ユーミンのカセットテープ(昔はこう呼んでいた)を作る時、必ず一番最初に吹き込む曲がある。
それは『曇り空』。
「荒井由実」さんだった時代の作品で、伝説のデビューアルバム『ひこうき雲』に収録されている。
煙るようなモノトーンのイントロからぐいぐい歌の世界に引き込まれてしまう。
派手なフレーズがあるわけでもなく、凝った歌詞が並んでいるわけでもない。
朝、目覚めた時の気持ちを、ぶつぶつ綴ったような曲なのだけど、何度聞いても「飽きる」ということがない。
「そうだ、今日はユーミンを聞こう」と、数あるカセットテープの中から『ユーミン・ブランド』と背中に書かれたケースを取り上げ、デッキにセットして、PLAYボタンを押す。
それはまるで「曇り空」そのもの。
煙るような淋しい日にも、こんな優しい瞬間があったのだ──と思い出させてくれる。
人は孤独や哀しさを嫌うけど、それも人間の美しい感情の一つだと思えば、生きることがいとおしくなる。
本気で好きになりそうだから
約束だけは気にしてたけど
急にやぶってみたくなったの
誰かに心を惹かれても、ふと背中を向けたくなることがある。
もっと自分を知って欲しいのに、これ以上踏み込まれるとかえって辛く感じられる瞬間だ。
それを「きまぐれ」と言われたら、そうかもしれないし、振り回される方はたまったものじゃないと思う。
でも、それぐらいの我が侭は許してよ……と、甘えられるのはアナタだけ。
人を好きになるのは、せつないこと。
だから余計で距離を置きたくなる気持ち、分かるような気がする。
シンプルな言葉とフレーズの繰り返しなのに、なぜこの曲はこんなにも心に染みるのだろう。
まるで水に溶かしすぎたような水彩画のように、ぼやけて見える窓の向こう。
曇っているのは涙のせいじゃなく、今すぐ誰かに愛されたいわけでもない。
ただ、何となく、一人のままこうしていたい──。
*
そういう心象風景を描いた、傑作だと思います。
ひこうき雲 by ユニバーサル ミュージック (e)
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世代を超えて聞き継がれるユーミンのデビューアルバム。
アコースティックでシンプルな作りがら、胸が痛くなるほど映像美にあふれ、彼女の歌に自分の青春を重ね見ない人はないのではないかと思う。
「雨の街で」も泣かせる曲。
ほっとしたい時、優しい気持ちになりたい時に聞きたいアルバム。