論理以前に愛するんです。絶対に論理以前に。

論理以前に愛するんです。絶対に論理以前に。

論理以前に愛するんです。絶対に論理以前に。
カラマーゾフの兄弟(江川卓訳) 第五編 第三節 『兄弟相識る』より

ぼくの若さがすべてに打ち勝つよ ~ どんな幻滅にも、人生に対するどんな嫌悪感にもの続き。

「ぼくは生きたい。論理に逆らってでも生きるんだ」と語るイワンは、冒頭の虚無的な雰囲気からは想像もつかないほど希望にあふれ、アリョーシャを相手に、生への渇望を熱っぽく語る。

ぼくはね、アリョーシャ、ヨーロッパへ行きたいんだ、ここからまっすぐ行くつもりさ。

そりゃぼくは、自分の行き先が墓場にすぎないことは百も承知さ、しかしこれは何よりも、何よりも貴重な墓場なんだ。そこには貴重な人たちが眠っていて、その上に置かれている破壊しはどれも、過ぎし日々、熱烈に生きた人生を語っている、おのれの偉業、おのれの真理、おのれの闘い、おのれの学問に対する情熱的な信念を語っているんだ、だとしたら、ぼくはいまからもうわかっているんだが、きっと地べたに突っ伏して、この破壊しに口づけ、一掬(わずかの意味)の涙をそそぐにちがいないよ、

そのくせ、そうした一切がもうとっくにただの墓場でしかなくなっているというぼくの心底からの信念は小揺るぎもしないあろうがね。

だから、ぼくが涙をそそぐのも絶望の気持ちからじゃない、自分の流した涙で幸福感を味わいたいからにすぎないんだ。自分の感情に酔いたいだけなんだ。

ぼくが愛するのは粘っこい春の若葉なんだ、青空なんだ、そうなんだよ!

ここには知性もなければ、論理もない、ただもう身内からつきあげてくるように、腹の底から愛するんだ、自分の若々しい青春の力を愛するんだ……ぼくのこの馬鹿話をすこしはわかってくれたかい、アリョーシャ、どうなんだい?」

「わかりすぎるくらいわかりますよ、イワン。身内からつきあげてくるように、腹の底から愛したい――実にすばらしい言葉じゃないですか。兄さんがそんなに行きたいと思っているなんて、すごくうれしいですよ。ぼくは思うんです、この世の人はだれしも、何よりもまず生を愛さなければいけないって」

「生の意味よりも生そのものを愛するのかい?」

「絶対そうですよ、兄さんの言うとおり、論理以前に愛するんです、絶対に論理以前にです、そうなってはじめて、意味も会得できるんです」

これが書かれた19世紀の欧州およびロシアの情勢を思えば、イワンの「ヨーロッパに行きたい」は、さながら地方都市から東京に行くようなものだったかもしれない。思想も、社会も、ロシアより格段に垢抜けて、最先端の知性が議論を交わすエキサイティングな場所だったにちがいないから。

イワンが墓マイラーになるのも納得で、本好き、文芸好きなら、偉大な先人らに敬意を捧げ、時を超えて巡り会えたことに感謝せずにいない。

そんな真情を熱っぽく語るイワンに対し、アリョーシャが微笑ましい気持ちになるのも自然なこと。心の中では、斜に構えたイワンの態度が気になっていただろうし、こんな風に、生きる希望を語ってもらえたら、実弟としては安心する。

論理以前に愛するという言葉は、松本零士の「鉄郎、生きろ。理屈は後から考えればいい(ハーロックの台詞)」に通じるものがある。

何の為に生きるのか、存在することに理由はあるのか、あれこれ考える以前に、まずは生きるべき、というアリョーシャの提言はまったく正しい。

”先に理屈あり”では、理由の為に生きることになる。

理由の為に生きるようになれば、理屈通りにいかなくなった時、必ず挫折する。

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