水中作業の完全無人化を目指して ~技術の進歩と不要になる人材

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【科学コラム】 技術の進歩と不要になる人材

技術の進歩に伴い、可能になる事もあれば、不要になるスキルもあります。

一つのスキルが不要になるということは、それを扱う人材も不要になるという事で、自分がそれに該当すれば、気持ちも複雑でしょう。

何でも無人化は素晴らしいことだ、人の手より優れている、と無条件に思われている節もありますが、無人化や完全自動化が、100パーセント、人より優れていると言い切れない部分もあり、それをどう解釈するかで、現場の業務も、従業員の士気も、何もかも変わってきます。

本作では、従来、有人潜水艇を用いて人為的に行っていた深海での接続作業を、水中無人機に切り替えよう、という話が登場します。もちろん、これはフィクションですが、この人為的な作業には、スタッフ全員の嫌われ者、プロジェクト・リーダーのレビンソンが深く関わっており、追い出したくても、追い出せなかった経緯が描かれています。

嫌われ者は、皆から嫌われていることを知って、わざと居丈高に振る舞い、自分抜きで接続作業ができないように仕向けてきました。

一方、嫌われ者を恐れるスタッフは、事業の最高責任者である理事長にも言い出せず、悶々とするばかり。

そして、理事長は、現場の心情を理解しながらも、粛々と事業を推し進める。

どこの世界も、技術云々より、人心で苦労する方が圧倒的に多いと思います。

だからこそ、一丸となって何かを成し遂げた時の達成感は計り知れないのでしょうけど。

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このパートは『海洋小説『曙光』(第二章・採鉱プラットフォーム)』の抜粋です。 作品詳細はこちら

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九月十二日。木曜日。

採鉱プラットフォームでは定例の主任会議が開かれた。

五階のカンファレンスルームには、ダグラス・アークロイドとガーフィールド・ボイル、採鉱システム・プロジェクトリーダーのラファウ・マードック、プロテウス運航・管理を請け負うフーリエに加え、プラットフォームの運航を担当するブロディ一等航海士、機関部チーフのオリガ・クリステル、オペレーションチーム・リーダーのノエ・ラルーシュ、総務部長のカリーナ・マードックらが顔を揃えた。

ヴァルターはフーリエとマードックの間に座り、テスト潜航の必要性をとうとうと説いたが、ダグとガーフィールドの見解は変わらない。

「だから、テスト潜航など必要ないと何度も言ってるだろう。お前、自分が怖いくせに、もっともらしい理屈を並べて本音を誤魔化しているだけじゃないか。接続は無人機だけで十分に対応できる。テスト潜航など必要ない」

ダグが言い切ると、 

「私も納得がいかないわ」

女性機関士のオリガがよく日焼けした顔を上気させながら言った。

「今後は水中作業も海洋調査も、なるべく無人機でやるという方向で合意していたはずよ。ジム・レビンソンが抜けた以上、プロテウスの必要性など無いじゃない。今後、十年、二十年と採鉱システムが稼働すれば、深海での水中作業も確実に増えるわ。その度にプロテウスを運航していたら、金銭的にも人的にも消耗する一方じゃないの。もう、レビンソンは居ないのよ。これからは自分達で何でも決められる。全自動化の技術を確立する為にも、全面的に無人機に移行することを私は支持するわ」

四十半ばのオリガは鬱積したものを吐き出すように言った。

するとオリガの隣に座っていた三十三歳のノエ・ラルーシュも、「僕も同感だな」と声を合わせた。色白で、シャープな顔立ちのラルーシュは、海洋調査機や水中ロボットなどのオペレーションとメンテナンスを担当している。第二世代と言われる若いオペレーターの中では卓越した技術の持ち主だ。

「オリガの言った通り、もうジム・レビンソンは居ないんだし、今後は僕らの意向をどんどん現場に反映させるべきだと思う。潜水艇を使う意義を完全に否定はしないが、レビンソンのせいで無人化が大幅に遅れたのも事実だ。何かにつけて『オレが潜る』と言われ、その度にスタッフが駆り出されてきた。あの人の怒号を思い出すだけで、僕は未だに嘔気がする」

いつもは物静かなラルーシュが青白い顔を震わせるように言うと、フーリエも控えめに頷いた。

「ノエの言う通りだ。死んだ人間の悪口を言うわけじゃないが、あの人のせいで現場が疲弊し、無人化が大幅に遅れたのは事実だよ。今までプロテウスの潜航に注ぎ込んだ経費を無人機の開発や購入に充てれば、どれほど助けになったことか。オレも今後の方針として無人化を促進するのに賛成だ。プロテウスには別の存在意義がある」

