悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる / 映画『エクソシスト』

2020 6/20
目次

【映画コラム】 悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる

なぜ人は嘘を信じてしまうのか

悪魔の言うことに、耳を傾けてはならない。

悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる。

なぜ人がネットの言説に惑わされるかというと、「そこに一片の真実があるから」です。

たとえば、「ビートたけしとキムタクは禁断の恋仲」なんて、誰も信じませんよね。

でも、「レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットはデキている」という話になると、「もしかして」と誰もが疑う。

撮影アシスタントAの話として、「あの二人が同じホテルから出てくるのを見かけた」という情報が出てくると、余計に噂に尾ひれがつく(情報の真偽は別として)。

実際に「二人が私生活でも親しくしていて、いい雰囲気で撮影が進んだ」という真実があればこそ、人は疑うのです。

それは芸能界のウワサに限らず、政治でも、市場でも、災害でも、何でもそう。

そこに一片の真実があればこそ、人は嘘に惑わされます。

そして、デマを流す側は、明らかに“嘘”と分かるような嘘はつきません。

そこにある真実を利用して、巧みに話をすり替えます。

たとえば、「A国の兵士は、虐待されていた村の子供を助ける為に、やむなくB国の村人を撃った」という真実を、「A国の兵士は、何の権限もなく、B国の村人を撃ち殺した」という風に。

その嘘は、真実も歪めて、人の心に憎しみや疑念を植え付けます。

だから悪質なのです。

現代の悪魔は言葉の中に潜んでいる

上記のセリフが語られるのは、オカルト映画の金字塔『エクソシスト』(ウィリアム・フリードキン監督)です。

悪魔に憑かれた少女と神父の壮絶な闘いを描いた衝撃作で知られていますが、『現代における悪魔とは何か』を示唆した社会派ドラマの一面も持ち合わせています。

私が初めて『エクソシスト』を見たのは、小学生の時、TVロードショーがきっかけですが(確かTBS版)、上記のセリフは今も鮮明に記憶しています。

そして、「なるほど」と納得しました。

『悪魔』といえば、残虐で、醜い姿をした怪物というイメージがありますが、日々の暮らしの中にも悪魔は存在するのだと。

『嘘に巧妙に真実を織り交ぜる』という悪魔です。

もしかしたら、普通に暮らしている者にとっては、言葉に潜む悪魔の方が、もっとタチが悪いかもしれない。

そこに悪意があろうが、なかろうが、言葉は人間の意識の奥深くに入り込み、ゆっくりと、静かに侵食するからです。

ちなみにDVD版の吹替のセリフは次の通りです。

(悪魔と接するに対し)

特に大事なのは、悪魔との会話を避けることです。

必要な話はするが、深入りするのは危険です。

悪魔は嘘つきです。

悪魔は嘘に真実を混ぜるのです。

TVロードショーの方は「悪魔の言うことに耳を傾けてはならない。悪魔は嘘に巧妙に真実を織り交ぜる」という風に、よりシリアスな邦訳だったと記憶していますが、どちらにしても主旨は同じ。「悪魔の囁きに、耳を傾けるな」という戒めです。

悪魔祓いは、ベテランの老神父と、心理学も修めた若い神父の二人で行われますが、若い神父には年老いた母を施設に入れて見捨てた……という罪悪感があります。

悪魔はその心の弱みにつけ込んで、死んだ母親の幻想を見せ、若い神父の信仰心や闘志を削ぐのです。

若い神父が、悪魔祓いの最中に、「お願い、私を苦しめないで」と懇願する母の幻影を目にすれば、どうしても平常心を失います。

一体、自分は誰と戦っているのか、母を見捨てた自分に神の代理人となる資格があるのか、あれこれ迷いからね。

一瞬でも迷いが生じれば、悪魔に打ち克つことはできません。

何故なら、相手は良心の欠片も持ち合わせない、絶対的な悪。

隙を見せれば最後、頭から食いつかれて、地獄に落ちるほかないからです。

悪魔が人を堕落させるのに、恐ろしい武器や金銀財宝は必要ありません。

その人が内に抱える、弱みや罪悪感、コンプレックスをちょいと刺激してやればいい。

そうすれば、人は動揺し、自分や周りに疑念を抱いて、正しいとされる教えにも背を向けるようになります。

何ものにもなれない自分に劣等感を抱く人に、「今のお前は確かに冴えないが、それはお前を無能扱いする社会が悪いのだ。我々に与すれば、お金もやるし、地位も与えるぞ。お前を正当に評価しない者のことなど、無視しろ。我々なら、お前の実力にふさわしいものを何でも与えてやるぞ」と囁けば、(そかもしれない)と気持ちが揺らぎますね。

そして、とりあえず、褒美をやれば、その人は相手を信用しますね。

詐欺集団が、何ものにもなれない人に、「広報係」とか「情報収集係」とか、もっともらしい役割や肩書きを与え、そこそこの報酬を支払い、ある程度は面倒見るのは、相手の望むものを小出しにすることで、より長く、より深く、支配することができるからです。(僕のアカウントをリツイートしてくれたら、100万円あげますで、100万円もらったら、好意はそこで終わるけど、毎年10万円ずつ、合計100万円差し上げますなら、10年間は相手を応援するでしょう)

