人間とは乗り越えられるもの ~人生における『創造』とは何か。

彼も十九歳になり、今では父の死や生き様と正面から向き合う余裕もある。プロテウスのパイロットになるという目標に燃えているせいか、悪夢にうなされる回数もめっきり減った。

そんな彼が生涯かけて理解したいのは、あの晩、堤防を守りに戻った父の気持ちだ。

<中略>

自分も被災者の一人であり、土木技師の父親を亡くした体験を語ると、教授はうんうんと頷き、あの晩、各地で多くの作業員が命を落とし、今はその遺族や元住民が中心となって復興ボランティアに取り組んでいることを教えてくれた。

「人間とは乗り越えられるものだよ」と髭の教授は言った。

「創造的であることが、あらゆる苦悩から我々を救ってくれる。傷つき、苦しむ自分を恥じなくなった時、本当の意味で君は悲劇から自由になれる」

海洋小説 《曙光》 MORGENROOD

引用元の投稿にもあるように、「人間とは乗り越えられるものだよ」という台詞はニーチェの《ツァラトゥストラ》名言の応用です。

《乗り越える》とは、辛いことが「辛くなくなる」ことではありません。

辛い、悲しい出来事を、いかに世界に還元するか。

そこに辿り着くまでの過程を指します。

本作では、ヴァルターが力業で悲しみを乗り越えようとします。いわば、根性や気力で、心の傷を克服しようとするわけですね。

しかし、それは割れた板に接着剤を塗り込むようなもので、本当の意味で「乗り越えた」にはならないし、一見、直ったように見えても、何かの弾みで、ポキンと折れてしまうこともあります。

そうではなく、辛い、悲しい出来事を通して、自分が知り得たことを、いかに周りに活かすか。

その過程における工夫や思い遣り、他人の痛みに対する想像力や行動力が、自分を鍛え、世界を変えていくのです。

痛みを忘れようと、がむしゃらに働いたり、周りをあっと驚かせるような勲章を手に入れても、本当の意味で克服したとは言えません。

人生における真の創造とは、痛みや苦しみさえも「経験してよかった」と心の底から思えた時、実感できるものです。

Photo:Tim HillによるPixabayからの画像
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海洋小説『曙光』MORGENROOD

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