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鉱業問題が手軽に分かる『コルタン狂想曲』と『ブラッド・ダイヤモンド』

目次

あらゆる国際紛争は鉱物資源に由来する

鉱業問題の根の深さについて考えたことがありますか?

日本ではもっぱら原子力発電や代替エネルギーの問題が取り沙汰され、金属資源がクローズアップされることは少ないですが、こちらも同じくらい深刻であり、方々に歴史的悲劇を引き起こしている要因でもあります。

日本の金属資源に関しては、JOGMEC 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構が石油・天然ガス開発なども含めて国家レベルで取り組んでいますが、それらのレポートを見ていると、日本の産業も暮らしもほぼ全面的に輸入に頼っている現実を痛感せずをえません。同サイトの『金属資源事情』にもあるように、

現代社会が、より快適に、便利に、高度化するにつれ、金属資源はますます重要度を増しています。

日本もかつては、銀や銅の世界有数の産出国でしたが、資源の枯渇あるいは為替の変動相場制への移行、人件費や環境対策費の上昇等により採算がとれなくなったため、閉山が相次ぎました。

現在、日本の金属鉱山において商業ベースで大規模操業が行われているのは、菱刈金山(鹿児島県)のみとなり、わが国は必要な金属資源のほぼ全量を海外に依存する状況となっています。

http://www.jogmec.go.jp/library/metal_002.html

つまり、車を製造するにも、スマートフォンやパソコンやハイレゾTVで世界市場に挑むにも、原料となる金属資源が無ければ、どうにもならないわけです。腕のいいケーキ職人が100人いても、小麦粉も卵もなければケーキが作れないのと同じ理由です。

そこで国家戦略の一環として、金属資源の産出国と良好な関係を結び、日本自ら資源開発を行ったり、地元企業と技術提携したり、国内に備蓄をして緊急時に備えるなど、様々な対策を施しているわけですが、相手国も永久に日本の需要に応えられるほど豊かで平和というわけではありません。

鉱山の枯渇や落盤事故、環境汚染、労働者のストライキ、鉱山会社の倒産は言うに及ばず、クーデターや紛争によって空港や貿易港が封鎖されたり、国自体がパニックに陥って操業が停止したり、生産施設がテロの標的になったり、絶えず危険に晒されています。あるいは、

日本との国交が悪化して、経済制裁として輸出をストップしたり、金属価格を異常につり上げたり、これまでの安定供給が一夜にして暗転する可能性もあります。

そうなると、金属資源をあてにして進んでた計画も全てご破算になります。

月末には小麦粉が入荷する予定で、ケーキ1000個の予約を取り付けていたのに、それが全てキャンセルになるようなものです。ケーキ屋のみならず、イベントを企画していた業者も、ケーキフェアを愉しみにしていた参加者も、皆が不利益を被ります。それが産業全体に波及するとなれば、被害も甚大ですね。

そして、世界の鉱業の最も深刻な問題は、金属資源――とりわけ最先端の技術に不可欠なレアメタルの産出国が、いわゆる後進国や政情不安な地域に集中している点です。

たとえば、車一台に必要とされるレアメタルの種類がここに紹介されていますが、この中に一つでも日本で十分に産出するものがあるでしょうか。

レアメタル 鉱業問題

DOWAエコジャーナルでも分かりやすく紹介されていますが、最先端の工業製品には多種多様なレアメタルを必要とします。レアメタルは、それ自体が車のボディやスマートフォンの液晶画面を構成するわけではありませんが、鉄、銅、亜鉛といった基礎となる金属に微量に添加することにより、耐圧性、伝導性、耐食性といった高機能を発揮します。

ケーキに喩えれば、バニラエッセンスみたいなものです。卵と小麦粉だけでは味気ないですが、上質な香料を加えれば、たちまち美味しさがアップします。

レアメタルもそれと同じで、「長持ちするバッテリー」や「発色のいいボディ」「剥げないペンキ」「体にやさしい人工関節」など、ハイテク製品に不可欠な金属エッセンスなのです。