そして、詐欺師は決して“嘘”とわかる嘘は言いません。

たとえ一般人からお金を騙し取っていたとしても、「新しい資本の形」とか「未来への投資」とか、巧妙に言い換えて、集金システムの一員にします。

そして、実際、仲間の利益になって、その人にも儲けのおこぼれが回ってくるから、抜けるに抜けられなくなるのです。

実社会で誰にも相手にされなかった人ほど、「○○さんの仲間」という所属意識は格別です。

本物の悪魔は、一目でそれと分かる、怖い顔はしていません。

善意の仮面を被って、弱った人間の前に現れ、幸福や成功をちらつかせて、自分に心酔させることから始めます。

その時、一番、人の心を揺さぶるのが、「私は○○の博士号を持っています」「○○で実績があります」「フォロワーが10万人います」という90%の真実と、
「あなたなら、もっと稼げますよ」「半年でデビューできますよ」「みるみる病気が治りますよ」という甘い囁きなんですね。

現代において、悪魔とは言葉(情報)そのものです。

はじめに言葉ありき。言葉は神と共にあり、言葉は神であった」という聖書の一文の通り、人間にとっての救いや慰めは言葉の中に在りますが、悪魔もまた言葉の中に棲んでいます。

悪魔は絶えず、人に囁きかけ、憎悪や疑念、劣等感を掻き立てます。

私たちに出来ることは、「見分けること」しかありません。

でも、それも非常に巧妙になっているのが、現代のインターネット社会です。

【画像で紹介】 映画『エクソシスト』の魅力

悪魔祓いに訪れた神父の一コマ。有名な抽象画家ルネ・マグリットの「The Empire of Lights」からインスピレーションを得たことは非常に有名。

当たりは暗闇。目の前の家には悪魔に怯える母と子が居る。
神父だけが希望の光。だけども闇の方が圧倒的に強い。

得体の知れない闇と、これから何が起こるのかという不安と、いろんな負の感情を映したいい場面ですよね。

エクソシスト ルネ・マグリット
★The Empire of Lights (René Magritte) inspired The Exorcistより(引用元は削除されています)

こちらは意味不明なことを喚き叫ぶ少女の声を録音して、若い神父が分析しようとする場面。
これは精神異常なのか、それとも本当に「悪魔憑き」なのか。

意味不明の言語は悪魔の声なのか、解析する

少女は逆さま言葉で、「オレは誰でもない」と絶叫します。

このセリフも妙ですね。

本来、悪魔には実体がない。

それに触れる人が、心に悪魔の影を作り出すのです。

若い神父の場合は実母に対する負い目です。

ポルターガイストでベッドを揺さぶる悪魔よりも、「私を苦しめないで」という実母の幻影こそが悪魔となって襲いかかるんですね。

エクソシスト

少女の首がぐるりと180度回転する、有名な場面です。
「上映中に老婦人が心臓発作で亡くなった」という噂話も、作品PRに大きく貢献しました。
(もともと心臓病があったそうです)

ちなみにロードショーの締めの解説で、(確か淀川長治さんだったか)「少女役を演じたリンダ・ブレアさんは、現在も女優として元気にご活躍です」と強調されたのが今も印象に残っています。

この一言に救われた視聴者も少なくないのではないでしょうか。

エクソシスト

キリスト教と『エクソシスト』

カトリック教には、洗礼・堅信・聖体・ゆるし・病者の塗油・叙階・結婚という「七つの秘跡」がありますが、そのうち、最も重要なのは「ゆるしの秘跡」でしょう。

許可する「許し」ではなく、神の慈愛のもとに人の過ちを受け入れ、すくい上げる『赦し』です。

エクソシストでは、若いカラス神父の葛藤が大きなテーマになっています。

最後は、仲間の神父に看取られ、少女を庇う形で息絶えますが、仲間の神父による『ゆるしの秘跡』が意味するところは、母への負い目に対する赦しでもあり、少女も救われたが、カラス神父も救われた……という結末です。

今でもカトリック教会では、神父さんに悩みや迷いを打ち明ける「告解」が行われていますが、現代に喩えれば、カウンセラー的な存在ですね。

現代においても、あの小さな告解部屋の前に長蛇の列ができているのには、本当にびっくりしました。(アメリカ南部のカトリック教会です)

「あ、懺悔って、今でもあるんだ」と。

一方、隣人のとんでもない過ちや後悔を、延々と聞かされるのも、神父さんにとっては大変な心の修行であると想像します。

神の側に生まれても、悪魔の誘惑に遭遇しても、現代社会を生き抜くのは大変です……。

DVDの紹介

この作品は脚本が素晴らしい。

娘の変貌に戸惑う有名女優の母親。

これは「シングルマザー」という設定がいいんですよ。

家に問題が起きても、身をもって解決してくれる男親はいない。

その代役を果たすのが神父です。

70年代は、女性の社会進出に伴い、離婚問題もクローズアップされるようになった頃ですから(その先駆けとなったのが、ダスティン・ホフマン主演の「クレイマー・クレイマー」)、ある意味、家庭問題の側面を描いているホームドラマといえるかもしれません。

ちなみに、母親が、映画の中のドラマ撮影の場面で演じているのも、ウーマンリブ的な女性です。

DVDはディレクターズカットと劇場版が収められているブルーレイがおすすめ。
ディレクターズカットの一番の売りは、ブリッジで血を吐きながら階段を下りてくるシーンでしょうね。
個人的には、あれは不要だと思いますし、劇場版でカットしたのは正解かも^^;

エクソシスト ディレクターズカット版 & オリジナル劇場版(2枚組) [Blu-ray]
出演者  エレン・バースティン (出演), リンダ・ブレア (出演), ジェーソン・ミラー (出演), マックス・フォン・シドー (出演), ウィリアム・フリードキン (監督)
監督  
定価  ¥973
中古 22点 & 新品  ¥973 から

Amazonプライムで視聴する

初稿 2015年4月4日

目次
閉じる