薬師丸ひろ子&真田弘之の角川映画『里見八犬伝』

映画『里見八犬伝』について
千葉真一、寺田農、京本政樹、志穂美悦子、岡田奈々など、蒼々たるメンバーで揃え、清純派アイドル・薬師丸ひろ子の初のラブシーンも話題になった、80年代角川エンターテイメントの集大成ともいうべきアクション時代劇。夏木マリが全裸で血の池に入浴、息子役の目黒弘樹と近親相姦的なキスシーンなど、妖艶かつ幻想的な名場面も多く、真田広之らの剣術も愉しめる。CGに頼らない、発泡スチロール系美術も今となっては新鮮。京都の織物屋が総出で手掛けたような豪華衣装も、映画作りの情熱を感じさせる。バブル時代の華やぎを象徴するような、赤い口紅メイクの美しさも印象的だ。
目次

80年代の角川商法について

今の若い人は、角川というと『KADOKAWA』、ドワンゴや川上量生しか思い浮かばないと思うが、元々は、角川春樹が創立した異色の出版社である。

今でこそ出版社が玩具メーカーやアイドル歌手らタイアップして、一つの作品を総合エンターテイメントとして売り出すことも当たり前のように行われているが、80年代、角川商法以前は、出版社といえば文化の担い手、現在よりはるかに志も高く、文化芸術の振興や作家の育成に心血を注いでいた。

そこに商業性を持ち込んで、映画、音楽、TVショーなど、多方面にムーブメントを起こし、小説を一つの娯楽パッケージとして売り出したのが『角川商法』だ。

小説を映画化するだけでなく、テーマソングを付けて、封切り前に大々的に売り出し、まずは映画の概要と印象的なキャッチフレーズ(「母さん、僕のあの麦わら帽子、どうしたでせうね」「男はタフでなければ生きられない。優しくなければ、生きていく資格はない」等々)を全国区に浸透させる。

町を歩けば、あちこちから「Mama, Do you remember ?」、「男は誰もみな 無口な兵士」、「さよならは別れの言葉じゃなくて~」といった角川映画のテーマソングが流れ、TVを付ければ、印象的な予告編が繰り返し、放映される。

それこそ、耳にタコができるほどテーマソングを聴かされるので、大衆も否応なしに作品に興味をもつし、映画館に足を運ぶ。

そして、薬師丸ひろ子や原田知世のキュートな笑顔にノックアウトされて、次はレコードを買ったり、写真集を買ったり。

それが80年代の角川商法であり、小説が『小説』という枠を超えて、一大エンターテイメントとして売り出される時代の到来である。

現代も、国民的アイドルは存在するかもしれないが、あの頃の薬師丸ひろ子や原田知世の存在感は、桁が違うというか、アイドルを遙かに超えた、時代のアイコンだ。高校生だけ、オタクだけが夢中になるのではなく、国民みんなが自分の妹か娘みたいに好意をもって、温かく見守った。

今のアイドルも大ヒットといっても、彼女らの楽曲を、空で歌える人が、どれくらいいるだろう?

いつ、どの曲が流行って、サビのフレーズはこれ、というのを、ファン以外で細かに記憶している人があるだろうか。

でも、角川のヒット曲は、国民みんなが知っていた。

歌謡番組など、まるで興味のないお年寄りでも、「セーラー服」といえば、「ああ、ひろ子ちゃんが銃をバンバン撃って、カイカン……と言う映画ね」と知ってたし、「Mama, Do you remember?」と聴けば、「麦わら帽子」が連想できた。

それぐらいインパクトが大きかったし、歌も、役者も、上質なもので揃えて、老いも若きも楽しめるものを作っていたのである。

当時の角川商法はあまりに商業性が色濃く、ついていけない部分もあったが、近頃は、トップが変わると、ここまでコンテンツや影響力に差が付くものかと嘆息させられることしきりだ(※ 川上氏は2019年に退任)

今頃になって角川春樹の偉大さが理解できるようになり、あのブームをリアルに体験できたのは幸運だった――とさえ思う。

それは、あの時代に角川からデビューした薬師丸ひろ子や原田知世も同じ思いだろう。

これが現代なら、あそこまで大事に育てられなかったかもしれない(ちなみに、当時は高倉健や緒形拳など、名だたる俳優もご存命で、若いタレントの将来を気遣い、ひろ子ちゃんも撮影所で高倉健に勉強を見てもらってたそうですよ。ほんと羨ましい)

ITの発達とともに、国民みんなが一つのエンターテイメントを楽しむ時代は過ぎ去り、今は一人一人が自分の好きなものを心ゆくまで楽しむのが主流になっている。

それも悪くはないが、みんなの日常の中に一つの作品があり、感動や思い出を共有するのも素晴らしい体験だ。

なぜって、好みやライフスタイルは違えども、私たちはやはり同じコミュニティの同胞として、繋がりや共感を求めているからだ。

国民的人気とは、時代との一体感でもある。

今、決定的に足りないのは、魅力的な女優でもなく、刺激的な物語でもなく、国民全体に語りかける、普遍的なテーマではないだろうか。

加筆修正 2020年6月14日

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映画『里見八犬伝』の美しさと面白さ(画像付き)