皆一様に頷き、そこで決着するかと思われたが、ラファウ・マードックが反論した。

「だがね。今度の接続ミッションは、やはり理事長の判断通り、プロテウスを使った方がいいんじゃないかな。過去三回のテスト採鉱も、二回はプロテウスで接続作業を行ったんだし」

マードックが「理事長」の部分を強調すると、数々の海洋調査にも携わってきたブロディ一等航海士も同意した。

「今後の方針は別として、十月十五日の接続ミッションは、従来のシナリオ通り、第一回、第二回のテスト採鉱と同じ要領でやるべきだと思うよ。無人機で出来るのも実証済みだが、海上でプラットフォーム全体の運航を司る立場としては、今までと勝手が変わるのはなるべく避けたい。オペレーター諸君の技術を信用しないわけではないが、無人機の技術向上は本採鉱が始まってからでも遅くない。ここはやはり最初のシナリオ通りに行くべきじゃないか」

「ブロディ一等航海士の言い分も分かるけど、プロテウスを使えば、その分、時間も人手も取られるわ。無人機で接続できる技術があるなら、そちらにウェイトを置いた方がよっぽどいいんじゃないの。それに、今度のパイロットさん、『テスト潜航しないと怖くて操縦桿が握れない』と仰ってるんだし」

オリガが当てこするように言うと、ダグとガーフィールドもガハハと笑い、

「これならまだジム・レビンソンの方がましだったかもしれねえな。奴(やつこ)さん、口は悪くても、腕は確かだったから」

「それはあまりな言い草じゃないの」

カリーナが黒縁の丸眼鏡の奥から厳しい視線を向けた。

「この方が理事長に呼ばれたのは、過去の事情と何の関係もないはずよ。それに、初めての接続作業となれば、一度試したいと思うのが当たり前でしょう。理事長の判断に不満があるなら、直接言いなさいよ。プロテウスもパイロットも必要ない、接続ミッションは無人機でやります、と」

「ですから、ミセス・マードック、我々はジム・レビンソンが行方不明になった後の主任会議で『プロテウスは必要ない』と判断し、理事長にもそのように返事したのですよ。その場にはあなたのご主人もおられた。それで意思統一が図れたつもりだったんですがねぇ」
ダグが含みのある言い方をすると、カリーナも口を尖らせ、

「その時はそうだったかもしれないけど、その後、ふさわしいパイロットが見つかって、理事長が必要と判断されたのだから、それに従うのが筋じゃないの。私は理事長と夫の判断を信じるわ」

すると、夫のラファウがカリーナの腕をつつき、

「まあまあ、君も落ち着いて。僕は皆の話を聞いて、どうもレビンソンにこだわりすぎな気がするよ。レビンソンに嫌な思いをさせられたのは皆同じだ、僕だって例外じゃない。だが、それと今度の接続ミッションはまったく別問題だろう。確かにテスト潜航を行い、当日もプロテウスを使えば、その分、人手もとられるし、経費もかかる。だが、冷静に考えてみてくれ。過去三回のテスト採鉱は、いずれもレビンソンが陣頭指揮を執って、そのうち二回はプロテウスで接続作業を行った。なぜ今になってやり方を変えようとする? それとも、無人機にこだわるのは理事長への当てつけかい?」

ダグとガーフィールドが押し黙ると、マードックも一呼吸おき、

「皆がレビンソン・ショックから抜けきれない気持ちはよく分かる。だが、僕たちが最優先しなければならないのはミッションの成功だ。事情がどうあろうと、一番安全で確実な方法を採るのが筋だろう」

「そこの新米パイロットに任すのが、『一番安全で確実な方法』だと?」

オリガが黒い瞳をきろりとヴァルターに当てると、

「今更無人機でやり直すより理に適ってる」

マードックは穏やかな口調で返した。

「でも、怖くて出来ない、と言ってるんでしょう」

オリガが呆れたように言うと、

「『怖い』とは言ってない」

ヴァルターが初めて口を開いた。

「いろんな必要性から『テスト潜航』を促してるだけだ」

「だったら、テスト潜航の三〇〇万はお前が捻出しろ」

ダグがどすの利いた声で言った。

「この際だから言うが、本採鉱までの予算はギリギリいっぱいなんだよ。これ以上金を使えば、オレやガーフィールドの管理能力が疑われる。先月、理事長にもきつく言われたところだ。だが、そうなった原因は、大半がジム・レビンソンにある。あのクソ野郎が修理費だの何だの、がんがん金を使い込んだせいだ。理事長もそれを知っていて、何も言わなかった。そして、今頃になって本採鉱までの予算はこれだけ、これ以上、金をドブに落とすような真似をしたら承知せんぞと釘を刺す。この上、予定外のテスト潜航に三〇〇万出せと言われても、出せるわけがない」

