熊と少年

話すのが苦手でも自分を好きでいたい

熊と少年

「言葉の問題というのは、四肢やその他の障害と同じくらいダメージが大きいものです。なまじ普通に生活できるが為に、『喋れない』『読み書きできない』というだけで、低能や怠け者のレッテルを貼られてしまうのです。それで本人もますます心が萎縮して、本来もっている能力まで損なってしまうのですわ。あの子の場合、理想のモデルはあなたです。あなたのことが好きで好きで、あなたのようになりたいと願っているにもかかわらず、あなたのように流暢に話せず、期待に添うこともできないので、余計で自分を嫌い、自責の念にかられているのです」

「あの子の場合、知能や器質に問題があって喋れないのではありません。どこかの過程で、他人と話す恐怖を体験したのです。『友達に鼻詰りのような喋り方を真似される』『自分の喋っていることが周りに正しく理解されない』といった事です。集団生活において辛い経験を繰り返すうち、心の緊張が高まり、ついには特定の人、特定の場所で声を発することすら出来なくなるのです。でも、発音に関しては、今からスピーチ訓練を重ねれば、他人が聞いても気にならないぐらいに改善しますし、コミュニケーションに伴う苦痛が和らげば、友達や先生とも楽しくお話しできるようになります。学校生活を楽しむ余裕ができれば、読み書きにも弾みがつくでしょう。一番大切なのは周りがそれを理解し、子供が自分自身を好きになることです。上手に発音できなくても、読み書きが苦手でも、自信をもって意見を述べ、気持ちを表現することがこの教室の目標です」

「ご自身を責めてはなりません。そんなことをすれば、あの子はますます『自分のせい』と思い込み、閉じこもってしまいます。スピーチ訓練は親の贖罪ではありません。まして子供の義務でもありません。豊かな人生を勝ち得る為の一つの手立てです。この世が生きるに値する楽しい場所だと分かれば、子供自ら取り組むようになるでしょう」

海洋小説『曙光』 MORGENROOD (上)

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