゴルゴ13』を全巻読破する夢も達成してないし。

他にもいろいろ、やりたい事があり過ぎて、人生が足りない。

機械の身体が手に入るなら、1億でも買う。それでエベレストに行く。

暇でしゃーないという人から、時間を買いたいぐらいです、本当に。

それと、999の描く『永遠の命』は、ずいぶん意味が違うかもしれませんが、それでも、人間が本当に生きたい、どんなに辛くても人生は素晴らしい、何度でも生き直したいと願うほど、生きることを愛したら、やっぱり望みはそこに向かうと思うのですよ。

そして、いずれ、どんな形でか、不老不死も実現するかもしれません。

*

今、松本零士先生に聞いてみたい。

それでもやっぱり機械の身体はNGですか?

もっと生きて、もっと漫画を描きたくても、永遠の生命は願いませんか?

それはきっと999の本質とは違うのだろうけど、機会があれば、じっくり語り合ってみたです。

※ 私なんか、いまだに青春の幻影の延長線上を走り続けてるような気がするわ。。

ちなみに、私、機械化帝国を滅ぼす場面が苦手なんですよ。(音楽も演出も綺麗なのですが)

だって、機械化人間の全てが「悪い心」というわけでもなかろうし、全滅させることはないじゃないかと、いつも思うから(あの中には子供もいる)。

せめて「機能停止」→「希望者は生身の身体に心を移し替え」にして欲しかった。。。
(さらば999で、機械がサイレンの魔女に吸い込まれるのは仕方ないにしても)

そのあたりが、男性の松本先生と、女性の私の感性の違いなんでしょうね。

こんな時に不謹慎かもしれませんが……

それでも、それでも、生身の身体がいいですか?

機械の身体、欲しくないですか?

惑星ラーメタルの危機に瀕して、「よし、全員、機械の身体になっちゃえば、あらゆる苦痛から解放されるぞ!」と望んだ人々の気持ちは非難されるべきものなのでしょうか。

こんな問いかけ自体が愚問なのかもしれませんが、それでも一度、膝をつき合わせて、じっくり話してみたいものです。

ええ、もちろん、問題の本質は、「機械の身体を手に入れて、不死身になった人々が、思いやりや、ひたむきな気持ちを忘れて、生身の身体を蔑むようになった」という点にあるのは重々、理解しておりますが。

それでも、それでも、問わずにいられないのです。

年を取ったら、機械の身体になりたくないですか?

機械の身体になったら、思いやりも、情熱も、何もかも忘れてしまうものでしょうか。

・・・

もし、時間が無限にあるとしたら、やはり後者の方なのでしょうね。

どんな状況下であれ、高貴な魂を持ち続けられる人間など、一握りだから。

ゆえに、鉄郎は正しい。

銀河鉄道999の世界観も正しい。

でも、私自身は、機械の身体が欲しい。(というか、弱った身体のパーツを取り替えたい)

この葛藤こそが、人生なのでしょうね……(何のこっっちゃ)

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改めて見直してみれば、「金持ちの子供は機械の身体を手に入れて、病気とも老いとも無縁の幸せな人生を送れるが、貧乏な子供は、飢えと寒さに苦しみながら、一生底辺を這いずり回る」という21世紀の格差社会を予見するような作品だったと思います。

この映画が公開された当時は、右肩上がりの世の中だったので、鉄郎の貧しい境遇がいまいち実感できませんでしたが(むしろ戦直後のような古くさいイメージ)、今は本当にこんな風になりつつある、と。

機械の身体はともかく、これからますます格差は拡大し、幸せな人はより幸せに、そうでなければ、まともな医療も受けられず、老いと病に苦しんで死んでいく、不公平な世界です。

いずれ、鉄郎みたいな若いレジスタンスが立ち上がり、自由を求めて闘うのか、あるいは諦めて終わりか、それは未来の人に聞いてみなければ分かりません。

ただ一つ言えるのは、誰の人生も一度限り、ということです。――生身の身体であれば。

アイテム

映画もいいですが、りん・たろう作曲のサントラも好きでした。
機械化帝国が崩壊する時の、ちょっとトロピカルなムードのBGMが素晴らしくロマンティックでね。「崩壊の美学」とでもいうのですか。ギターソロも最高でね。池田昌子(メーテル)の「あ~~~っ」という儚げな叫び声と非常にマッチしてました。

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初稿: 2015年12月9日 @ 9:31 PM

海洋小説 《曙光》 MORGENROOD
ブックカバー
宇宙文明を支える稀少金属ニムロディウムをめぐる企業の攻防と、海洋社会の未来を描く人間ドラマ。心に傷を負った潜水艇のパイロットが、恋と仕事を通して成長する物語です。


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