1983年に封切られた深作欣二・監督の映画『里見八犬伝』は、曲亭馬琴の名作『南総里見八犬伝』をベースにした時代活劇。

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの霊玉をもつ八人の剣士(八犬士)が、里見家の血を引く静姫を奉じ、玉梓の怨霊を討ち取る。

里見八犬伝という物語を映画したかった……というよりは、千葉真一、寺田農、京本政樹、志穂美悦子、真田広之など、演技と剣術に優れた、八犬士にふさわしい役者が揃った理由が大きいと思う。

おまけに、夏木マリという、最強の玉梓役もいたし。

時代劇に関しては、NHK大河ドラマ(『花神』『風と雲と虹と』 『勝海舟』『おんな太閤記』あたり)の重鎮がそろそろ第一線から引いて、片岡千恵蔵や萬屋錦之介に代表されるような正統派時代劇から、エンターテイメント色の強い現代時代劇へと移り変わる過渡期だったので、余計で「面白いものを作ろう」という意気込みが強かったように思う。景気もよくて、エンターテイメントの分野でも、「ハリウッドに追いつけ、追い越せ」だったから。

エンターテイメント系の時代劇といえば、沢田研二&千葉真一主演の『魔界転生』も圧倒だったが、里見八犬伝も、美術や演出において、まったく引けを取らない。

私もDVDを買ったけど、何度観ても、笑えるね(いい意味で)

もうね、同じ死ぬなら、千葉真一に斬られて死にたいですよ、本当に。

ギャラリー、いってみよ

作品の要は、なんといっても玉梓姫を演じた夏木マリ。ゴージャスかつ妖艶。誰にも真似できません。

夏木マリ 里見八犬伝

血の池に身を浸して、永遠の若さを得る。オールヌードを披露して、体当たりの演技でした。

夏木マリ 里見八犬伝

夏木マリ 里見八犬伝

息子の目黒弘樹とはちょっと近親相姦的な母子です。

夏木マリ 里見八犬伝

千葉真一と寺田農の修験者姿。似合いすぎて怖い。

里見八犬伝 千葉真一

ここで松坂慶子(=伏姫の声のみ)が出てくるのは意外でした。
姫の身体から八つの珠が飛び散り、八剣士の印となる。
この巻物風の演出はよかったです。美術さんが手書きされたのかな。ぐっじょぶ。

松坂慶子 里見八犬伝

志穂美悦子も綺麗だわ・・。アクションもできるし、芝居も上手。
この頃のジャパンアクション・クラブも最高でしたね。
ちなみに私の中学の同窓生が通ってました。
「芸名も、サインも考えてるの。黒崎麗華っていうのよ」とメモ帳にさらさらとサインしてくれたのが今も忘れられません。
その後、JAC系の映画を観る度に、エンドクレジットに『黒崎麗華』を探してたけど、見つからなかった。
でも、中学生の夢って、そういうものでいいと思うの。

志穂美悦子 里見八犬伝

志穂美悦子 里見八犬伝

真田広之も、スーパー・ハンサムではないのだけど、立ち居振る舞いが綺麗だし、アクションも上手い。
彼の才能を見出した千葉真一はさすがという他ない。

千葉真一 里見八犬伝

岡田奈々の美しさも神がかってました。
バブル時代の女優さんは、みな、紅い口紅がよく似合う。

里見八犬伝 岡田奈々

蛇つかいの妖之介を演じた萩原流行。最近、事故で亡くなられて残念です。
本作は美術や衣装も豪華版。グスタフ・クリムトの名画『接吻』を模した背景が素敵です。

里見八犬伝 

京本政樹も美しいこと。妖怪の美女軍団と太刀を交える演出がいいですね。
日本女性と長刀は、ほんと絵になります。

京本政樹 里見八犬伝

京本政樹 里見八犬伝

ひろ子ちゃんの入浴シーンも話題になりましたね。
女優さんも、大人になったら、一度は通らねばならない道だ。
それはそれで厳しい。

薬師丸ひろ子 里見八犬伝

フナムシに襲われて、きゃぁあ~あ~と叫ぶシーン。
「オレたちひょうきん族」で山田邦子が真似して、めちゃくちゃ可笑しかった。

薬師丸ひろ子 里見八犬伝

ひろ子…… 「君も大人の女優を目指すなら、ラブシーンぐらいできないと」という感じのラブシーンでした。
覚悟を決めて、やらざるを得なかったんですよ、きっと。

薬師丸ひろ子 里見八犬伝

これが発泡スチロールのラストファイト。
80年代の角川映画らしい演出。

役者の力量もさることながら、殺陣も素晴らしいです。

セットも、なまじCGなんか使うより、発砲スチロールの方が温かみや重量感があって、よっぽどいいね。

これぞ東映! 太秦映画村! という感じで大好きです。

里見八犬伝 千葉真一

なんだかんだで買ってしまったDVD。
作品自体が古いので、リマスターしても、そこまで高画質にはならないけど、アクションや美術、ベテラン勢の演技がいいので、お宝ものですよ♪