レアメタル 鉱業問題

商品開発や売り上げ倍増の鍵を握る魔法の金属資源ですから、欲しいのは日本人だけではありません。世界中の業者が、安く、大量に、長期的に手に入れる為、触手を伸ばしています。なにせ喉から手が出るほど欲しいものですから、当然、供給する側は優位に立ちます。

マンガ風に喩えれば、○○国には安く売るが、○○国には売らない、契約を結びたければ、○○鉱業大臣に賄賂を払え、輸送には必ず○○社の貨物船を利用しろ……という話になってきます。そこに超法規的な密約が存在すれば、無法地帯も同然です。法の監視が行き届かないのですから、労働者を安価で酷使したり、子供を鉱山で働かせたり、法外な値段で取引したり、抵抗勢力を虐殺したり、悪徳がはびこります。そうと分かっても、金属資源を得る為には、悪徳業者や政治家とも手を組まねばならない。そこに大きな悲劇があり、根深い問題があるわけですね。

では、実際、どのような問題が生じているのでしょう。

難しい専門書を読むのは面倒くさいというアナタにおすすめしたいのが、ゴルゴ13の『コルタン狂想曲(157巻) コミックス単行本』と映画『ブラッド・ダイヤモンド (字幕版)』です。

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劇画【ゴルゴ13】 コルタン狂想曲

コンゴ民主共和国で決死の鉱山開発に挑む『岩國スーパーメタル』。日本の製造業に不可欠なコルタンを安定供給すべく、地元のコンゴ民を使ってフッチミ鉱山の開発を推し進めるが、対立するミズワ族のゲリラに襲撃され、開発もままならない。岩國鉄夫はゴルゴ13に助けを求めるが、彼の返事は『No』であった。「だが、お前の希望の半分は叶うことになるだろう」という謎の言葉を残してゴルゴ13は交渉の場を去る。

それでも岩國は成さねばならぬ理由があった。日本の携帯会社の興亡は、岩國スーパーメタルが供給するコルタンにかかっているからである。

バッテリーが長持ちするIP式の携帯電話で、世界市場の巻き返しを狙うドッコム電機。既に試作品も完成し、量産に踏み切ろうとするが、資材調達部から待ったがかかる。
量産が不可能な理由は、バッテリー素材に不可欠なレアメタルのタンタルが不足しているからだ。

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

タンタルとは、コルタン鉱石から得られるレアメタルで、従来の超小型バッテリーやコンデンサーに微量に添加することで何倍もの大容量化が可能になる。最新機器の開発に不可欠な金属資源だ。

だが、コルタン鉱石を扱う会社は、世界でたった三社。アメリカとドイツ、そして日本の岩國スーパーメタルだ。もし、岩國からの供給が途絶えれば、アメリカとドイツの会社に頼ることになる。だが、携帯電話の市場競争で、日本有利な契約を結ぶはずがなく、コルタンの値上げは、すなわち、商品価格の高騰だ。これでは価格競争に勝てるわけがない。

高い技術力を誇っても、原料となる金属資源が無ければ量産も叶わず、それはメーカーのみならず、工業製品の輸出に依る日本全体の問題でもあった。

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

日本の存亡をかけて、岩國は自力で鉱山開発に挑むが、ミズワ族のゲリラも黙ってはいない。両者の間でますます戦闘が激化し、多くの人命が失われる。

それに並行して、鉱山開発に圧力をかけているのが、ゴリラ保護を叫ぶ自然保護団体の存在だった。

が、そこにも一つのからくりがあり、ゴリラ保護を名目に、鉱山によそ者を近づけるなというのが真の目的だ。彼らはゲリラに資金と武器を提供し、反対勢力の鉱山開発を阻止しているのである。

