『哭きのサックス』ガトー・バルビエリ ~恐れずに「好き」と言おう

音楽配信サービス『Spotify』には、リスナーの好みに合わせた「今週のディスカバー(欧州ではDiscover Weekly)」という、非常に面妖な「お勧めプレイリスト」が存在します。(2016年9月より、日本でもサービス開始しました)

私が日々、愛聴している曲をSpotifyが(勝手に)分析し、週に一度、「お前の好みのサウンドはこれだろう」とゴリゴリねじ込んでくる、お節介、かつ便利なサービスです。

そして、今週の月曜日に新たに追加されたのが、コチラ。(←アクシデントでファイルが消えました)

目次

ガトー・バルビエリって、誰よ?

私の場合、クラシック、映画音楽、80年代ポップス、Smooth Jazzなど、いろんな種類の音楽を聴くので、お勧めのプレイリストも、『Chicago(シカゴ。70年代から80年代にかけてブレイクしたアメリカのロックバンド。日本では『素直になれなくて』が有名。現在も活動中)』の次に、プッチーニが配信されるという、けったいな仕様に。

せめてジャンル分けしてくれたらいいのに・・と思うけど、それは流石に無理みたい。

で、とりあえず流しで聞いていて、

なんだ、このオヤジのだみ声みたいな、哭きのサックスは……

と思ったら、ガトー・バルビエリ (・ω・)

やはり、お主であったか。

一音、耳にしただけで、すぐにそれと分かってしまう、クイズ・ウルトライントロ並に熱いサウンドがいいですね。

*

私が初めてガトー氏を知ったのは、マーロン・ブランド主演の映画『ラストタンゴ・イン・パリ(ベルナルド・ベルトリッチ監督)』がきっかけです。(参照 → 愛と破滅の旋律 マーロン・ブランドの『ラストタンゴ・イン・パリ』

映画も「バターの場面」で有名ですが、やはり心に残るのは、どこか哀しく、官能的なテーマ曲でしょう。

このテーマ曲にはいくつかバージョンがあって、ガトー・バルビエリの『哭き』が入ってるのも聴き応えがあります。(ハ~~、ヤッ、イエェ~ みたいな合いの声が入ってる)
とにかく、ねっとりと、いやらしい。
腰に絡みつくような、いやらしさです^^;

若い娘に岡惚れした中年男が、人生の破滅を前に、浮かれてタンゴを踊る名場面です。
前後の展開を知らないと、ただ、いやらしく踊っているだけにしか見えませんが、全編を知ったら、この場面の美しさと儚さがよく分かります。

ほんと、リスナーの皆さんが口をそろえて仰るように、とにかく濃い、濃い、濃い。

ブルドッグのお好みソースのようにネットリと熱く、都はるみのようにコブシがきいている。

こんなこと言ったらナンですが、曲も演奏もとことん「オヤジっぽい」のです。

喩えるなら、大阪ミナミの千日前キャバレーという感じ。

千日前キャバレーが悪いわけではないけれど、キタの新地のジャズクラブで、一杯2000円のギムレットとか飲んでる層から見れば、なんとも泥くさい感じが否めないんですね。

もちろん、それが個性であり、魅力なのですが。

サックスが哭くほど、ファンも泣く

今日も久々に聞いてみたけど、さびの部分で、都はるみのようにコブシが回るのは相変わらず。

ああ、サックスが哭いてる、哭いてる・・・

そう。

ガトー様のサックスは『哭く』のですよ

それも嘆きの泣きではない。

オレの熱い魂を聞かせるぜ!! みたいな、哭き。

こちらのエッセーにも書いてあります。(現在はリンク切れ)

ガトー・バルビエリのことなど / 瀬崎 祐 

ガトー・バルビエリが好きだということは、実は、どうやら 大変に恥ずかしいことらしいのだ。
彼のジャズは二流であり、実は 自分もガトーのファンであるということは、恥ずかしくて他人には言えない、と書いているジャズ評論家もいたぐらいだ。

何となく、分かるような気がする。

「コルトレーンが好き」「チャーリー・パーカーが好き」と言えば、いかにも「通」って感じだけど、「ガトー・バルビエリが好き」といえば、たちまち千日前磁場が発生して、「誰、それ」「悪趣味」みたいな雰囲気になるから。

ガトーが哭けば哭くほど、ファンは大声で好きだと言えず、影で泣いているのです。

一流のジャズとは何か? 一流でなければ、好きになってはいけないのか

ところで、「一流のジャズ」って何?

評論家の認めたジャズが一流で、そうでないアーティストは二流ってこと?

人は一流の作品こそ感動すべきであり、二流の作品に心惹かれるのは、お前自身が二流の証だから?

