【映画コラム】 ドガは本当に負け犬なのか?
周回遅れで、スティーブ・マックイーン主演の映画『パピヨン』を見ました。
『風と共に去りぬ』と同じく、世界中の誰もが結末を知っている名作なので、ずばり結末から申せば、殺人の濡れ衣を着せられた『蝶(パピヨン)』の入れ墨をもつ男(スティーブ・マックイーン)が、何度も脱獄を図っては失敗し、遂には、断崖絶壁から海に飛び込み、自由を得る──という物語です。
この映画の感想となると、十中八九は、海に飛び込んだスティーブ・マックイーンが英雄視され、その場に残ったもう一人の囚人ドガ(ダスティン・ホフマン)は、己の人生に何をも為せなかった負け犬のように言われますが、果たしてそうでしょうか。
私も10代20代の頃なら、「スティーブ・マックイーン、格好いい! やっぱ人間はかくあるべし」と単純に賞賛していたかもしれません。
でも、年を取ってから見ると、その場に残ったドガにも、ドガなりの矜持と諦観があるような気がしてならないのです。
ラスト、断崖から飛び降りることを決意したパピヨンと、それに気圧されるように付いて行くドガ。
だけども、ドガはこの島に残ると決めます。
先の脱獄で足に大怪我を負い、今も不自由な身であるドガにとって、断崖から海に飛び込むなど、それこそ自殺行為だからです。
パピヨンはドガの心情を理解し、今生の別れを告げます。
命がけで海に飛び込み、椰子の実の筏にしがみつくパピヨン。
それを見届けるドガ。この微笑みは友の勇気と幸運を心から祝福している。
だが、次の瞬間、ドガの微笑みは涙顔に変わる。
この表情を、「パピヨンのように飛べなかった自身への悔い」と取る人もあれば、「友と別れた悲しみ」と感じる人もあります。
あるいは、これからも延々と続く孤独と貧窮に対する絶望。
自身の無力を恥じる涙、等々。
解釈は人それぞれです。
しかし、ドガはパピヨンのように、遠くまで泳げる体力も気力もなく、自身で「ここまでが限界」と知っています。
パピヨンと同じように断崖から飛び込んでも、結局、大海原のど真ん中で力尽きたかもしれません。
そう考えると、ドガはドガなりに自分を貫いたと言えるし、死ぬまであの島で暮らしたとしても、それはそれで納得したのではないでしょうか。
一般論では、パピヨンの方が勇ましく、理想的な生き方と語られますが、ドガにもドガの考えがあり、ドガらしい人生があります。
どちらが勝者、どちらが負け犬という訳でもありません。
どんな人生であれ、最後まで生き抜いたなら、ドガも「悲運に打ち克った」と言えるのではないでしょうか
飛べない蝶にも意味がある。
それはダスティン・ホフマンの演技を見れば分かります。
Amazonのレビューに「ダスティン・ホフマンが演じる意味があったのか」というコメントがありますが、ラストのあの表情は、ダスティン・ホフマンでなければできない演技でしょう。
ちなみに、この断崖から飛び降りるスタントは、人形ではなく、伝説的なスタントマン、ダー・ロビンソンです
スティーブ・マックイーンがラストに叫ぶ、Hey, you bastards, I'm still here! (お前ら、くそったれども、オレはまだ生きてるぞ!)という台詞がいいですね。
この「You」が意味するところも、意地悪な看守や、逃げ出す勇気のない囚人ではなく、「試練を与えた神や運命に対して」という見方もあり、私も大いに同意します。
また、こんな風に、10代20代とはまったく違った解釈ができる点が、年齢を重ねることの面白さかもしれませんね。
※ 社会(現実)の囚われ人となっても自由を諦めないパピヨン
DVDとAmazonプライムビデオの紹介
ラオウ・内海賢二サマと宮部昭夫の二種類の吹き替えが収録された愛蔵版。
マニアックなカスタマーレビューが面白い。
出演者 スティーヴ・マックィーン (出演), ダスティン・ホフマン (出演), ロバート・デマン (出演), ウッドロー・パーフリー (出演), アンソニー・ザーブ (出演), フランクリン・J・シャフナー (監督)
監督
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