Stay hungry, Stay foolish ースティーブ・ジョブズ伝説のスピーチよりー

スティーブ・ジョブズの言葉で、もっとも有名なのは、スタンフォード大学の卒業生に向けた『伝説のスピーチ』の締めくくりの言葉である『Stay hungry, Stay foolish』ではないだろうか。

直訳すれば、「ハングリーであれ、愚かであり続けろ」。

Be hungry, Be foolish ではなく、「Stay」=状態の継続を意味しているところが、このメッセージの肝だ。

一瞬、ハングリーになることはできるが、それを何年も継続するのは難しい。

どこかで妥協したり、見切ったり。

それが前向きな転換であれば価値もあるだろうが、単に根気がないだけなら、他の何かになっても、決して長続きはしない。

あるいは、『Be』になった時点で、何ものかになったような錯覚に陥り、慢心するかもしれない。

あえて『Stay』と強調したのは、一瞬で得た悟りなど、何の支えにもならないことを、他ならぬ、ジョブズが一番よく知っていたからかもしれない。

ところで、『hungry』と『foolish』の意味するところだが、直訳すると、少し本質から外れてしまうので、私なりの解釈を記しておこう。

まず、hungryという言葉だが、これは「飢餓感」や「渇望」よりも、『貪欲』と解釈した方が分かりやすいだろう。

何をするにしても、まずは対象に対する飽くなき情熱や好奇心がなければ続かない。

ちょっと手にしただけで満足してしまうような目標は、いずれ興味も色褪せるし、何かに憧れるだけでは動機として弱すぎる。

「世界を変えるモバイル」を目標とするならば、寝ても覚めても、モバイルのことで頭がいっぱい、見るもの、聴くもの、触れるもの、すべてがモバイルへのアイデアに繋がっていかなければ本物ではない。

飯を食ったり、友だちとおしゃべりしたり、映画を観たりしている間はすっかり忘れているような情熱は、真の意味で情熱とはいえず、何かに憑かれた人間というのは、飯の粒にも創造のヒントを見出そうとするものである。

こうした飽くなき追究は、魂が焼け付くほどの貪欲さによって持続するもので、その欲望の正体とは、大いなる目的への忠誠であり、献身である。

モバイルで世界を変えるのが目的ならば、その中に人生の全てを捧げるほどの覚悟と気魂がなければ、長続きしない。

自分にはこれしかない、何が何でもやり遂げる、そうした焼け付くような欲望があって初めて、無から有が生まれ、漠然としたアイデアを形に成すことができるのである。

それはさながら、魂が植えるような渇望であろう。

ゆえに、Stay hungryなのだ。

次いで、foolishという言葉だが、これも「愚か」と直訳するより、『無知(あるいは謙虚さ)』と解釈した方が分かりやすい。

この場合の無知とは、プラスになることなら何でも受け入れる心と頭の広量さである。

人間、知識と技術が身に付けば、変に自信が身に付いて、他人の忠言や価値観の異なるものを拒絶するようになる。

自分の地位や賢さに溺れて、かえって了見が狭くなるのだ。

了見が狭くなると、たとえ目の前に正解があっても、「自分より地位の低い人の言うことだから」とか「自分の学んだ知識の方が深い」みたいな、くだらぬ理由で受け入れることができず、いつまでも過った考えに凝り固まるようになる。

その点、良い意味で無知を自覚する人間は、誰の忠言であろうと、自分とは異なる価値観であろうと、「これだ1」と閃いたら、素直に教えを請うことができる。

いつまでも自分の実績や地位に拘ることなく、あまたの意見や知識を幅広く吸収することができる。

それは、さながら、無垢な道化のように見えるかもしれないが、いっそうの成長を願うなら、何も知らない愚か者のように、受け入れ、悦び、日々、新鮮な驚きに満ちていなければならない。

頭の固い者に成長はなく、無垢な道化だけが、誰にも踏みならされていない道をひるむことなく突き進んで行けるのである。

若さの最大の特権は、「好奇心に満ち」「何も知らないこと」だ。

これといったものは、まだ何も持たないからこそ、いくらでも貪欲になれるし、真っ白な頭にどんどん知識や技術を吸収することができる。

何を目指すにしろ、「Be(何かになること)」よりも、「Stay(そうであり続けること)の方がはるかに重要であるのは言うまでもない。

※ 伝説のスピーチはこちらで日本語字幕付きで御覧になれます。

スピーチの全文(英語)はスタンフォード大学の公式ページに掲載されています。
http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html

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この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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