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

両者の対立は、ゴルゴの介入によって、意外な形で終息し、岩國スーパーメタルの勝利に見えたが、予期せぬ事態が発生する。

コルタンの供給が途絶え、新製品の量産が不可能になった日本のメーカーは、市場競争に大きく遅れをとってしまう……。

ゴルゴ13 コルタン狂想曲

マンガ向けに誇張されている部分もあるだろうけど、大筋は世界共通です。

コルタンでなくても、全ての鉱物資源やエネルギーについて、同様のリスクをはらんでいます。

それは国家間、企業間の問題でもあるけれど、最も深刻なのは、こうした紛争に巻き込まれ無残に命を奪われる人々です。

白戸圭一氏の著書『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫)』にもあるように、「鉱物資源は産出国の人々を決して幸せにしない」というのはまさにその通り。

普通に考えたら、金銀財宝がざくざく出てくれば、その国の人々は豊かになって当然ですよね。

石油産出国みたいに、医療、教育、税金タダ! も夢ではありません。

ところが、これらの国は、鉱物資源があっても、それを効率的に生産したり、工業に活かしたり、施設を拡充したり、という手段がありません。

流通にのせて、マネタイズするには、どうしても他国の高い技術力や販売網に頼らざるをえず、そこにつけ込まれて、本来、現地人が手にするはずの富が、他国の資本や企業に奪われているわけです。また、それに便乗する悪徳政治家や反政府勢力などもあり、ちゃんとした司法や行政を施そうにも、施しようがないのが現状なのです。

こうして各国の紛争の原因となる金属資源は紛争メタル(コンフリクトメタル)と呼ばれ、しばしばドキュメンタリーなどに取り上げられています。

こうした反対運動も、いろんな思惑があると思いますが、実際に過酷な労働によって採取されていますし、機密保持の目的もあり、現場の様子が正確に伝えられることはありません。人権侵害しようが、事故で死のうが、すべては闇の中です。

そして、これらは決して遠い世界の出来事ではなく、私たちが日常的に使っているスマホ、パソコン、車、TVなど、あらゆる工業製品に使われています。
その原料が、どこで、どんな風に採掘され、どのような形で供給されるか、いちいち意識する人もないでしょう。
……という話を書いているのが、二つの正義と罪の平原 文明を支える鉱業です。

縄文時代の暮らしに戻るのは無理としても、少しでも意識にとめるだけで、社会に対する見方も変わってくると思います。

なぜこの国とこの国が対立しているのか、対立の理由はそれだけか、なぜ○○企業が支援しているのか、この地域に固執するのか、etc。

そういう思考と情報収集の積み重ねで、扇情的なニュースにも敏感になりますし、一方的な言い分を鵜呑みにすることも無くなるでしょう。

地球上のありとあらゆる問題は、突き詰めれば、資源争奪戦に根ざしています。金属資源のみならず、水資源、食糧資源、エネルギー資源、文明社会の基礎となる物質やエネルギーは富の源であると同時に、相手国を従わせる強力なカードにもなるからです。その構造や本質について知ることが、嘘や刷り込みを見抜く第一歩です。

こちらは希少の中の希少、イリジウムについて紹介したビデオ。高温耐酸化性を有し、自動車の点火プラグや工業用のるつぼなどに使用されています。

こちらはガリウムの不思議な特性を紹介するビデオ。まるで液体のように見えるけど、金属です。こうした特性を活かして、夢の工業製品が出来上がるわけですね。

同時収録の『ペイ・バック』『欧亜の狭間』も面白いですよ。

 ゴルゴ13 157 (SPコミックス) (コミック)
 著者  さいとう たかを (著)
 定価  ¥576
 中古 41点 & 新品  ¥1 から

映画『ブラッドダイヤモンド』

レオナルド・ディカプリオ主演の『ブラッドダイヤモンド』については、映画『ブラッド・ダイヤモンド』紛争ダイヤの悲劇・レオナルド・ディカプリオ最高傑作!にもレビューを書いていますが、こちらは、紛争ダイヤをテーマにしたアクション・ドラマです。

