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海底鉱物資源の採掘の成否を決める海底地形のマッピング

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【科学コラム】 深海:超高圧との闘い

深海は超高圧との闘い。暗闇が立ちはだかる過酷な世界でもあります。

そんな中、どうやって水中設備のネジを締めたり、配線をつなぎ替えたりするのか。

石油リグや深海調査の動画では、まるで人の手のようにマニピュレータを操作し、ライザーパイプを繋ぎ、サンプリングを行う模様を目にすることができます。

当然、その部品も一つ一つが大きく、蛍光色、目印フラッグ、凹凸の一致など、様々な工夫が施され、操作ミスを防いでいます。

とはいえ、新しい技術や新規事業にはリスクがつきもの。

せっかく人を育てても、思わぬ結果を招くこともありますね。

このパートでは、採鉱システムに参加した若いオペレーターが共倒れにならないよう、様々な教育を施す過程が説明されています。

一方、超高圧や暗闇の過酷な環境でも効果的に海底鉱物資源の採掘ができるよう、マッピング技術に力をいれた理由が明らかにされています。

どれほどシステム自体は完璧でも、無駄なクズ石を掘り返すようでは収益になりません。
一回の操業で、高品位の海底鉱物資源を効率よく回収することが、事業成功の鍵なのです。

マッピングに登場するシミュレーションは、鉱業のみならず、航空、船舶など、様々な場面で応用されています。

に登場する仮想トレーニングも、シミュレーション技術の賜です。

一昔前なら、縮小模型を使った実験や試験操業で、多大なコストを要したことも、現在は数台のコンピュータと数人の技術者で、より正確な数値をはじき出せるようになったのですから、技術の恩恵を思わずにいません。

【小説の抜粋】 鉱物資源の量を正確に把握する

海底鉱物資源の採鉱に向けて、着々と準備が進む洋上プラットフォームで、ヴァルターはプロジェクト・マネージャーのマードックから接続ミッションの手ほどきを受ける。

海底鉱物資源の採鉱システムの成否の鍵を握るのは、採鉱システムそのものより、どこに、どれだけの量の鉱物資源が存在するかを把握するマッピング技術だとマードックは説く。

このパートは『海洋小説『曙光』(第二章・採鉱プラットフォーム)』の抜粋です。 作品詳細はこちら

縦書きPDFで読む(Google Drive)

九月九日。月曜日。

朝七時半に朝食をとると、ヴァルターはオペレーションルームに足を運んだ。

金曜、土曜、日曜とマードックからもらった資料に目を通し、採鉱システムの概要と接続ミッションの手順は理解できたが、全体を知悉するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

彼がオペレーションルームを訪れると、マードックは壁際のワーキングデスクで採鉱予定区の採鉱マップをチェックしていた。

採鉱に使われるマップは、無人調査機の計測プローブが採取したデータを専用ソフトウェアで分析し、七色のグラデーションで彩色した3D地形図だ。詳細な地形だけでなく、基礎岩を覆うクラストの厚さや形状までもが一〇ミリ単位で描出されている。このマップから採鉱する場所を選定し、破砕機や集鉱機のオペレーションシステムにアップロードして重機の動きを制御する。効率的に有価なクラストを採掘できるか否かは、重機の性能にも依るが、資源の賦存状況をいかに正確に把握するかにかかっている。どこに、どれくらいの硫化ニムロディウムが存在するか、地形は重機の運用に適しているか、といった事だ。その上で、硫化ニムロディウムが豊富に含まれるクラストだけを基礎岩から引き剥がし、海底からもれなく回収する。

マードック曰く、一番お金と技術がかかっているのはマッピングだという。それも探鉱権やリテンション・ライセンスが有効な間に結果を出さねばならず、全てが時間との闘いだったそうだ。

「でも、僕たちは運がよかった。最初に狙い定めた鉱区が宝の山だった」

「運だって?」

ヴァルターが憮然と聞き返すと、

「探鉱には運も必要だ。どれほど優れた調査機も、土の下に存在する物質を完璧に言い当てられるわけじゃない。陸上でも、百パーセント正確に分析できるのはせいぜい地下十センチ程だ。それ以深はあくまで『理論上』になる。それぐらい地下を知るのは難しい。深海となれば尚さらだ。ティターン海台にも幾つかの有望な候補があった。そして最初に精査を始めたエリアが大当たりだったんだ。空振りが続けば、時間もコストも浪費していた」

「たいした山師だな」

「運も実力のうちだよ」

(運なものか)と彼は思う。運も実力のうちなら、父の献身は何だったのだ?

