死刑囚を手術すること ブラックジャックの怒り

死刑囚に手術をすること ブラックジャックの怒り

死刑囚を手術すること ブラックジャックの怒り

京アニ放火容疑者は、現行の法制度においては、死刑は免れないし、もし死刑が確定したら、かなり早い段階で執行されるのではないかと思う。

にもかかわらず、何故、最高の医療技術を駆使して命を救ったのか。

理由は二つある。

一つは、人道的理由。

赤十字の精神と同じで、いかなる理由があろうと――敵軍であろうと、無一文であろうと――医療の現場において、人間は差別されない、ということ。

また、人間自身にも、そのような本能がある。

目の前に苦しんでいる人間がいれば、手を差し伸べずにいないという善性だ。

それは医療現場にいる者なら、誰もが痛感する。

史上最悪のモンスター患者でも、救急車で運ばれてきたら、全力で救命する、ということだ。(ゆえに、ますますモンスター化するという負の側面もあるのだけれど)

二つ目は、医療人というのは、そういうものだから。

難しい症例に当たると、全力で治したくなるのは医者の性(さが)。

大きな声では言えないが、学問的興味もある。

優れた医師であれば、腕を振るうのは当然だ。

当ケースの治療に成功すれば、他の火傷患者の救済の道も開ける。

ある意味、それが放火犯を活かす、最大の意義かもしれない。

初期の治療には「人工真皮」と呼ばれる人工皮膚を使用。その後、自分の皮膚組織の一部から培養して皮膚を作り出す「培養表皮」を使って移植する手術を繰り返した。培養に時間がかかるため、その間に人工真皮だけで治療するのは難しく、感染症などへの高度な対策が必要になる。
提供皮膚を使わない条件下で広範囲のやけどを治療するケースはほとんどなく、結果的に初の事例につながった。来年にも学会で発表される見通し。

京アニ放火容疑者、全身90%やけど救命困難だった

こういう事件があると、多くの人は、すぐに「死刑にしろ」と叫ぶが、要は「死ね」ということだから、いかなる理由があろうと、本来こうした言葉には慎重にならなければならないのだ。

実際に人を殺めるのも、他人に死ねとを求めるのも、根本は同じであると感じる。

手塚治虫の漫画「ブラックジャック」にも似たようなエピソードがあった。

ある政府に依頼されて、若い男性の脳外科手術を成功させるが(脳腫瘍だったか)、彼は死刑の確定した人物であり(確か反政府主義者)、回復後、ただちに裁判にかけられ、銃殺刑に処される。その際、死刑囚の男は、「頭は撃たないでくれ。ドクターが丹念に手術してくれた場所だから」と申し出、銃殺隊はその通り、胸部に銃弾を浴びせるのだ。

印象的なのは、裁判で死刑が宣告される時、傍聴席にいたブラックジャックが「わたしはこの患者を全力で手術して、助けたんだぞ! それをまた死刑にして殺すのか!」と叫ぶ場面。

これこそ医療者の偽らざる心情であり、恐らく、放火犯の治療を担当したスタッフも凄まじい葛藤を抱えながらの日々だっただろう。

男性の処刑後、政府が手術代を支払おうとしたら、ブラックジャックは「助けられなかった患者の手術代は要らない」という理由で断り、その場から立ち去る。

同じように、たとえ今回の治療が学会で認められようと、他の患者の救済に繋がろうと、そして世間の望み通り、男性に死刑判決が下されようと、医療スタッフの虚しさは生涯消えることはないだろう。もし、彼の為に泣く人間がいるとすれば、それは治療にあたった人々だ。「死刑にしろ」と叫ぶ人には理解しがたいかもしれないが、それが人間の善性であり、日本の高度医療を支える精神というものである。

1000万円かかったといわれる高額医療費が誰が負担するのかは知らないが、たとえ税金から支払われたとしても、非難されるべき事ではない。

恐らく、今回の症例は、他の火傷患者にも活かされるだろうし、ある意味、世間が憎悪する放火犯を全力で救済したスタッフに対する謝礼の意味もあるから。(その人たちのボーナスになるかは知らないが)

だが、幾ら受け取ったとしても、ブラックジャックならこう言うだろう。「助けられなかった患者の手術代は要らない」と。

そして、それは放火犯の医療スタッフも同じ想いではないだろうか。

同情と感じる人もあるだろうが、「どうせ死刑になるんだし」と開き直った人間を、開き直ったまま処刑しても、誰の、何の救いにもならないと思う。(遺族を除いて)

上述の映画にも描かれているが、人間として侘び、人間として赦される過程に刑罰の意義がある。

司法は司法、人道は人道、裁きが確定したそこから先は、もはや人間の領域を超えている。

だからこそ、安易に「死刑にしろ」などという言葉は使ってはならないのだ。

死刑囚を手術すること ブラックジャックの怒り
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