反政府勢力に捕らえられ、ダイヤモンドの漂砂鉱床で強制労働させられていたソロモンは、偶然、大粒のピンクダイヤモンドを拾い上げます。見つかれば、即、射殺という緊張の中、ソロモンはこれが家族を救う切り札になると信じて、某所に隠しますが、それに気付いた反政府勢力の大佐らに追われることになります。

彼を手助けしたのは、ダイヤの密輸を請け負う元傭兵のアーチャー(レオナルド・ディカプリオ)でした。最初は下心で近付いたアーチャーですが、紛争ダイヤの取材に来た女性ジャーナリストのマディらと交流するうち、考えを改め、ソロモンと彼の家族を救うべく尽力します。

アクションあり、ドラマありで、バランス良く仕上がった良作です。アーチャーとマディがベタベタしないのもポイント高し。焼き餅ではなく、こういうドラマに、変に男女の絡みを入れられると興ざめなので^^; 

反政府勢力の暴力、少年兵、密輸と資金源など、様々な問題が盛り込まれており、鉱業問題の入門編としておすすめです。

ブラッド・ダイヤモンド (字幕版)
出演者  レオナルド・ディカプリオ (出演), ジャイモン・フンスー (出演), ジェニファー・コネリー (出演), マイケル・シーン (出演), アーノルド・ボスロー (出演), エドワード・ズウィック (監督), ポーラ・ワインスタイン (監督), マーシャル・ハースコビッツ (監督), グレアム・キング (監督), ジリアン・ゴーフィル (監督), チャールズ・レビット (Writer), エドワード・ズウィック (プロデュース), ポーラ・ワインスタイン (プロデュース), マーシャル・ハースコビッツ (プロデュース), グレアム・キング (プロデュース), ジリアン・ゴーフィル (プロデュース)
監督  
定価  ¥299
中古 1点 & 新品  ¥299 から

資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄

マンガや映画を通して鉱業問題に興味をもったら、ルポルタージュや専門書に目を通してみましょう。

こちらはアフリカ取材とレポートに定評のある白戸圭一さんの著書。

日本ではいまひとつ関心の薄いアフリカの現状について、近代史をもとに分かりやすく解説されています。

一言でいえば、「他国の政府や資本の介入により、めちゃくちゃなことが横行している」。

豊富な資源は決して地元民を幸福にはしません。

教育を充実しようにも、法律を改めようにも、上からガッチリ押さえ込まれているので、変えようがないのです。

『22世紀はアフリカの時代』とも言われていますが、この先、どうなるかは分かりません。

 ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫) (文庫)
 著者  白戸 圭一 (著)
 定価  ¥902
 中古 48点 & 新品  ¥141 から

鉱業と地球科学

経済や産業をテーマにした論説は巷にたくさん溢れていますが、何をどう提言しようと、大本となる金属資源に欠くようでは、どうにもならないものです。
一流のパティシエは揃っているけど、卵や小麦粉が不足したケーキ屋と同じ。安物のカカオでは高級生チョコも作れないし、職人の腕が良くても、材料の安定供給に欠くようでは商売は成り立たないのです。

今後、商品開発の鍵となるレアメタルに対する需要はますます高まりますし、資源獲得をめぐる水面下の争いも激しくなるでしょう。

政治情勢が変われば、輸出入を取り巻く環境も変わりますし、希少な物質であるほど、原価も大きな影響を受けるものです。

金属資源の安定供給は日本にとっても生命線で、外交や技術提携も大事だけども、やはりそれを支えるのは、鉱物学、鉱床学、地質学など、優れた地球科学の知識だと思います。鉱物の成り立ちも、地層のなんたるかも、何も知らない人が理屈だけで動いても、屑石を掴まされて終わりでしょう。

ただでさえ地震や火山の多発地帯に暮らして、観測や研究が他国に増して重要なのに、肝心のエキスパートが育たないようでは将来も知れたものです。

学生の理科離れ、地学離れも進んでいるそうですが、地球科学は、日本人の暮らしや生命に直結する重要な学問なので、先人の遺業を粗末にすることなく、今後も発展を続けて欲しいです。

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