ブルーレイ画質が明かす特殊メイクの芸術 ~こんな凄いものを作っていた『遊星からの物体X』

目次

【映画コラム】 『遊星からの物体X』とスネークの思い出

ブルーレイと80年代の画質の違いと弊害

1982年公開、ジョン・カーペンター監督、カート・ラッセル主演のSFホラー『遊星からの物体X』のDVDが、『遊星からの物体X ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray]』として再リリースされた時、最新デジタル技術でスケールアップされた画質を見て、知人が「1980年代に、こんな凄いものを作っていたんだな」と感嘆していました。

私もまったく同感。

なぜって、1982年、私が映画館で観た時は、画質もいまいちだったせいか、クリーチャーを手掛けたロブ・ボッティンの卓越した技術も、ジョン・カーペンター監督の緻密な演出も、そこまで伝わらなかったからです。

遊星からの物体X ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray]
出演者  カート・ラッセル (Unknown), ジョン・カーペンター (監督), ビル・ランカスター (脚本), カート・ラッセル (出演), A・ウィルフォード・ブリムリー (出演), T.K.カーター (出演), リチャード・ダイサート (出演), トーマス・ウェイツ (出演)
監督  
定価  ¥2,309
中古 18点 & 新品  ¥2,309 から

私も1983年の劇場公開時、映画館で鑑賞しましたが、やはり安っぽい印象しかなかったですね^^;

いかにも『作り物』という感じで。

オリジナルの画質。こんな感じのもやーっとした映像でした。TV地上波も同様。

こちらがデジタル処理されたHD版。画像の美しさが一目瞭然です。

私も初めてブルーレイの映像を見た時は感動しました。

こんな凄いものを作っていたのか

その一言に尽きます。

古い映画のデジタル化に感謝したのも、これが初めてです。

なぜって、あまりに細密な画質のせいで、以前はほとんど気にならなかった女優さんの目尻の皺やソバカスが、くっきり見えるようになったから。

小じわやソバカスが悪いわけではないけれど、やはり、映画というのは、夢を売るものじゃないですか。

女優さんには、この世のものとは思えないほど美しくあって欲しいし、現実を感じさせないで欲しい。

『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンの顔に、小じわ+ソバカスがくっきり見えたら、興ざめするでしょう。

『銀幕のスター』というように、どこか浮世離れして見えるから、美しいロマンを感じるのであって、あまりにも女優さんの小じわやソバカスがくっきり見えると、生々しい現実が目に迫って、辛いんですね。

確かに、ホラーやアクション映画は、高画質の方が断然面白いですけど、たまに80年代のヒット作を高画質で見返した時、ブルース・ウィリスやトム・クルーズの小じわがくっきり見えて、「ああ、この時、案外、年取ってたんだな」と思うと、やっぱり辛いんですよね。

あの頃、スクリーンの中で、ブルース・ウィリスも、トム・クルーズも、シュワちゃんも、永遠に若々しい、無敵のヒーローでしたから。

近年、女優さんのアップが少なくなったのも、案外、このあたりが理由かもしれません。(スクリーンいっぱいに、顔が映るショット)

肉体的に老いるのは仕方ないとしても、ジュリア・ロバーツやキャサリン・ゼタ=ジョーンズの生々しいシミ・ソバカスは見たくない……というのが、映画ファンの切実な気持ちなので。
(女性として劣化したという意味ではなく、映画上の話です)

スネーク恋しや、ほうやれほぅ

公開当時、カート・ラッセル演じる「スネーク・プリスキン」に夢中だった私は、クラスで唯一の映画ファンである友人以外、誰にも打ち明けられずにいました。
(参考記事→スネーク・プリスキンにカルトな愛を捧ぐ ~映画『ニューヨーク1997』リメイクの噂に寄せて

あまりにもバカ丸出しで、こんな事が周囲にばれたら、学校に行けなくなると思ったからです。
(昔から校内イジメはエイリアン並に凄まじかった)

そんなある日、一年上の先輩で、これまた筋金入りの映画マニアの男子学生に、恐る恐る『ニューヨーク1997』へのカルト愛を打ち明けたところ、

「好きでええやん。あれ、面白かったやんか。そう言えば、今、カート・ラッセルの主演の映画、やってるで」  

「うっそーーーー!! どこで、どこで?」

「タイトル、何やったかな……物体なんとか……。帰って、新聞で調べてみ。まだ、やってるはずや」

そう、当時は映画のタイトルや上演時間を調べるのも、新聞の映画館情報が頼りだったんですね。

こちらの記事に事例があります↓
大映株式会社宣伝部 ~ 番外編 (7) 宣伝マンの功名心?
昔の映画情報は新聞広告から(その2)

言われた通り、家に帰って、新聞の映画欄で調べたら、本当にやってる。

しかも、明日が最終日!