「今もマッピングの範囲を広げてるのか?」

「もちろん。現段階で十分なレベルに達しているのは五年分だ。それ以外の部分は、今も調査クローラーを使ってデータ収集と分析を継続している。大半は自動化されているが、やはり人の目で描出されたマップを確認し、必要に応じて再調査をしなければならない。また商業的に価値のあるクラストが見つかっても、重機の動きには適さない地形もある。傾斜が急だったり、大きな凹みがあるような場所だ。それも人の目で確認して、回避しないと、重大な事故を引き起こす。どれほど機械化が進んでも、最終的には人的な判断が物を言う。それを見分ける教育も必要不可欠だ。だから、うちのオペレーターは工学理論や機械操作だけでなく、鉱物学や海洋学の講義も受けている。簡単な内容だが、学術的に理解して動かすのと、何も知らずに機械だけいじるのでは大違いだからね」

「なるほど」

「それを指示したのもマクダエル理事長だ。万一採鉱システムに失敗しても、知識や技術があればよそで即戦力になる。そこまで配慮されたら、若いのだって必死にやるだろう」

彼は納得し、コンソールの前でぺちゃくちゃお喋りしながらも、システムのチェックに余念がない自分と同年代のオペレーターに目をやった。確かに一人の優秀なオペレーターは資本や設備に換えがたい。事業の成否は、突き詰めれば、最先端の技術に携わる人間の質に依るのだから。

「それにしても、ここにはたくさん従業員がいるのに、どうしてパイロットは俺一人なんだ? もう一人か二人、操縦士がいてもおかしくないのに」

「確保するのが難しいからだよ。ステラマリスもそうだろう? 飛行機や宇宙船のパイロットは掃いて捨てるほどいるが、有人潜水艇の操縦ができる者は限られている。なり手もないし、教える人間も希有だ。以前はここにも三名から四名のパイロットが居たが、ここ数年は有人潜航の機会もめっきり減って、以前ほど重要性が無くなっている。僕とフーリエ、ノボロスキ社の数人の整備士も操作に精通しているが、熟達した潜航経験があるのは、ジム・レビンソンとキリチェンコの二人だけだ。だが、そのキリチェンコも持病の高血圧が悪化して抜けた。今から新人を訓練するには余りに経費も人手も掛かりすぎるし、何とか接続ミッションまで乗り切ろうとしていた矢先だった」

「じゃあ、俺が来なかったら、接続ミッションはどうするつもりだったんだ?」

「前にも言ったように、プラットフォームから有索無人潜水機を下ろして、遠隔操作で接続する。僕は反対だったが、ダグや一部のオペレーターはそれで事足りると主張して譲らなかった。君が来る前に少しゴタゴタしたが、僕はマクダエル理事長の判断で正解だったと思うよ。やはり誰かが目視で作業を確認しないと、本番では何が起きるか分からないからね」

(そうか)と彼は納得した。初めてここに来た日、マッコウクジラの兄弟が素っ気なかったのは、そういう理由だったのだ。

「最終的にどうなるか分からないが、とりあえず本採鉱までのスケジュールと採鉱予定区について説明するよ」
マードックはモニターの画像を切り替え、最初の採鉱予定区の海底地形図を表示した。