「ちょっと待って、私はそんな話は聞いてないわよ」

カリーナが眉間に皺を寄せた。

「経理の上では三〇〇万の予定外出費も十分可能よ。機械のトラブルや悪天候によるミッション延期など、不測の事態に備えて、ちゃんと予算枠を確保しているもの。具体的な数値は言えないけども、絶対的に無理な金額じゃないわ。正当な理由なら、理事長も快諾されるはずよ」

「そりゃあ、あんたは理事長のお気に入りだから、可愛くお願いすれば一千万でも二千万でも、好きなだけ予算を使わせてくれるさ。だが、オレ達はそうじゃない。今までジム・レビンソンが好き放題に使い込んだ金の尻ぬぐいを全部させられてきた。食事だって、もうちょいマシなものを仕入れたい。新調したいオフィス機器もいっぱいある、それが出来ないのは、あのクソ野郎が湯水のように予算を使い込んだからだ。テスト潜航に三〇〇万支出するぐらいなら、浄水設備を新調した方がよっぽどましだ」

ガーフィールドも頷くと、

「その通り、テスト潜航に三〇〇万エルクも費やすぐらいなら、もうちょいマシな使い道がある。大体、これ以上、プロテウスを使うメリットがどれほどある? もう大方の調査は済んで、後は無人機とソナーで十分カバーできる。海中作業も同様だ。オレには、今更パイロットを連れてきて、レビンソンと同じことを繰り返そうとする理事長の考えがよく分からん。プロテウスを出す度に金も人手も取られて、その尻ぬぐいをさせられるオレやダグの立場に立ってみろ。もう、うんざりだ。あのクソ野郎の時代から、未だかってオレたちの意思がストレートに現場に反映されたことがあったか?」

「馬鹿馬鹿しい」

ヴァルターが吐き捨てるように言った。

「それだけ不満があるなら、なんでもっと早い段階で理事長に進言しないんだ? 何年もマネージャー業務に携わってるなら、話し合うチャンスは幾らでもあっただろう?」

「君はジム・レビンソンという人間を知らないから、そんな風に言えるんだよ」

ノエ・ラルーシュが青白い顔を震わせた。

「人間の嫌な部分を煎じて、釜で煮詰めたような人さ。ちょっと疑問を呈しただけで口汚く罵られ、ナビゲーションの応答が遅いとマイクで大音量でどやされる。いっそ反対方向に誘導して、プロテウスごと海底に沈めてやろうと思ったぐらいだ。もし、理事長に直訴したことがバレたら、後でどんな目に遭うか分からない。僕の後輩は、もうちょっとで酒瓶で頭を殴られるところだったんだぞ」

「だが、そんな人間の屑でも、採鉱システムを完成できるのはレビンソンしかなかった訳だろう。それじゃあ、仕方ない。このプラットフォームの第一の目的は海台クラストを採取することだ。君らに楽しい思い出を作ることじゃない。何をどう訴えようと、タヌキの腹は変わらない。俺がタヌキでも、あんたらの泣き言は後回しにする」

「あなたもレビンソンと同じ暴君なの?」

オリガが眉をひそめると、

「俺は現実を言ってるんだよ。タヌキの理事長はプラットフォームに全人生を懸けている。あんた達の辛い思いと採鉱を秤にかければ、採鉱に傾くのが当たり前だ。それでも最大限の気遣いはしてきた。だから、あんた達も多少の理不尽を感じながらも、理事長に付いてきたんだろう。だが、もう過ぎた事だ。今、ここでレビンソンがどうこうと暴露大会したところで誰も浮かばれない。それより接続ミッションについて話し合おう。テスト潜航の可否はともかく、一つ意識して欲しいことがある。それは採鉱区の地形と深海流だ」

