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映画『SHAME -シェイム- (恥)』 愛してはならないものを愛した時

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映画『SHAME -シェイム-』の描く「恥」とは

性依存症を演じるマイケル・ファスベンダー

2011年、マイケル・ファスベンダー主演の映画『SHAME -シェイム-』は、性依存症の青年と、その妹の奇妙な同棲生活を描いた秀作だ。

性依存症を題材にしているだけに、刺激の強い場面も多いが、決して行為そのものを直截的に描いたエロ映画ではなく、性依存症と実妹との関係に苦悩する青年の心理にフォーカスしている。

物語は単純至極で、朝から晩まで性行為に耽るエリート・ビジネスマンのブランドンのアパートに、実妹のシシィが転がり込んでくる。

兄妹なのだから、二人が一つ屋根の下に暮らすのは、何の問題もないはずだが、シシィの振る舞いは次第にブランドンの心を圧迫するようになり、シシィもまた心に深い傷を負う……というもの。

タイトルの『恥』が意味するものは、性依存症だけでなく、秘めた欲望や、心の傷や、身近な女性と円満な関係が築けない負い目など、いろいろだ。

存在そのものが「恥」と言ってもいい。

それくらい、エリートのブランドンには重い事実である。

あまたの依存症克服ストーリーのように、展開を追う映画ではなく、とことんブランドンの心理に付き合う作品なので、見終わった後も、何ともいえず、重苦しい気分になる作品だが、今をときめくマイケル・ファスベンダーの出世作ということもあり、一見の価値はある。

妹を演じたキャリー・マリガンの存在感も素晴らしく、とりわけ、バーでジャズの名曲『New York, New York』を歌う場面が印象的だ。

美しく、官能的に成長した妹を前にして、たじろぐブランドンの表情に注目。

YouTubeのレビュー「Micheal fassbenders body language just makes this scene. As someone with a younger sister, this scene is pretty emotional. (マイケル・ファスベンダーの仕草がこの場面を印象づけている。妹をもる者なら、この場面にちょいと心が揺れるはず)」という言葉が全てを物語っている。

【恋愛コラム】 愛してはいけないものを、愛した時

本来、『恋情』や『愛する気持ち』は、世の常識を超えたものだ。

男が男を、女が女を、親子ほど年の離れた人を、あるいは、妻子や婚約者のある人を、思いがけなく好きになってしまうことはある。

「止めよう」と思っても止められないから、『恋』というのであり、理屈でどうにかなるものなら、男女の心中も、刃傷沙汰も、とおの昔にこの世から無くなっているだろう。

人が人を求める気持ちに理由などなく、気が付いた時には、恋してしまっている――というのが、恋情の本質である。

しかし、皆に祝福される恋と異なり、この世で禁忌とされる恋は、たいてい背徳だ。

不倫だ、セフレだと、開き直っている人は別として、ごく普通の、きわめて常識的な人物が、愛してはならないものを愛してしまった時、多くの場合、良心や理性の狭間で苦しみ、自分の存在そのものを恥じ入ってしまうものである。

もっとも、現代は、同性愛にも社会の門戸が開かれ、エルトン・ジョンや、ジョディ・フォスターのような有名人がカミングアウトしても、世間もいちいち驚かなくなっている。年齢差のあるカップルや、身分差婚も同様だ。

しかし、これが「兄妹」となれば、世間の受け止め方も異なる。

何故なら、相手が近親者の場合、好みの問題ではなく、生物学的問題を含むからである。

それだけに、洗練されたビジネスパーソンであるブライアンが、絶え間ない飢餓感に苦しみ、トイレで一発、娼婦と一発、高級ホテルで一発と、果てしない性の無間地獄に落ちて行く様は痛々しい。