「これが第一期の採鉱予定区だ。ティターン海台の平らな山頂部を中心に、十二のエリアに区分けしている。一つの採鉱エリアの広さは一〇から三〇平方キロメートル、さらにそれを日単位、時間単位で、細かくエリア設定している。たとえば、最初のターゲットとなるエリアAは、ティターン海台東側、約二〇平方キロメートルだ。それをさらに十五区画に分画し、それぞれの予定採鉱量をこちらのテーブルに記している。一日平均五五〇〇トンの区画もあれば、五〇〇〇千トンの所もある。どれだけ高品位のクラストを採取できるかは、実際にシステムを稼働してみないと分からない部分も多いから、今後のスケジュールはかなり流動的になるがね」

「接続ミッションまでの日程は?」

「今は地上勤務や長期休暇で島に戻っているスタッフが二十名ほどいる。彼らが現場にカムバックし、全スタッフが勢揃いするのが十月八日だ。十一日にビートル型破砕機、ドーザー型集鉱機をパワークレーンで海底に下ろし、試験的に稼働する。それで問題なければ、十五日に揚鉱管を繋ぎ、採鉱システムを本格稼働する。もちろん、悪天候の場合はミッション中止、場合によっては重機も揚収する。幸い、この海域は熱帯低気圧の影響は皆無だし、この二十四年間に僕が経験した最悪の天気でも、風速二〇メートル、一時間の降水量六〇ミリ程度だ。普段は荒れても風速十メートルに及ばないし、波高が二メートルを超えることもない。雨量にもよるが、悪天候での中止は確率的に低いだろうね」

「多少の雨は気にしないよ。俺、大事なミッションに限って、低気圧とぶつかるんだ。潜ってしまえば海上の悪天候は関係ないが、支援船が潜水艇の位置を見失うことは度々あった。海面に浮上したのはいいが、ダイバーが潜水艇にワイヤーを取り付ける作業に手間取って、ついには流され、そちらの救出で大騒ぎになったこともある。でも、不思議と大事故に至ったことはない。そういう意味では、俺は運否の境を漂っているよ」

「本当は強運じゃないのか」

「それだけは感じたことがない。サッカーのロトくじも当たったためしがないし、ゲームも懸賞もてんで駄目。たまにスクラッチカードが当たっても、せいぜい自転車のLEDライト止まり、それもハンドルに付けてたら、隣の悪ガキに盗まれた。そんなのばっかりさ」

「運はそんなものに使うんじゃない。ここぞという時に発揮するんだ。人間、一生に一度の大勝負に勝てばいい」

「そうかな」

「一見ラッキーなことも、実は運の尽きということもある。宝くじに当たったおかげで散財し、最後は破産なんて話、世の中にいっぱいあるだろう。物事なんて最後まで見てみないと分からないよ。実際、君は海洋技術センターを解雇されたおかげで、マクダエル理事長みたいな大人物に会えた。予定通り復職していたら、今も大西洋のど真ん中でお偉い先生に頭をコツかれ、あっちに行け、ここに行けで終わってたかもしれないよ」
確かにその通りだ。少なくとも、こんな接続ミッションは絶対に体験できなかっただろう。

「今は接続ミッションに注視しているが、本当に大事なのはその後だ。採鉱だけなら問題ないが、いざ選鉱、輸送、製錬の全体プロセスが動き始めたら、思いがけないトラブルに直面することもある。本当に成功といえるのは、システムが安定して、目標の売上高を達成してからだ」

「そうだろうね」

「だから、お前もそう深刻になるな。ぶっちゃけ、途中でトラブルが生じて、ミッションの日程が数日ずれ込んでも、何千万エルクの損失が出るわけじゃない。人的ミスでなくても、悪天候で中断に至る可能性は十分にある。それらも踏まえて、無理のないスケジュールを組んでいる」

「なるほど」

「前にも言ったが、どうしても無理なら、一日も早く断った方がいい。寸前までもたついて、何か起きてからでは、その方が他部署に迷惑がかかる」

「そのことだが、テスト潜航はできないだろうか」

「テスト潜航? 何のために?」

「操作の確認だ」

「お前一人のためにテスト潜航しろって? そりゃあ無理だよ。一度の潜航にどれだけの経費と手間がかかるか、お前も知ってるだろう。それでなくても本採鉱を前にして皆ぴりぴりしてるんだ。とてもじゃないが承服しないよ」

