【恋愛コラム】 自称『自立した女』が男に狂う時
この世で一番危ないのは、「自分で自分のことがよく分かっていない女」あるいは「自分のことを買いかぶっている女」だと思う。
私は強いから大丈夫。
私なら、こんなバカなことはしない。
自分で自分を高く評価していても、男に身も心も奪われ、欲情の虜になると、あっけなく自分を見失い、常軌を逸した行動に出る。
全米の「身に覚えのある数百万の既婚男性の心臓を止めた」と言われる映画『危険な情事』に登場するアレックスも同様だ。
ニューヨークのアパートに暮らす、一人暮らしの36才。
お洒落なスーツに身を包み、有能なエディターとして活躍する彼女は、誰が見ても、知的で、セクシーだ。
出版社のパーティーで、妻子持ちの弁護士ダン(マイケル・ダグラス)に出会うと、たちまち意気投合し、モーションをかける。
「私たち、大人じゃない?」
その言葉の通り、妻子のある男性とも、さらりとした大人の恋愛が出来るはずだった。
一夜限りの情事を楽しめる、お洒落なニューヨーカーのつもりだった。
ところが、ダンが愛する妻子のところに帰ろうとすると、アレックスは突然キレたようになり、包丁で手首を切って、狂言自殺を図る。
そうして、一時は自分の側に引き留めることが叶ったものの、幸せな家庭人として社会生活を営むダンが、アレックスとの情事を本気にするわけがない。
ダンが家庭に帰ってしまうと、アレックスは、あれこれ理由をつけてはダンと接触を図ろうとする。
職場に何度も電話を掛けたり、オフィスに出向いたり。
業を煮やしたダンが居留守を使うようになると、今度は自宅に無言電話。
ダンが自宅の電話番号を変更し、電話できなくなるようにすると、次は巧みに妻に近づいて、妻から新しい連絡先を聞き出す。
周囲に相談したくても、一夜の情事がバレたら、ダンの幸せな家庭は崩壊する。
ヘタすれば、これまで築き上げた社会的信用も地位も失うかもしれない。
戸惑う間にも、アレックスのストーカー行為はますますエスカレートし、ついには愛娘のエレンまでもが巻き添えになる……。
自称「お洒落な大人の女」が、「恋愛中にやってはいけない8つの法則」をことごとく破り、偏執狂のように自分を抱いた男と、男の家族を追い回し、最後は自滅するこの物語。
終わりかけの恋をなかなか受け入れることができず、相手の男性にしつこくメールしたり、電話した経験がある女性なら、きっと他人事とは思えないはずだ。
この手の女性に共通する思考回路はこうである。
「彼は私の本当の気持ちを知らないし、上手く伝わっていない。彼が私の気持ちを正しく理解してくれたら、再び彼に愛されるようになる」
そして、しつこくメッセージを送り続け、やがて嫌われる。
冷たくあしらわれても、それは彼の真実ではない。自分の伝え方が悪かったからだ。じゃあ、しばらく時間をおこう、今度はもっと優しい言い方をしてみよう、そうすれば彼の印象も変わるはず……等々。自分の都合良く解釈を膨らませ、決して現実を見ようとしない。
自分のプライドの方がずっと大切で、「彼に愛されていない」という事実を受け入れることができないからだ。
そうなると、「彼がいとしい」とか「幸せにしたい」などという次元ではなく、「自分を認めさせる」方が重要になってしまう。
ここで引いてしまえば、自分という女は無価値になり、自我が崩壊してしまうからだ。
アレックスも、いよいよ気持ちが煮詰まると、自分の想いを延々と吹き込んだカセットテープをダンに送りつける。
普通に考えれば、こんなものを送りつけられた時点でアウトなのに、彼がこのメッセージを聞いて、自分の心情を理解してくれたら、状況が好転すると信じ込んでいるのだろう。
このあたり、彼に長ったらしいメールを書いては無視され(あるいは一行メールでかわされ)、「返事がもらえないのは、私のアプローチの仕方が悪かったから」と自己解釈し、「彼に思い通りに愛される方法」とかいう恋愛本を読んで、何とか自分の思い描くゴールに導こうとする女の子の心理をよく描いている。
押そうが、引こうが、「愛されないものは、どうしようもない」。
この厳然たる事実を受け入れ、立ち向かっていく以外に救いはないのに、「まだ何か手立てがあるはずだ」と期待し、妄執に囚われてしまうのだ。
映画では、アレックスのあまりに常軌を逸した行動ゆえに非業の最期を遂げるが、現実の恋愛関係においても、思い詰めるあまり、仕事も私生活もメチャクチャになり、最悪、心も身体も病んでしまう女性も少なくない。
