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上質な大人のラブロマンス ジェイソン・ステイサムの『ハミングバード』

2020 7/03
目次

上質な大人のラブロマンス&アクション 『ハミングバード』

薔薇とワインの似合う男 : ジェイソン・ステイサム

ジェイソン・ステイサムって、アクションは上手いし、顔も上等だし、どこをとっても申し分のない、いい役者さんだな……と思ってはいましたが、長い間、いまいち好きになれませんでした。

理由は、ジェイソン・ステイサムは、アクション映画に『薔薇とワイン』を持ち込むからです。

アクション映画というのは、零下10度の絶壁を半袖のTシャツ一枚でぐいぐい登ったり、マシンガンを持った相手を素手で殴り倒したり、どう考えても、100回ぐらいは死んでそうなシチュエーションでも、何の臆面もなくヒーローが打ち克つ作品をいいます。

激しい銃撃戦になっても、シルベスタ・スタローンの周囲だけは着弾せず、ガラスの破片が雨のように降り注いでも、顔には傷一つ付かない。
敵側のボスもさっさと起爆装置を押せばいいのに、「冥土の土産に、ジェーンが何故死んだのか教えてやろう。シンジケートの黒幕は、このワシなんだよ。ジェーンが死んだのは、それに気付かなかったお前の落ち度だ。恨むなら、自分の愚かさを恨め……」etc、
べらべら喋りまくってる間に、ブルース・ウィリスが手首の縛めをガラスの破片で切断し、一気に形勢逆転する、あの白々しさが醍醐味なんですね。

ところが、ジェイソン・ステイサムは、本来、マッチョで、馬鹿馬鹿しくあるべきアクション映画に、『薔薇とワイン』を持ち込んでしまう。

『ランボー』や『ダイハード』で育った私には、ジェイソン・ステイサムの知的でダンディな雰囲気はあまりに眩しすぎて、しまいに腹が立ってくるんです。あまりのカッコよさに (;´Д`)ハァハァ

うちらの時代は、こうやもん・・↓

で、長い間、ジェイソン・ステイサムの作品は避けて通っていたのですが、2013年公開のイギリス映画『ハミングバード』には心が溶けました。

どれくらい心惹かれたかというと、ブルーレイを買っちゃうレベル。それも海外発送で (*'д`*)♂

ハミングバードのブルーレイ

物語はいたってシンプル。

アフガニスタンで五人の仲間を殺害された特殊部隊員のジョゼフ(=ジェイソン・ステイサム)は、その報復として、現地の民間人を独断で殺害し、軍法会議にかけられる。
逃亡したジョゼフは、ロンドンでホームレスに紛れて暮らしていたが、ある晩、ギャングに追われ、偶然、高級アパートメントに転がり込む。
オーナーが半年ほどニューヨークに滞在することを知ったジョゼフは、『男の恋人のルームメート』を装い、中華料理店で働き始める。
中国人系オーナーに腕前を見込まれ、汚れ仕事も引き受けるようになるが、一方で、ホームレスに炊き出しをするポーランド系の修道女、シスター・クリスティーナと心を交わし、彼女のボランティア活動を陰ながら支えるようになる。
そんな折り、知り合いの女性(娼婦)が殺害されたことを知り、ジョゼフはギャングのネットワークを利用して、復讐を試みる。
そんな中、ジョゼフとクリスティーナの絆はいっそう深まるが、、、、。

官能的な情事の演出と中学生みたいなキス・シーン

アメリカ映画も、イギリス映画も、たいてい主音声が『英語』で作られていて、よほどの通でなければ、その違いは分かりにくいと思います。
『ハミングバード』も何も知らずに見ていたら、多くの人は「ハリウッド映画」と思うでしょう。
でも、イギリス映画は、ハリウッド映画と違って、『対象(あるいはテーマ)』から、ちょっと距離を置くところがありますね。
ハリウッド映画が直裁的でゴテゴテの芸風とすれば、イギリス映画はどこかぼやけた風景画という感じ。
ラブシーンでも、ハリウッド映画はお約束のようにヒロインと主人公が激しく絡むけど、イギリス映画は「そういう情事がありましたよ」と背景で語ることが多い。

たとえば、私が一番好きなのは、互いの気持ちを確かめ合ったジョゼフとクリスティーナが一夜を共にする場面。
直接的な絡みは一切なく、二人が身に着けていたものが点々とテーブルに置かれる演出。
それでも、徐々に距離が縮まり、一枚ずつ服を脱いで……という情景が目に浮かんで、エロティックでしょう。
池上遼一の劇画にも、こういう演出がありますが、ストレートに絡みを描くより、よほど知的で、上品です。

一つずつ身に付けているものを外していく

情事を思わせる演出

ドアの隙間

二人が初めて口付けを交わす場面も、中学生のファーストキスみたいで、どきどき♪
お堅い修道女のクリスティーナに赤いドレスをプレゼントし、写真家のパーティーに招待するジョゼフ。
軽く酔ったクリスティーナと、ついついショーウィンドウ・チューしてしまう。(「ショーウィンドウの前でキス」は恋愛映画の定番ですね)

ジェイソン・ステイサムとシスターのデート

あの腕っ節の強い、女にもてまくりのジェイソン・ステイサムが、この映画では清純なシスターを前におどおどして、初めてキスする中学生みたい。
こういう演技もできるんだなあ、と頬が緩みます(*^_^*)