薬師丸ひろ子 里見八犬伝

記:2017/02/11

YouTubeの動画が削除されているのに気付いて、書き直しました。

2009年のレビュー(メモ書きデス)

やっぱ、角川映画は面白い。

この『里見八犬伝』も20年ぶりに見たけれど、歳月をまったく感じさせないほど魅力的だった。

いかにも「東映太秦映画村~!」という感じの発砲スチロールの柱が倒れてきたり、イトーヨーカ堂のチビッコ・ショーに出てきそうな怪物が登場したり、スピルバーグやジョージ・ルーカスのCGバリバリの映像に比べたら随分見劣りはするけれど、それがかえって映画ならではの醍醐味を醸し出している。

大道具さん、小道具さん大活躍の、オール手作りのセットを見ていると、本来、『映画』って、こういうものじゃなかったの?──ということを、懐かしく思い出させてくれるのだ。

*

そして何より、役者が上手い。

登場しただけで空気が変わる。

ひとつ間違えば滑稽でしかない作り物のセットの中で、なんと見事に化け物や剣士を演じておられることか。

その姿を見ていると、いつしか発砲スチロールが気にならなくなる。

学芸会のセットみたいな魔宮がリアルに輝き出す。

さすが「プロ」、さすが「役者」と感嘆せずにいないくらい。

魅力と才能に満ちあふれている。

*

それにしても、「玉梓」を演じる夏木マリのなんと妖艶で魅力的なこと。この映画の真のヒロインといってもいいぐらい、その存在は際だっている。(もとふじぃ~!!という叫び声がいい。玉梓はお母さんなんだよね)

マザコンにして男の色気ムンムンの、「蟇田素藤(ひきた・もとふじ)」(=目黒祐樹)も秀逸だし、蛇の化身である「妖之介(ようのすけ)」も、ネチこいいやらしさを醸し出して気味が悪いぐらい。

薬師丸ひろ子の「きゃぁあぁあぁ~」という気の抜けたような叫びっぷりも笑えるし(「オレたちひょうきん族」でパロディをやっていた)、声だけ出演している松坂慶子も、「姫」というよりはマダムという感じ。色っぽい。

千葉真一は相変わらずカッコいいし(彼になら、斬られても本望かも)、デビューしたての頃の京本政樹も本当にみずみずしい。

この頃から一躍知名度が高まった真田広之は、初めて見た時は、「えー、こんなお猿顔が次代のホープなの」と思ったものだが、やっぱり千葉真一は見る目があったね。今や日本を代表する国際派俳優。(葉月里緒奈とのスキャンダルはガッカリだったけど・・)

そして、志穂美悦子や岡田奈々のなんと美しく清冽なこと。

今時、赤い口紅がピタリと顔に収まる女優さんがいるだろうか。

*

この作品は今でも海外で高い評価を受けているそうだが、頷ける話だ。

単純に「面白い」。

それがどうした、と言わんばかりの迫力が見ていて爽快、日常の垢をさっぱり洗い流してくれるからだろう。

私も角川映画が一大ブームだった頃は、あまりの思想のなさにうんざりすることもあったけれど、今では「いいものを見せてもらった」とつくづく思う。

ほんと、いい役者さんが、いっぱいいたんだなぁ、って。

このトリュビュートがよく出来ています(^^)

※削除されました

DVDとAmazonプライムの紹介

里見八犬伝 ブルーレイ [Blu-ray]
出演者  薬師丸ひろ子 (出演), 真田広之 (出演), 深作欣二 (監督)
監督  
定価  ¥1,180
中古 15点 & 新品   から
 

悪霊につかえ、不死身の妖怪となった玉梓は、かつて里見家に征伐された恨みを抱いて館山城に攻め入った。里見一族は虐殺され、静姫だけが生きのびる。その姫の前に仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の各字を刻んだ八つの霊玉を持った八剣士が集まる。妖怪軍団の巣窟ヘ攻め入り、激闘の中で一人一人命を失ってゆく八剣士の中、親兵衛と静姫は最後の力で玉梓に挑むのであった。。。角川映画35周年記念 デジタル・リマスター版

80年代の角川映画、当時を代表する役者たちの魅力がぎゅっと詰まった必見の娯楽大作。
悪役も、剣士達も、それぞれの個性が十二分に生かされて、演技を見るだけでも価値があります。
深作監督も見せ場を作るのが上手いし、ごちゃごちゃ考えず、エンターテイメントとして楽しんでください。

Amazonプライムでも視聴できます

 現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫) (文庫)
 著者  曲亭馬琴 (著), 白井 喬二 (翻訳)
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わが国の伝奇小説中の「白眉」と称される江戸読本の代表作を、やはり伝奇小説家として名高い白井喬二が最も読みやすい名訳で忠実に再現した名著。長大な原文でしか入手できない名作を読める上下巻。

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いわゆる図解本。
手っ取り早く作品を理解するにはもってこいではないでしょうか。

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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