そんな訳ないですよね。

これはガトー・バルビエリに限らず、クラシック音楽でも、小説でも、マンガでも、何でもそう。

●●のファンと言えば嗤われる。

お前には見る目がないと侮蔑される。

そうした風潮が、ファンの心を萎縮させると、権威や五つ星評価にすがるようになります。

人に嘲られ、仲間はずれにされるのが怖いから、インチキみたいな作品にも拍手喝采して、「自分にも見る目はある」とアピールするようになる。

自分の好きな気持ちより、体面の方が大事だからです。

しかし、本当に好きなものを正直に「好き」と言えない社会って、生きていて楽しいですか?

ファン魂って、その程度なのでしょうか。

誰かに「お前、あんなミュージシャンが好きなのか。だっせー。悪趣味ー」と詰られたら、好きな気持ちも引っ込めてしまうほどに。

いや、それ以前に、なんで、そんなに自分の審美眼に自信がないのか。

皆が「いいね!!」と評価するから、それに混じって、自分も後ろの方で小声で「いいね」と同調するような人生に、愛も、成功も無いですよ。

だって、それは自分の人生を生きているのではなく、他人に決めてもらって生きてるのと同じだから。

好きなものは「好き」と大声で言おう

ガトー・バルビエリでも、ダグレイ・スコットでも、本当に好きなら、「好き」と、大声で言えばいいのです。

たとえ、世間では三流と見なされても、自称・通にバカにされても。

なぜなら、「好き」と思う気持ちは、人間にとって、非常に大切なものだからです。

多くの人は、何かを批判したり、嫌いになるのは得意だけど、褒めたり、好きになるのは、案外、苦手。

批判は、自分のプライドを傷つけることはないけれど、好きな気持ちは、時に己を傷つけるからでしょう。

「悪趣味」とか「見る目がない」とか、他人に否定されると、自分自身まで否定されたような気持ちになりますからね。

でも、見方を変えれば、誰かをそれだけの気持ちにさせる作品やアーティストって、それだけの価値があるんですよ。

世間の評価がどうあれ、誰かの心を動かしたことに違いないのですから。

『哭き』の極意はスタイルを変えない強さ

ジャズ評論家でさえ口をつぐんでしまう理由は、ガトー様自身が一番よくご存じでしょう。

にもかかわらず、「オレはこうだ」と貫くところに『哭き』があるのです。

なぜって、『芸術とは何か』と問われたら、己以外の何ものにもなれないことだと思うから。

コルトレーンが一流だから、今はキャンディー・ダルファーが主流だからと、その都度、聴衆におもねるような演奏したって、結局は何ものにもなれずに終わります。

通の間で、二流呼ばわりされようと、口にするのも恥ずかしい存在であろうと、ガトー様が世の末まで『哭きのガトー』だからこそ、書庫の隙間から、あるいはスピーカーの影から、こっそり応援し続けるファンがいる、それも立派な才能であり、芸術ではないでしょうか。

誰もが適当に聞き流す音楽配信サービスの『おすすめプレイリスト』の中で、サックスの音色を聴いただけで、「おっ、ガトー様や」と振り向いてしまうサックス・プレイヤーが、この世に何人存在することか。

私なんか、キャンディー・ダルファーと渡辺貞夫の区別もつかん。

でも、ガトー様のサックスだけは、何所で聴いても分かります。

だって、お好みソースのように熱いんですもの!!

そんな訳で、ちらとでも興味が湧いたら、ぜひSpotifyのガトー様のページを訪れて下さい。

ディープなファンには嬉しいラインナップかも。 

『QUE PASA』や『Caliente!』もちゃんと収録されておりますよ。

のっけからビンビンに飛ばしている『Europa』。
FMラジオや喫茶店のBGMなどで耳にした人も多いのではないかと思います。
哀愁が漂いながらも、どこか「情熱♪熱風☆せれなーで」のようにコテコテしたムード、腹の底からひねり出すような演歌風のコブシ、お洒落なんだけど場末っぽく、「国道沿いのラーメン屋」を思わせる雰囲気が逆に個性的で、一度聞いたら忘れられません。
褒めるか、けなすか、どっちかにせぇや・・って感じのレビューで申し訳ないけど、「ああ、まだこの路線で頑張ってはるんや」って、ほんま感動しましたよ、Spotiryで最新アルバムを聴いた時は。

哭いてる、哭いてる!

この熱い世界を、ぜひ背中が煤けるまでお楽しみ下さい!

*

ちなみに、サックス界のキワモノといえば、リッチー・コールも有名ですね。

超絶技巧で、ビンビンに飛ばすので、界隈では鼻つまみのように嫌われているそうですが、リッチーの Last Tango in Paris のアレンジも素晴らしいですよ❤

リッチーも最後の方で哭いとるな^^;

初稿 2015年10月27日

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

目次
閉じる