そして、その引き金を引くのは、たいていの場合、「私は大丈夫」という買いかぶりだ。
彼女たちは、自分の思い描くイメージが壊れることを自分に許さない。
「男に遊ばれる」とか「彼に愛されない」などという現実は、決して起きてはならない事であり、目の前の状況をねじ曲げてでも、自分の納得する形に収めようとする。そのセルフイメージへの執着が、皮肉にも、彼女自身を破壊してしまうのである。
アレックスも、最初は本当に「遊び」だった。大人として楽しく遊べるつもりだった。
ところが、身体で結びついてしまうと、「そうはさせぬ」というプライドが疼きだす。
情もある。未練もある。
男が家庭に戻るとなれば、淋しさも悔しさもこみ上げる。
そして、つい、男の心を引き留めるために手首を切ってしまった。たとえ一時にせよ、男が自分の所に留まってくれた。
そうなると、また「次」があるのではないかと期待するし、男の隙を見たような気持ちにもなる。
「あんなに楽しかったのだから」という感触が確かであればあるほど、それとは逆方向に向かう現実を否定したくなる。
お洒落なニューヨーカーだったはずのアレックスが次第に蛇のように執念深くまとわりつく様を見て、「あきらめの悪い女ねぇ」と思う人も多いだろうが、女というのは、身体で結びついてしまうと、理屈で割り切ることができなくなるもの。
そういう危うさを自覚しているか、していないかの差は大きく、「私は大丈夫、大人として遊べる」と買いかぶっている人ほど、現実が違う方向に向かうと、気でも狂ったように追い回すようになるのだと思う。
そう考えると、「幸せを掴む女」の定義は、顔形やセンスの問題ではなく、どれだけ自分のことを理解しているか、その一言に尽きると思う。
自分の性格が解っていれば、どう考えても合いそうにない男には、どれほど口説かれても易々とは乗らないし、後で傷つくのが解っていれば、最初から無理な付き合いは避けようとするからだ。
どれほど激しく心が燃えても、頭の片隅で先を見通す怜悧さがないと、必ず墓穴を掘る。
そして、その墓穴に落ちた時、相手の男は、意外なほど、傷ついてないものなのだ。
粘着気質を自覚する女性は、一度、こういう映画を見て、客観的に自分を分析してみるといい。
そして、どう見ても不利な状況で男と女が向かい合った時、男がどういう態度を取るか、じっくり見てみたらいいと思う。
どんな賢い独身女性も一発で黙らせる妻子持ち男の、この一言。
「僕には、妻も子どももある」
その場を言いつくろうために男が口にする定番のセリフ。
「君はとても素敵で、魅力的な女性だ」
横から割り込もうとする哀れな独女に冷や水を浴びせる、奥さんのこの一言。
「ミセス・ギャラガーです」
それまで奥さんとアレックスとはファーストネームで呼び合う間柄だったのに、夫と一夜の関係があったと知ると、いきなり「ミセス」を名乗るあたり、ものすごく真実を突いている。
アレックスを演じるグレン・クロースの鬼気迫る演技も秀逸だけど、この作品は何と言っても脚本がしっかりしている。
「そうそう、その場面で、男も女もそう言うね」と膝を打ちたくなるようなセリフが目白押し。
ジョン・グレイもびっくりなリアルなやり取りに、きっと背筋がゾゾっと寒くなることでしょう。
今は遊びのつもりでも、いつか蛇になるかもしれない……そんな弱さを自覚できたなら、恋愛もうんと上手になると思います。
【映画レビュー】 女が妻子持ちの男に遊ばれるということ
「私って、恋愛上手なのよ」
そう宣言してくれる女ほど、男にとって都合の良いものはない。
「この女なら、きれいすっぱり別れてくれるだろう」と、後腐れなく遊べるような気がするからだ。
もちろん、妻子持ちの男性だって恋はする。
あなたを素敵と想う気持ち、それは「本物」にちがいない。
でも、妻子に対する誠実や責任とは根本から違う。
独女にはそれが理解できない。とりわけ若い女性には、妻子持ちの男のしたたかさなど見抜けない。
だから本気と信じるし、どこか人の物を横取りして、得意になる自分がいる。
「私は奥さんより魅力的なのだ」そんな女性特有の優越感から、妻子持ちの男と軽く遊んでみたくなるのも本当だろう。
しかし。
女の本性は限りなく蛇に近い。
寝ると、豹変する。男が、他人でなくなる。