ショーウィンドウの前で初めてのキス

そうかと思えば、マッチョなジェイソン。こういう立ち回りを演じさせたらピカイチですよね。
トム・クルーズが「オレって、カッコよくね?」という、計算されたノリであるのに対し、ジェイソンのアクションは日本の殺陣のようにスマートで、そつがない。若山富三郎や柳生十兵衛の剣術を見ているような感じ。

もう一つのポイントは、ポーランド系の女優、アガタ・ブゼクの可愛さ。アガタの話す英語は、もろポーランド人の喋り。アクセントがね。
ああ、うちの同胞だなあ、と。親近感をおぼえます。

そのくせ、けっこう大胆で、ちゃっかりしてて、必ずしも完璧な『天使』でないところが魅力。

クリスティーナにとっても、ジョゼフにとっても、二度と戻らない至福の時で、まさに現代版『ひと夏の恋』です。

原題 『リデンプション(償い)』の意味するもの

アメリカ版のタイトルは『Redemption』(償い)。

罪なき民間人を殺したジョゼフと、正当な理由があったとはいえ、体操教師を殺してしまったクリスティーナの、それぞれの償いを描いています。

罪を負った人間に共通するのは、「償う側の人間は、決して幸せになってはいけない」とい思い込みでしょう。

本人がそれを自分に課している場合もあれば、世間が幸せになることを許さない場合もある。

遺族や被害者の感情を考えれば、黒か白かで割り切れるほど、単純な問題ではないと思います。

では、罪を犯した人間は、まっとうに暮らすことも、人を愛し愛されることも許されないのかと問われたら、決してそうではないでしょう。

そこに贖罪の気持ちがある限り、どんな罪人も、人間らしく生き直す機会を与えられる――というのが、世界共通の認識かと思います。(とりわけ、キリスト教圏においては)

でも、一度でも罪を犯せば、もう以前の、真っ白な自分には戻れないというのが、普通の良心をもった人間の感覚でしょう。

傍が許しても、自分で自分を許せない――自分みたいな人間は幸せになってはならないのだ――という自責の念から、たとえ幸せになるチャンスが訪れても、わざと背を背け、再び破滅に走ってしまう人も少なくないと思います。

本作でも、クリスティーナはジョゼフと結ばれ、一人の女性として幸せになることも可能でした。

また、ジョゼフも、裏社会と関わりがあったにせよ、始末を付けた後は、一人の社会人として更生する機会もあったはずです。

それでも、やはり自分で自分を許すことができなかったのでしょう。

贖罪の立場にある者は、一生、自分に厳しい課題を課し、笑うことも、休むことも献上して、世のため、人のために、奉仕しなければならない。

一種の強迫観念の中で、自分にそれを義務づけた人たちです。

ただ、そんな決意の中にも、淋しさや甘えといった隙間のような部分があって、本作はその隙間を上手に描いています。

語りすぎず、近づきすぎず、互いに贖罪の誓いを恐れるように遠くから寄り添う。

その距離感が、(なかなか、そうとは分かりにくいけども)、この映画の醍醐味と思います。

恐らく、地上に生きている限り、彼らに救いが訪れることは永遠にないでしょう。

アフリカに赴任したクリスティーナには大変な苦労が待ち受けているだろうし、ジョゼフも今度は軍だけでなく、ギャングにも追われ、どこにも安住の地などありません。

それでも、人間らしく働き、愛し合ったひと夏の思い出に支えられ、再び悪事に手を染める事はないはずです。

もしかしたら、本物の救いは、『神』や『天国』ではなく、すぐ側にいる人の真心であり、触れ合いなのかもしれません。

移民とギャング

移民の犯罪組織といえば、『映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』~中国の台頭と移民コミュニティ』でもリアルに描かれていますし、オーソドックスなところでは、やはり『ゴッドファーザー』が有名でしょう。

関連記事 → 映画と原作から読み解く『ゴッドファーザー』人生を支える第二の父親

本作にも、中国系移民の犯罪組織が登場します。派生のプロセスは、コルレオーネ・ファミリーとは全く異なるでしょうけど、元々、同胞を守る集団だったのが、次第に暴力や裏金と結びつき、一帯を支配する一大勢力に成長したんでしょうね。

どこへ行っても、人種差別、移民差別は当たり前。文化も言語も違う、外から入ってきた人間が地元民より成功することは、まずない。
まして、人種的に下の方だと、まともに暮らすのも困難だったりします。

中国系幹部が口にする「ここで成功して、白人を雇うのがオレたちのステータス」という言葉が全てを物語っています。

そんでもって、本作に登場する「ボス」が凄い。

どこからこんな強面のオバチャン役者を連れてくるのか、海外の映画界は、ホント、奥が深い。

どうやって、ここまでのし上がったのか、スピンオフで描いて欲しいですよね。『ハミングバード外伝』とか。

ロンドンの中華系マフィア

人身売買(密入国)の現実も取り入れています。

密入国者のチェック

DVDとAmazonプライムビデオの紹介

まさか買うとは思わなかった、ジェイソン・ステイサムのブルーレイ。これだけは私にとって特別な存在。
どこがそんなにいいの? と問われたら、「いつものジェイソンと、ちょっと違うから」
この作品に限っては『薔薇とワイン』で許す。

ハミングバード スペシャル・プライス [Blu-ray]
出演者  ジェイソン・ステイサム (出演), アガタ・ブゼク (出演), ヴィッキー・マクルア (出演), ベネディクト・ウォン (出演), ジャー・ライアン (出演), ダイ・ブラッドレイ (出演), スティーヴン・ナイト (監督)
監督  
定価  ¥1,400
中古 21点 & 新品  ¥880 から

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