壊れそうに美しい『Love Theme from Spartacus(スパルタカス 愛のテーマ)』ジャズ・ピアノの傑作 by ビル・エバンス

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『Love Theme from Spartacus(スパルタカス 愛のテーマ)』について

息をひそめて聞きたい曲がある。

しんと静まりかえった夜、ボリュームを少ししぼって、枕元でそっと流したいような……。

『Love Theme from Spartacus』はまさにそんな曲。

邦題では「スパルタカス 愛のテーマ」と訳されるので、一見、歴史スペクタクルのドンチャンドンチャンしたシンフォニーかと思うけども、ジャズにアレンジされた方は、いかめしいタイトルから想像もつかないほど繊細で美しい。

音を抱きしめる──とでも言うのかな。

まるでガラスのように透明で壊れやすいから、一音一音、耳元でそっと聞かないといけない。

ふうっ、と息をついただけで、音がパラパラと砕け散ってしまいそう。

それほどに美しい曲。

初めてラジオで聞いた時は、ほんと、息が止まったね。

時間も止まった。

世界中のあらゆる動きが止まった。

音が透明な高みからこぼれ落ちてくる……というのは、まさにこのこと。

弾いているのはビル・エバンス。朝の光を紡ぐような、詩的な演奏で知られる。

死へまっしぐらとひた走る……というよりは、一歩一歩、そこへ憧れて昇ってゆくような生き様そのままに、重力感がない。

音の響きからして、この世を離れてる。

彼にとっては自己表現というより、天国への階段ね。魂で見る、この世の果て。

だから、私たちには、空気のように軽やかで、今にも壊れそうに感じる。

それでもなお美しいのは、彼の見ている先が、完全に浄化された世界だからでしょう。

あんまり美しいからって、泣くことはないのよ。

もう彼の方で、いっぱい涙を流してくれてるから。

私たちは、ほんのちょっと、心を波立たせるだけでいい。

それ以上、悲しんだりしたら、彼がもっと悲しむから。

今にも壊れそうな音のしずくを、そっと抱きしめるだけでいいの。

音の響きと一つになれたら、それでいいの。

大好きです。

*

他にもいろんなバージョンがあります。
「Love Theme from Spartacus」で検索してくださいね。

こちらが私の好きなバージョン。これ以外にも、いろんなアレンジがあります。
ビル・エバンスも録音が多いので、自分のお気に入りの演奏を探すのに一苦労します。

こちらがオリジナルスコアです。映画のサウンドトラック。

映画の紹介はこちら→目と目で見交わす名画の愛 カーク・ダグラスの映画『スパルタカス』

Conversations With Myself

Love Theme from Spartacus が収録されているのはConversations With Myselfというアルバムです。

どれも叙情的で美しい曲ばかり。その全てが壊れそうに切ないです。
秋の夜長や読書・勉強などに集中したい時にぴったり。

こちらは私のお気に入りを集めたマイリストです。興味のある方はぜひ(^^)

2番目の I Do It For Your Love も素敵ですよ。

関連記事 → 誰が僕を偲ぶだろう? If i suddenly die, remember me as this music

【音楽エッセイ】 生きていても仕方ないような夜でさえ

壊れそうでもいいじゃない。

その人が周りを傷つけるのでなければ、壊れかけの心でもいいと思う。

今にも折れそうな心を星の糸で繋ぎとめて、夜を友に生きて行く。

強いだけが全てじゃないし、善いことだけが世界を輝かせるわけでもない。

もろいもの、はかないものにも、命を生きる価値がある。

たとえ生きていても仕方ないような夜でさえ、心を感じる権利はあるというもの。

*

ビル・エバンスを聞いていると、世の中で「正しい」と言われていること──

幸せとか、希望とか、積極性とか、それがどうした? という気分にさえなってくる。

みながみな、昼の日中に大口あけて生きているわけでもなし、

夜には夜の美しさがあるというもの。

たとえその人生が悲しみと絶望の只中で破滅にひた走るものであっても、

彼が「人間」を生きていることに変わりはないし、

幸せな魂には見えないものが見えるということも、一つの能力であり、一つの恵みであると思わずにいない。

*

音楽だけ──

ただピアノだけが魂に呼応する。

誰の声も聞こえない、理解も及ばない世界に一人閉ざされたとしても、

真の美しさは、それを感じる人を決して見捨てない。

天上でそれを奏でる人もまた──。

*

天国に愛される人は、より多くの悲しみを与えられ、

人より早く力尽きるように、最初から壊れやすく作られているのかもしれないね。

CDとSpotifyの紹介

上述の『Conversations With Myself』がこちら。Amazonのストリーミングでも視聴できます。

Conversations With Myself by Verve
 定価  ¥4,177
 中古 4点 & 新品  ¥696 から

ピアノの詩人ビル・エバンスが、2人のフルート奏者と共演した2枚の秀作をカップリングした徳用盤です。最初の7曲は、ジェレミー・スタイグと共演した1969年録音の名盤「What's New」(Verve)。1曲目のブルースからホットに盛り上がり、「ホワッツ・ニュー」や「枯葉」などの名曲をアグレッシブに演奏、最後はマイルスの「So What」で再び頂点に達します。後半の6曲は、もうひとりの人気フルート奏者ハービー・マンと共演した1962年録音の「Nirvana」(Atlantic)。こちらは静かな曲が中心で、「I Love You」「Lover Man」のほかエリック・サティの「ジムノペディ」が聴きどころでしょう。

ジェレミー・スタイグのフルート・バージョンが収録されています。(Amazonで試聴可)
『枯れ葉』や『so what』など、スタンダードな名曲をスタイリッシュにアレンジ。アーバンな雰囲気の漂う一枚です。
やっぱ「スパルタカス」が一番秀逸だけど。

WHAT'S NEW/NIRVANA by 
 定価  ¥8,048
 中古 5点 & 新品  ¥680 から

Spotifyでも視聴することができます。

こちらは私の大好きなアルバム『Moon Beams』に収録されているナンバーです。

初回公開日 2011年9月21日

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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