深海の潜航調査 ~その場に行けるのは一生に一度。宇宙の片隅の一期一会。

ウェストフィリア島近くの海底に広がる巨大なメテオラ海丘。
三度目の潜航調査をめぐって、調査スタッフの期待は高まるが、ファルコン・マイニング社の社長ロバート・ファーラーは自らの事業に悪影響が及ぶことを恐れて、潜水艇のパイロットであるヴァルターに無理難題を押しつける。
権威にひれ伏すか、科学の良心を貫くか、心が揺れ動く中、かつての上司である操縦士長のランベールから電話が入る。

歯痒い思いをしてるのはステラマリスの科学者も同じだ。予算がなければ調査船も出ない。それでも皆、生涯のテーマと定めた研究に懸命に取り組んでいる。お目出度いかもしれないが、人間の情熱に優るものはない。明日の潜航はどうだ? 面白いものが見つかりそうか?」
「興味深いものはあっても、潜航の機会を生かせそうにありません」
「やりにくいことがあっても、その場に行けるのは『一度きり』だよ」
ランベールは静かな口調で言った。
「深海の珍しい生き物も、熱水が勢いよく噴き出すチムニーも、その場で出会えるのは一生に一度だ。もしかしたら、この数世紀のうちに、それを目にする人間は世界中で君一人かもしれない。それくらい稀少で、宇宙的スケールの出会いを、わたしたちは日常的に体験することができる。そうだろう?」
宇宙の片隅の一期一会 ~発見は己の内側からやって来る

本作は、一般には、まだまだ知られていない深海調査の潜水艇のパイロットを主人公にしています。(最近では手記なども出版され、だんだんに認知度が高まっていますが)
「SF」「近未来」といえば、宇宙にスポットが当たりがちですが、私たちの足元に広がる『海洋』さえ、全容は解明されていません。その深奥まで探る潜水艇のパイロットは、宇宙飛行士と同じくらい価値のある仕事なんですね。
そして、多くの調査員にとってそうであるように、その場に行けるのは一生に一度きりです。何度も行ける場所もありますが、フィールドワークの場合、大雨や地震、風化や異常気象、時には観光客によって、自然環境もどんどん変わっていきますから、前回と全く同じ状態でサンプルを採取したり、カメラに収めたり、というのは、無理なんですね。火山にしても、野花にしても、永遠に変わらぬ形でそこにある……ということは、まずありません。
だからこそ、『一生に一度』の気持ちが非常に大切なのです。
それはまた、自然に対する畏敬の念であり、学術に対する謙虚さともいえるでしょう。
海も、山も、宇宙さえも、永久不変の存在に感じますが、この一瞬、この一秒が、誰にとっても『一期一会』なのです。

Photo:zoosnowによるPixabayからの画像

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