抗議の白鳥 アルゼンチンのバレエ団

抗議の白鳥 《踊るより、田を作れ》 失職したダンサーたちの闘い

抗議の白鳥 アルゼンチンのバレエ団

寺山修司の名言『『詩を作るより、田を作れ』 文芸の価値と詩を役立てる心について』にも書いているが、芸術とは何だろうと、時々、思う。

バレエも、詩も、絵画も、歌謡も、小説も、無くても誰も困らない。

ぶっちゃけ、人間は、朝から晩まで働いて、衣食住を手にすれば事足りるわけで、詩など百編書いてもパンに変えることはできない(職業詩人は別として)。

バレエにしても、一度の公演で、数千万を売り上げるダンサーなど世界に一握で、多くはストリートで踊っても、一ヶ月の食費を稼ぐのが精一杯だろう。まして国庫を支えたり、雇用を創出したり、機械を発明したり。現代社会において、何の役に立つかと問われたら、うーむと首を捻らざるをえない。ものによっては、保存や普及の為に、数千万だか、数億だかの補助金を要するのが現実であるから、一面、国庫のお荷物と言われても仕方ない。そして、国庫が傾けば、真っ先に切られるのが、こうした非生産的な分野なのだ。

路上で抗議の「白鳥の湖」 政府の決定で失職したダンサーたち アルゼンチン
Feb 20 2018

Natacha Pisarenko / AP Photo

2月1日、アルゼンチンの首都の路上にバレエダンサーたちが繰り出し、交通を妨げながら、政府の予算削減に抗議して「白鳥の湖」のプレリュードを上演。居合わせた観衆から拍手喝采を浴びた。

国費で運営される国立バレエダンス団に所属していた約80人のダンサー、振付師、その他の職員たちは、政府の緊縮財政措置の下、昨年12月に職を失った。

これに抗議するダンサー達が、上演に先立ち、クラクションを鳴らす車列に向けて、路上でバーレッスン(バレエの基礎レッスンのひとつ)やストレッチなどのウォーミングアップを行った。ダウンタウンの通りには、バレエシューズを吊るした長いロープが張られた。

「文化、教育、健康は国家と社会の柱です」参加したダンサーの一人、マヌエラ・ブルーノ氏(28)は語った。「そこは最初に削るべき部分ではありません。そもそも削ってはいけないと言っても良いかもしれません」。

2015年に就任したマウリシオ・マクリ大統領は、アルゼンチンの厳しい経済状況を抜本的に改善するため、政府支出の削減と外国からの投資の促進を公約に掲げた。

マネージメント・アンド・フィットのコンサルタントで、経済アナリストのマティアス・カルガティ氏は、「バレエの予算をカットしても、たいした予算の削減にはなりません」と述べた。「もちろん政府としては、常に優先順位を考えなければなりません。どこから先に予算を減らすべきか、と。バレエなのか? 年金なのか? 公務員給与か? 今の政府は、優先順位の低いものからカットしようとしているように見えます」

長きにわたり、国家が雇用と給与を保障することが当然とされてきたこの国で、このような政府の手法に対して国民は不安をつのらせている。マクリ政権は去る12月にも、年金改革法案に反対する過激な抗議行動を抑え込むのに悪戦苦闘した。これはまた、労働組合による24時間ゼネストの引き金にもなった。

また一方で、アルゼンチンでは高いインフレ率による購買力の減退が続き、多くの国民が高騰する燃料費や輸送コストに頭を悩ませている。マクリ大統領の人気は下がる一方だ。

ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アルベルト・ラモス氏は、「財政再建はけっして容易ではなく、簡単には国民の支持を得られません」と述べた。

その一方でラモス氏は、仮に政府が支出削減を撤回すれば経済全体がさらに悪化すると警告し、「そうなれば、政府に対する国民の反対運動や抗議行動が今よりさらに深刻化するでしょう」との見方を示した。

今回の国のバレエ事業の廃止決定は、ダンス文化で世界に名を馳せるブエノスアイレスにおいて、多くの市民たちに大きな衝撃を与えた。

あちこちの通りやホールで踊られるタンゴは、世界的に知られたこの町の代名詞となっている。最高峰のバレエダンサーやオペラ歌手、オペラ楽団が、名高いテアトロ・コロンでこれまで上演を行ってきた。

「私たちはバレエ以外の文化全般についても、その未来について憂慮しています。また、クラッシックバレエを将来の職業として選ぶ可能性があったであろう子供たちのことも気がかりです」路上パフォーマンスの準備をしながら、バレエダンサーのマルガリータ・ペラルタ氏はそのように話した。

「今回の廃止決定は、現政権が、現在のことも未来への影響についても何も考えていないことを露骨に示していると思います」

路上で抗議の「白鳥の湖」 政府の決定で失職したダンサーたち アルゼンチン

By LUIS ANDRES HENAO, Buenos Aires (AP)

商業的にも成功を収めた一流のアーティストを除いて、あまたのダンサーや詩人や画家が、現代の生産活動に著しく貢献しないとしても、人間が生産的である為には、心に潤いが必要だ。

どんな健康な人も、朝から晩まで工場で働いて、テレビも見ない、マンガも読まない、歌謡曲も聴かない、白いカーテンとコンクリートしかない部屋に年中閉ざされて、町に出掛けても、倉庫かオフィスしかない環境に暮らせば、一年も経たずに心が死んでしまうだろう。

一枚の絵、一篇の詩、街角の歌声、活きのいいストリートダンス。

たとえ、それらが目に見える何かを創出しなくても、少なくとも、人の心に何かは与えている。

鉄器も無い太古の時代さえ、人は描き、奏でる楽しさを知っていたのだから、芸術は間接的に生産活動に寄与していると言えるのではないだろうか。

寺山修司の言う「『詩を作るより、田を作れ』という考えは政治的」というのはまったくその通りで、現代社会というのは、「潤い」とか「優しさ」とか「美しさ」といったものは、いつでも二の次にされるものだ。それよりも、「作れ」「稼げ」、それが一等の価値を持つ。

もちろん、それゆえに福祉やインフラが機能し、人々の暮らしが成り立っているのは確かだが、それ以前に、人間から真の生産性が失われたら、もはや人生は苦役でしかないではないか。

《GOVERNMENT OF THE PEOPLE, BY THE PEOPLE, FOR THE PEOPLE》の精神で、まこと、政治が“人間”の為に存在するなら、生産のみを求めるのではなく、生産性を高める働きかけが必須だろう。

芸術はその一環にあり、人の心を癒やしたり、鼓舞したり、精神の糧となる点に大きな意義がある。

芸術になんら生産性を見出さず、むやみに縮小や削減をする社会は、たとえ設備や資本を誇っても、いずれ部品である人間の生産性を失って、ゆっくり沈没するだろう。

劇場の維持や宣伝の為に、毎年、億単位の予算をかけるのは難しいにしても、限りなく維持に注力するのが文明国の証ではないだろうか。

日本みたいに、同人誌界が一大産業に成長する例もあるのだしね。
あれだって、昔は公的支援など一銭も無い。
描きたい、書きたい、アマチュア作家が脈々と活動を続けて、今の勢いに至ったわけだし。
中にはほとんど売れない同人作家もいるだろうけど、そうした“その他大勢”が毎年一所懸命に参加するから、コミケもあれだけの規模に成長したわけで、「どうせ私たちには生産性なんて無いし」と、諦め、そっぽ向くようになれば、何百万売り上げる人気作家が10人寄っても、あれほどの熱気は生まれないだろうよ……ということで、皆さん、頑張ってください(^^)

抗議の白鳥 アルゼンチンのバレエ団
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