それは、恋愛依存症の実妹も同様だ。

別れた男にすがるように電話をかけて、「あなただけなの」と泣きじゃくったり、酒の勢いでブランドンの上司とセックスしたり。

頭でこうと分かっても、どうにも止められないのだろう。

酒や麻薬なら、物理的に断つことも可能だが、欲望や恋情に付ける薬はなく、やってもやっても満たされない、砂漠のような飢餓感が果てしなく続くのみである。

そんなシシィの存在に苛立ち、ブランドンは冷たく突き放そうとするが、事態は意外な方向に展開していく。

最後には、観客も、ブランドンの秘められた苦悩を知るのだが、正直、批評家が絶賛するほど心に残らなかった……とういのが、私の感想だ。

単に作品と相性が悪いだけかもしれないが、何もかも観客に丸投げするのではなく、もう少し、ブランドンとシシィの過去について、説明を加えてもよかったのではないか、と。

たとえば、物語のターニングポイントとなる、この場面。

マイケル・ファスベンダーとキャリー・マリガン

ブランドンが居間のソファに腰かけ、白黒の子供向けアニメを観ていると(もしかしたら、幼い時に妹と一緒に観ていた?)、シシィが隣に座り、「抱いてくれる?」と甘える。
彼はすぐに彼女の肩を抱き、しばらく一緒にアニメを視聴するが、突然、ブランドンが、彼女が上司と寝たことについて怒り出し、「ここから出て行け。被害者ぶるな」と激昂する。すると、シシィも売り言葉に買い言葉で言い返し、ついにはブランドンが部屋を出て行ってしまうのだ。

痴話喧嘩といえばその通りだが、この会話の解釈が難しい。

二人の過去が一切語られないだけに、屈折した思いは現在進行形なのか、あるいは忌まわしい思い出となって二人を苦しめているのか、釈然としないからだ。

それなら、妹に何の罪悪感もなく、ブランドン一人が今も妄執に振り回されている方が分かりやすいのだが、この妹も、いまいち何を考えているのか分からず、もやもやしながら観ているうちに、クライマックスが呆気なくやって来るので、見る側は肩透かしを食う。主演のマイケル・ファスベンダーも、妹役のキャリー・マリガンも決して悪くはないのだけれど、ちょっと解釈を観客に委ねすぎかな、と。

もう一点、シシィと上司がブランドンの隣の部屋でセックスを始めて、ブランドンが夜の街に飛び出す場面も同様。

『男の嫉妬』というよりは、「ふしだらな妹に対する、純粋な兄の怒り」という印象が強く、ブランドンはただ単に素行の悪い妹に頭を痛めているだけと取れなくもない。誰だって、隣の部屋で、自分のきょうだいがおっぱじめたら出て行きたくなるし、それならもっと、妹に対する性的妄想を掻き立てるような描写があった方が分かりやすいからだ。

せっかく『兄妹愛』という禁断のテーマに挑んだのから、もうちょっと狂おしい、それでいて切ない心理描写があってもよかったのだが、それは期待が過ぎるというものか。

ついで言うなら、シシィも「スレた姉ちゃん」という感じで、兄の保護本能や、男の性欲をそそるタイプに見えないマイナスポイントも大きい。(それは決してキャリー・マリガンのせいではない)

いずれにせよ、難しい役を全力で熱演したマイケル・ファスベンダーには座布団十枚だし、キャリー・マリガンの歌う『New York, New York』も素晴らしかった。

もう少し時間を置いて見直せば、今度はこの作品の良さが理解できるような気もする。

DVDとAmazonプライムビデオの紹介

マイケル・ファスベンダーは、この後、世界中からオファーが舞い込み、演技派として着実にキャリアを進めている。

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出演者  マイケル・ファスベンダー (出演), キャリー・マリガン (出演), ジェームズ・バッジ・デール (出演), ルーシー・ウォルターズ (出演), ニコール・ビヘイリー (出演), スティーヴ・マックイーン (監督)
監督  
定価  ¥5,990
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初稿 2012年2月27日

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