「どういうこと」

「ここ数日、あんたらの嫌いなレビンソンが残した覚え書きに目を通して気付いたんだが、最初の採鉱区となる段差の下、テスト採鉱した場所より三〇〇メートル深い平地の東側は、毎秒三〇センチメートル以上の強い深海流が流れてる。しかも流量の変動が大きいので、長期にわたって連続的に観測しないと実態がつかめない。レビンソンは何度も採鉱予定区に潜って、プロテウスから有索無人機を遠隔操作する中で、その『おかしな流れ』を肌で感じたんだろう。制御不能とまではいかないが、無人機や潜水艇を定位置に保持するのが難しいと書き残している。俺も似たような経験があるから、レビンソンが何を言わんとしているか、よく分かるんだ。喩えるなら、車が強い横風に流されて。ハンドルを切りにくくなるのと同じだ。それに採鉱区は凹凸も多く、平均九パーセントの傾斜がある。重機の稼働には問題ないかもしれないが、揚鉱管の接続口は集鉱機のルーフにあって、微妙に傾いた状態で操作しないといけない。それに集鉱機の場合、安全装置解除のダイヤルスイッチが車体の左側側面にある。手順通り集鉱機を南向きで設置したら、ダイヤルスイッチは傾いた車体の下側にくる。海上から無人機を遠隔操作するにも、完全に水平な状態で作業するのと、車体が傾いた状態で作業するのでは勝手も違うだろう。その上に、毎秒三〇センチメートルの強い深海流が加われば、予期せぬトラブルも発生するかもしれない。一〇〇パーセント確実と言い切れないのは、無人機も同じだ」

「じゃあ、今までのテスト採鉱は何だったの?」

オリガが尚も納得がいかないように唇を尖らせると、

「思うに、レビンソンはわざと成功しやすい場所でテストしたんじゃないか。マッピングがどうこうは、それこそこじつけだ。あんた達が酒癖の悪い暴力男に逆らえないのをいいことに、自分で場所を選定し、段取りを決めて、プランを押し通した。テストに失敗すれば、自分の立場が弱くなるからだ。下手すればクビを切られて、十分に育ったマードックにリーダーを取って代わられるかもしれない。実際、理事長との間で、何度もそういうやり取りがあったんじゃないか? 恐らく、採鉱区の実際の状況がどんなものか、自分で何度も潜ったレビンソンが一番よく知っていたはずだ。それこそ無人機では推し量れない世界だ。そして、誰も強く言えないのをいいことに、自分の都合いいようにセッティングしてきた。ある意味、暴力や罵倒も、下っ端に文句を言わせない為の虚勢だったかもしれない。ところが、三回目のテスト採鉱で、全行程を無人機だけで完遂できる可能性が高まった。『プロテウスでしか出来ないこと』が、『プロテウス無しでも出来ること』に変われば、レビンソンも今までのように強気でいられなくなる。テストした夜に浴びるほど酒を飲んだのも、いよいよ解雇されると自覚したからじゃないか」

「なんで、そこまで言い切れる?」

ダグが訝ると、

「『プロテウスのパイロットは特殊技能だから簡単にはクビにできない』。この人も俺と同じことを考えていたような気がするからだ。何かといえば『オレが潜る』と言い張ったのも、自分にしか出来ないことを周りに強くアピールする為だろう。首の皮一枚で繋がった嫌われ者だという事を、一番よく知っていたのはレビンソン自身だ。プロテウスも強がりも、この人なりの生き残る術だったのかもしれない」

「だからといって、皆を傷つけた事実が許されるわけじゃないわ」

オリガが強い口調で言い返すと、

「もちろんだよ」

彼も頷いた。

「ただ理解はできる。その人、天涯孤独だろう。ここを失ったら、どこにも行き場がなかったはずだ。たとえ皆に嫌われても、誰にも必要とされずに生きていける人などない。嫌な人だったかもしれないが、海で死んだら善人も悪人もない。そこには人の死があるだけだ」

一同がしんと静まり返ると、マードックが先を進めた。

「ともかく、レビンソンの話はいったん横に置こう。ミッションの段取りを決めないと。それでヴァルター、テスト潜航したい理由は接続操作だけなのか?」

「前にも言った通り、水中カメラや音響データでは確認できない部分が必ずある。三台の重機を二十四時間フルタイムで稼動すれば、地形もどんどん変わって、思わぬ事態が生じるものだ。もちろん全体を見通すのは一度の潜航では無理だが、たとえば採鉱区の特に傾斜の激しい部分、特にニムロディウムの含有量が多いとされるエリア、海底の堆積物の状態、いろいろ見るべき箇所はある。まさかシステムそのものが万全に稼動するからといって、今後、何も起きないと安心しきってるわけじゃないだろう。だから採鉱前の状態――三台の重機に掘り返される前の状態を目に焼き付けておきたいわけだよ。必要とあれば、カメラに撮影したり、サンプルを採取したり、やるべきことはいろいろある」

