女性 Notes

「人を好きになる」のも能力の一つ

女性 Notes
「あなたが好きなの。初めて会った時からずっと……自分でもどうしようもないくらいに」
 彼は、ついに言われた──と思い、リズもとうとう言ってしまった──と感じた。

「……知ってたよ。最後まで気付かない振りをしようと思ってた。だけど君を見ていると、どうやらそれは無理みたいだ。──ミス・マクダエル、俺も君が好きだよ。今まで出会ったどんな人よりも心惹かれてる。でも、君の気持ちを受け入れるには、少々、勇気が要る。運命の女神に愛されることは決して楽じゃないんだよ」

「それは私が『アル・マクダエルの娘』だから──?」

 彼はしばらく答えを躊躇ったが、小さく「そうだ」とつぶやいた。

「『アル・マクダエルの娘』って、いったい何なの? 私はエリザベス・ベアトリクス・マクダエルよ。普通の、一人の人間よ。 『アル・マクダエルの娘』が何だというの? それほどに重要なことなの? もし『アル・マクダエルの娘』というだけで愛されないのなら、私はもう生きてなんかいたくない。この場で死んでしまった方がましよ。私は『私』なのよ、どうしてあなたまでそんな事を言うの?」

*

「じゃあ、また逆戻りね。……私、本当を言うと、ずっと独りで淋しかったのよ。誰かと本音で語り合うこともなければ、心が触れ合うような思いもしたことがない。でも、あなたとは心で話せると思ってた。私が何ものであろうと気にしない人だって……そんなあなたでもやっぱり気にするのね」

「そうじゃない。君への気持ちが一時のものじゃないから気になるんだよ。もし後先どうなってもいいなら、今ここで『俺も愛してる』と言って終わりだ。身も心も奪って、「同意の上」「お互い様」で済ませるよ。後で君が傷つこうが、苦しもうが、『お互いさま』と割り切ってね。でも、そうじゃないから……どうしたら君と一緒に幸せになれるか考えるから、君と一緒に居られるか考えるから、君を幸せにできるか考えるから、躊躇いもするし、迷いもする。真剣に考えれば考えるほど、迂闊はことは言えなくなるんだよ」

「──それは良い方に考えていいの?」

「もちろん」

 リズは顔を上げ、彼の「Ring of Truth」を見つめた。
 言葉に嘘があればすぐに分かる。
 そういう力を私は天から授かった。
 リズは透き通るような水色の瞳を真っ直ぐに凝らし、それから納得したように目を伏せた。彼の返事は淋しいけれど、嘘でないのは真実だった。

「ミス・マクダエル、俺は今、君を喜ばせるようなことは何一つ言えないけど、これだけは確かだ。自信を持って言える。君への気持ちは誰よりも深くて、本物だってことだ。君にはどんな時も誠実でありたいし、幸せにしたいと願ってる。それだけは信じて欲しい」

「……分かったわ。それなら私も考える。どうしたらあなたと一緒に幸せになれるか……きっと何処かにいい方法があるわね」

「いろいろ迷うぐらい、好きなんだよ。こんな気持ちにさせるのは君だけだ。自分でもどうしていいか分からないぐらいに。本当だ」

*

『迷うぐらい好き』って、どういう事なのかしら──と考えた。普通は、そういう風には言わないでしょうに──。
 でも、それが彼にとって最上に誠実で、気持ちのこもった表現だということは彼女にも理解できた。
 それは不思議な愛の言葉だったけれども、リズは心から納得いった。 

もし運命の女神が自分で舵取りできなくなったら、運命の輪はどうなるのだろう。それでも正しく回り続けるの?

海洋小説『曙光』 MORGENROOD (上)のボツ原稿

引用ネタ
One Heart, One Ocean 海に生きる人々の願い

記:2012年5月2日

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表現は月の光と同じ

表現は、月の光と同じ。 人の目に映るのは、月そのものではなく、投影された光だから。 それは月に見えるが、月自身ではないのだ。

「好きな人などない(異性・同性あわせて)」「人を好きになったことがない」という場合。

では、目の前に、容姿も性格も条件もパーフェクトな人が現れたら好きになるか──と言えば、決してそうじゃないですよね。

人間の「好き」な気持ちって、もっと不可思議なものです。

神経質とかズボラとか、頭髪が薄いとか背が低いとか分かってても、なぜかその人に惹きつけられる。すごくイヤな面もあるけど、どこか許せるし、一緒に居たいと思う。

「優れているから」「欠点がないから」人を好きになるのではなく、人が人を「いとしい」と思う気持ちは、たいていの場合、その人の至らない所とか弱い所もひっくるめて理解できた時、心に湧いてくるのではないでしょうか。

そう考えると、「人を好きになる」というのは、一つの能力と言えます。

出会い運が無いから、周りにイイ男がないから、「好きな人なんて、ない」じゃなくて、自分自身に他人を理解したり、受け入れたり、感じたりする力がないとね。たとえ目の前にダイヤの原石みたいな男性がいても、多分、気付かずに終わってしまうでしょう。

ダイヤの原石は「それ」と分かる女性と一緒になって、ピカピカに輝き出す。

それを横目で見て「いい男はみんな結婚してる(彼女がいる)」とか言い出す。

運が悪いんじゃなくて、人の良さを正しく見られない自分自身の落ち度に他なりません。

おそらく、「人が好き」と思える人は、「自分のことも好き」ですよ。

他人の過ちが許せるように、自分の過ちも真っ直ぐ見つめて受け入れることができる。

言い換えれば、自分のダメな部分から逃げ回っている人は、他人のダメな部分にもやたら鋭くて、あれこれツッコミを入れたくなる、損な性分ではないでしょうか。

「いい人だから、好きになる」のではなく、「相手がどんなであれ、好き」というのは、健やかな自己愛を伴った、一つの心の能力なのですヨ。

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