うちの近所に「泉屋酒店」という、ひなびた酒屋がある。
阪急ブランドのデカいスーパーの向かいに店を構え、枯れた老夫婦が切り盛りしているのだが、頼みもしないのに、毎週月曜になるとハガキ大のチラシをうちの郵便受けに入れておいてくれる。
それもパソコン全盛時代に、手書きのチラシでっせ。
どこかの筆ペンで書かれたような野太い商品名に、これまた、反っくり返りそうな脱力系イラストの数々。
それが手抜きに見えないのは、書体にも、イラストにも、老夫婦の酒屋に懸ける熱い思い(経営熱)が満ち溢れているからですワ。
今日も、左右の膨らみが微妙に違う一升瓶と、空飛ぶコシヒカリの絵に笑わせてもらいました。
とにかく、この界隈の酒屋の広告では、ダントツの存在感ですな。大型ディスカウント・ショップのフルカラー広告よりインパクトがあります。ただし購買意欲はそそりませんが。 → だって、おっちゃん、米もお酒も高すぎるよ~~
惜しむらくは、私の愛飲する「銀嶺 立山(富山)」「酔心(広島)」「剣菱(兵庫)」をディスカウントしてないという事。燃えないゴミ置き場をつつけば、阿月の部屋から出た一升瓶がゴロゴロ出てくる滝野町一丁目で、泉屋酒店がいつまでたっても大きくなれないのは、怪しげな健康食品や、みのものた便乗商品のザクロジュースみたいなものばっかり安売りするからだヨ。
頼む、せめて「立山」くらいディスカウントしてくれ。
しかしね、老夫婦が毎週毎週ペンを片手にアイデア練ってる姿を想像すると、幸せな酒屋だな~と思ってしまうわけ。
「アンタ、来週は、カニ鍋と越の初梅(酒の銘柄)でいきましょうヨ」
「じゃあ、コピーは『冬もあったか、夫婦でふ~ふ~』でいくか」(→本当にあった)。
客が来ようが来よまいが、絵を上手に描こうが描けまいが、老夫婦はチラシを作りが楽しいのだ。そうでなければ、手書きのチラシをペラペラの紙に何百枚もコピーして、一軒一軒配って歩くような事はできない。
老夫婦にとっては、界隈住民、皆がギャラリーだ。
たとえ儲けにならなくても、チラシに風味と季節感をのせて運ぶ楽しみがあり、皆の反応をあれこれ思いめぐらす喜びがある。
いくつになっても、作る物や楽しめる物があるのは良いことだ。
それにつけても、恐るべし、泉屋アート。この存在感に勝るもの無し。
2000年3月のメモ書き
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アーカイブ整理していて、十数年ぶりに泉屋酒店のことを思い出して、目頭が熱くなったわ。
「あと10年遅ければ」の意味するところは、もしこのチラシを写真に撮ってTwitterやFacebookにUPしたら、間違いなく爆発的にシェアされて、一気に有名店になったであろう・・ということ。
実物をお見せできなくて残念ですが、本当にユニークで温かみのある素晴らしいチラシでございました。
ついでに「立山」と「剣菱」と「越乃寒梅」も久々に思い出したわ。
やっぱお酒は樽入りのを「枡」で飲むのが一番美味しいね。
枡の角っこに伯方の塩みたいな粗塩のせてさ。
和風ソルティ・ドッグね。
一時期「剣菱」も凝ったけど、結局、「立山」に回帰しちゃったな。
やっぱ、いろんな地酒を、枡に入れて出してくれるお店が最高。