「それも一理あるな」

マードックが後押しした。

「重機が九度以上傾いた状態で接続するのも確かだし、揚鉱管の接続も、高電圧リアクターのダイヤルスイッチも、至近距離でプロテウスから小型無人機を発進して操作した方が分かりやすいのも本当だ。将来的にはリアクターや重機そのものの構造を変えて、全自動化する予定なんだから、今回だけは予定通りプロテウスを使ってはどうだ。そして本当に必要なら、テスト潜航も検討する」

「だが、三〇〇万エルクはどうするんだよ。もっと金が掛かるかもしれねえぞ」

するとヴァルターが改まり、「俺が一緒に考えよう」と皆の顔を見回した。

「今すぐ三〇〇万エルクを捻出するのは無理でも、年単位で経費を節約することは可能なはずだ。たとえば、プラットフォームの夜間照明も、あれほど煌々と照らす必要はないだろう。いくつか消灯するだけで、かなりの電力が節約できるはずだ。初期費用はかかるが、ブリッジの屋上に太陽光発電のパネルを増設したり、浮体式の洋上風力発電ファームを導入するのも一手だと思う。また各部署の業務を見直して、エンタープライズ社や外注で出来ることは、なるべく遠隔に切り替える手もある。プラットフォームの常駐スタッフを一人削減するだけでも、かなりの節約になるはずだ。他にも、共同浴場のシャワーの水量を絞る、各階の娯楽室の夜間使用を制限する、炭酸飲料の自動販売機を一台減らす。調理室で気前よく配っているペットボトルのミネラルウォーターも何割か課金するか、プラットフォームに来る時には『一人二本ずつ持参』とか義務づけたらどうだ。一人二本持参するだけで、毎月二百本以上の節約になるぞ」

オリガ声を立てて笑った。

「それってオランダ式会計(ダツチアカウント)?」

「生活の知恵だよ。子供の頃、父親に教わらなかったか? 電灯はこまめに消すとか、使える物はとことん使い回すとか。プラットフォームだってその応用だ。あんたら、まさか自分の懐が痛まないからと言って、シャワーのお湯やら、娯楽室のコーヒーマシーンやら、がんがん使い込んできたわけじゃないだろうね。探せば節約できる部分はいくらでもある。一人一人が本気になれば、年間一〇〇万ぐらいは浮くはずだ。ともかく、テスト潜航と接続ミッションの件は、よく考え直してもらえないか。その上で、来週、皆で話し合おう。それまでに俺も三〇〇万を捻出する方策を考えてみるよ」

「おい、勝手にイニシアチブを取るな」

ダグが横睨みすると、

「それじゃ、主導権はお返しするよ。もうこれ以上話し合っても平行線だろ。あんたの方から閉会を宣言してくれ。それで今日はお開きにしよう」

最後はヴァルターの掛け声で終わった。

次のエピソード
道

【リファレンス】 無人機を使った海中の機械作業

無人機を使った海中作業の一例。周囲は真っ暗で、水中の浮遊物で視界も悪いです。機材やシステム自体が古いせいもありますが、地上でパイプを繋ぐようにはいきません。

こちらも有索無人機のマニピュレータを使った細かな水中作業です。全て船上のコントロール・ルームから遠隔操作しています。

無人機(ROV)にも潜水艇に搭載するような小型のものから、大人の背丈ほどある大きなものまで、サイズも用途も様々。こちらのビデオは細部まで分かりやすいです。

海外では鉱山会社の採掘現場にも女性が普通に任務を得て、重機を動かしたりしています。マッドマックスのフュリオーサ大隊長で有名なシャーリーズ・セロンが主演した『スタンドアップ』でも、炭鉱で働く女性のハラスメントを描いています。本作では「悲惨な採掘現場」が登場しますが、一般的な鉱山会社の採掘現場では「奴隷のように鞭打たれて」というのは前時代の話。巨大なハイテクマシンが全自動でガンガン露天掘りをやってます。

鉱山の女性スタッフ

鉱山の巨大重機

Photo : https://goo.gl/i1aaaN

おまけ。

海底パイプラインと無人機

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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