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鉱業権と鉱山会社の寡占 鉱業法の盲点と情報共有のアイデア
鉱業権と鉱山会社の寡占 鉱業法の盲点と情報共有のアイデア『宇宙の領土はいかなる国家にも属さない』という法律の隙間をかいくぐり、文明の基礎を支えるニムロデ鉱山を一手に治めたファルコン・マイニング社。鉱業局を意のままに操り、鉱業権さえも左右してきたが、海洋技術は簡単に真似できないとヴァルターは主張する。

【リファレンス】 なぜ海底地形の調査が必要なのか

「海の底」というのは、たとえ水深50センチほどの浅瀬でも、どこが、どんな形状をしているか、水上からは分からないものです。

同様に、「地下」も、地上から見ただけでは、内部の様子は分かりません。たとえ高性能のカメラを搭載したドローンが平原の上方を100回往復して、地面の様子を撮影しても、地中がどうなっているのか、ほとんど分からないのと同じです。

しかし、桟橋を作るにしても、海底ケーブルを敷説するにしても、海底面がどうなっているのか分からなければ、杭一本打つことはできません。

また、船の安全を脅かす浅瀬や岩礁、海底火山、魚が集まりそうな岩場(漁場)、離岸流(リップ・カレント)の発生しやすい場所など、私たちの暮らしや生命に直結する情報もあります。

陸上に暮らす人間には縁遠く感じますが、海底面を詳しく知ることは、海路の安全やインフラ建設や漁業に限らず、私たちを取り巻く自然環境をより正しく把握する為でもあります。海、空、陸地、雨、風、それら全てが一体となって、地球というシステムを作りだしているからです。

本作では、海底鉱物資源の賦存状況を把握する為に、独自のマッピング技術を開発します。いくら採掘システムが完璧でも、何もない所を掘り返しても、利益には繋がらないからです。「ここ掘れ、ワンワン」ですね。

マッピング技術もどんどん進化して、今では人工衛星、測量船、無人機など、複数のツールを掛け合わせた高度な解析が可能となっています。

まるで映画のCGを見るようですね。

【リファレンス】 無人機を使った海中技術の実際と海底地形図

なぜ主人公がビビっているかというと、潜水艇による深海底の観察と機材を使った水中作業では全く勝手が違うからです。ちなみに、マードックが求める海中作業はこういう感じ。

動画は水中無人機(ROV)を使った石油リグのBOP(防噴装置)の接続作業です。無人機でもケーブルのつなぎ替えやパネル操作ができるんですね。

海底地形のマッピングは世界中の海洋機関が総力を挙げて取り組んでいます。地上のように肉眼で目視し、ドローンやヘリコプターで上空から撮影するようなわけにいきませんから、技術的には非常に難度が高いです。

海底鉱物資源 マッピング

海底鉱物資源 マッピング

海底鉱物資源 マッピング

こちらもCGアニメーションで分かりやすいです。

動画だけ見ていたら、とても簡単そうに見えますが、作中でもあるように、「水深数千メートルの海底から、商業的に価値のある鉱物」だけを効率よく採掘するのは至難の業です。莫大な建設&操業コストをかけて、屑石ばかり吸い上げていたら、あっという間に倒産ですね。
これも作中に書いていますが、そもそも、どこに、どれだけ商業的価値のある鉱物が賦存するか、正確に把握しないことには始まらない。丹波篠山の山奥をシャベルで掘り返しても、石油も黄金も永遠に出てこないでしょう? 海底に膨大な鉱物資源が存在するのは本当だけども、有価な鉱物が存在する場所と量を特定するのが非常に難しいのです

海底地形のマッピングに関する動画。

日本でも、無人機を使った海底探索の技術は非常に進んでおり、国際競技でも準優勝に輝いています。
これからますます発達する分野なので、興味のある方はぜひ。

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