そして、プライドの高い女ほど、タダ乗りを許さない。
彼女は常に優越感にひたる必要があるので、より男の愛を求めるようになる。
ところが、男は違う。
「そんなことは最初から同意の上じゃないか、今さら被害者面かよ」
一気に気持ちが醒める。
だから、素敵な愛人で居続けるのは、ものすごい高等技術が必要なのだ。
それを理解せずに、尻尾だけ振ると、あとで悔しがることになる。
そうなると、誰の目から見ても、魅力的ではなくなる。
世の中には、稀に、妻も愛人も幸せにする男性がいるけれど、その他大多数は、女性にヒスを起こされると、あたふたして逃げ回るだけ。
誘いにのっても、何の得にもならない。
そもそも、まともな男なら──あなたに対して本当に深い愛情と誠実を持ち合わせているなら──、最初から愛人にしたいなどと思わないもの。
生活の保障もなければ、権利もない、世間にも顔向けできない、死んでも骨も拾えないetc。
心の底から愛して幸せにしたいと願う女性を、そんなみじめな立場に立たせたいと思うだろうか。
男にも我慢の美徳はある。
「好きだから、やりたい」が普通だと思っていたら大間違い。
世の中には「好きだからこそ、やれない」という男心も存在するのだ。
そういう粋が分からないような相手なら、どんなに心惹かれても寝ない方がマシ。
そこまで自分を落としたら、あとで後悔しないか?
よくよく冷静に考えてみると、男は何も失っていない。
あなただけが七転八倒し、若さも、時間も、可能性も、心安らかな日々も、犠牲にしてる……となった時、それでもあなたはその男にタダ乗りさせますか?
それでもいいよ、というなら、それも人生かもしれない。
でも、土日が侘びしい、と思うなら、それはやっぱり無駄な付き合いなんである。
みんな、最初は、「遊び」のつもり。
ところが、いざ男が自分から離れ、家庭に帰ろうとすると、女の遊び心も執着に変わる。
それに対して、男の理屈もみな同じ。「お互い楽しんだだけ。ルールは分かってたはずだ」
男を自分に繋ぎ止めるためなら手首も切る。だが、これはほんの序の口。
どうしても男を諦めきれないアレックスはあの手この手で繋がりを持とうとする。
なんでもない振りを装って、男の職場を訪ねたり。
深い意味は無いのとアピールしながらオペラに誘ったり。
だが、一度家に帰ると決めた男が簡単に誘いに乗るわけがない。
待てど暮らせと、男は現れず、部屋の明かりをプッチンパッチン。
それでも諦めきれない女は、自分の気持ちを吹き込んだテープを男に送る。
ここまでくると、しつこい。
完全に嫌われるのだが、追いかける女にはそれが分からない。
愛のこもった言葉も男には重い、暗い、鬱陶しいだけ。
仕事と家庭が危険に晒されると分かると、男は途端に保守的になり、女を憎むようになる。
ついには刃傷沙汰に発展。
どれほど「遊び」を気取っても、情事の結末はこんなものです。
DVDとAmazonプライムの紹介
危険な情事 スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] (Blu-ray)
Actors: マイケル・ダグラス (出演), グレン・クローズ (出演), エイドリアン・ライン (監督)
Director:
Format: 色, ドルビー, 吹き替え, 字幕付き, ワイドスクリーン
Language:
Subtitles:
Studio: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
Running Time: minutes
List Price: ---
Price: ¥1,510
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妻の側から見ても、愛人の側から見ても、非常に面白い映画。
何と言っても脚本が良いので、グレン・クロースやマイケル・ダグラスの演技がいっそうリアルに迫ってくる感じ。
「ホラー」や「サイコ・サスペンス」に位置づけられているそうだが、これはやはり男女の内面を鋭く描いた秀逸な恋愛映画だし、ラスト、浴室の場面の演出やカメラワークも最高にスリリングで、ヒッチコックの名作にも匹敵する。
私の中では、80年代洋画のベストテンに入る作品。
初めて見たのは20才の時だったけど、非常に勉強になりました(・ω・)