これは行かねばならぬ、と、翌日、午後の授業が終わったら、一人で映画館に素っ飛んで、ギリギリセーフで鑑賞しました。

最終日の夕刻ということもあり、観客は10人ほど、それも若い男性ばかり。

座席も取り放題とはいえ、ちと恐怖を感じながら、初めて一人で座席に腰掛けた時の緊張感は今も忘れられません。(当時はシャイな女子高生だったので)

思えば、あれが『おひとりさま』の初体験でした。
(参考記事 → 『猿の惑星、一枚』 おひとり様の映画列伝 ティム・バートン版の思い出

それぐらい、カート・ラッセル……というよりは、「スネーク」に夢中だったのです。

*

それでも映画が始まると、目がハート ❤

瞳がブルーだわ、サングラスがスネークみたいだわ、やっぱカートは格好いいなと、つくづく。

最近になって、カート・ラッセルのこと、ちやほやしてる若いファンもあるけど、私なんか、『ニューヨーク1997』が近未来の話だった、80年代からファンだっちゅーの。

高校生ながら、英文でファンレターも書いたし、雑誌の切り抜きもいっぱい持ってたよん。スクショと違うの、スクショと。

カート・ラッセル

カート・ラッセル演じるマクレディ

【ギャラリー】 ブルーレイ画質が明かす特殊メイクの芸術

では、ブルーレイの高画質で何が明らかになったのか、順を追って見て参りましょう。

アメリカの南極基地でのんびり過ごす越冬隊。

そこへ一匹の犬と、狂ったように追い回すノルウェー隊員が駆け込んできます。

犬を追うノルウェー隊員

突然の出来事に戸惑うアメリカ隊員たち。銃を乱射され、命の危険を感じた隊長が、ノルウェー隊員を射殺します。

何も知らずに犬を確保する越冬隊員

犬の飼育係クラークが、シベリアンハスキー犬を保護します。
しかし、この時、すでに、犬の体内には謎の生命体が寄生していたのでした。

犬の飼育係と謎のシベリアンハスキー

基地内をうろつく寄生犬。その姿は、さながら知能をもった人間の変わり身のよう。
のそのそとした動き方や、窓越しに隊員らをじーっと観察する表情が、本当に「ただの犬」とは思えないんですね。
このあたりの演出が上手い。

基地内をうろつく寄生犬

隊員らの様子を窺う寄生犬

飼育係のクラークは、寄生犬を犬小屋で休ませますが、途端に変身が始まり、ブチュブチュ、ニチャニチャの、地獄絵図と化します。

ここからは画像がグロテスクなので、見たくない方は離脱するか、次の見出しにジャンプして下さい。

寄生犬の頭が分裂

この場面の動画クリップは Movie CLIP - It's Weird and Pissed Off (1982) HD 【YouTube】 で視聴できます。

犬が完全に崩壊

この後、コピーされた犬の頭が飛び出て、ウォォォ~と吠えるのですが、この動きが作り物とは思えないほど上手いんですよね。
これを手掛けたロブ・ボッティン、なんと22歳です。
映画館で観た時も大変な迫力でした。

正体を現す寄生犬

驚いた隊員たちは、銃弾を浴びせ、火炎放射器で焼きますが、寄生犬は擬態を重ね、巨大な怪物に変身。
犬小屋の天上を突き破って逃走します。
ぬるぬる、ベトベトの両腕がずず~っと伸びていく場面と、巨大化した寄生犬の頭がじろりとこちらを見る場面が戦慄もの。

擬態に擬態を重ねて巨大な怪物に

いったい、あの犬は何ものなのか。ノルウェー隊員に何があったのか。
真相を求めて、マクレディ(=カート・ラッセル)と数人がノルウェー基地に赴きます。

そこは完全に廃墟と化し、研究室には、絶望から自殺したと思われるスタッフの姿が。

パニックで自殺したノルウェー隊員

マクレディは基地の一室で四角に切り出された氷を見つけます。何かがここに埋まっていた模様。

氷から何かを掘り出した痕跡

マクレディさま・・❤

調査を進めるマクレディ

基地の外で、慌てて焼却しようとした「何か」を見つけます。

焼却した遺体

さっそくアメリカ基地に持ち帰り、調査が始まります。……つうか、こんなもの、持ち帰るなよ。。

焼却した遺体の調査

変身の途中で焼却されたと思われる、気味の悪い遺体。
この悪夢のような造形はロブ・ボッティンならでは。
ちなみにこの場面は21世紀になって制作された前日譚『遊星からの物体X ファーストコンタクト』にちゃんと繋がっているんですね。
後述しますが、非常に忠実に作られています。

変身の途中で焼き殺された

早速、医師のドクター・コッパーが解剖を始める。『エイリアン2』でも、アンドロイドのビショップがエイリアンの幼生、フェイスハガーを「すごいよ、こいつは」と嬉々としながら解剖してましたな。
マッドな科学者たち。

内臓を調べる医師のドクター・コッパー

ロブ・ボッディンの技術がいかに凄いか、ブルーレイ画像を見れば手に取るように分かります。
何が凄いって、リアルな質感。まさに「血がしたたるような」ジューシー感です。
私もこんなの作ったことがありますよ。リブ肉をオーブンで焼くのに失敗した時。

リアルなクリーチャー

これら、全て、手作りです。CGではありません。
しかも、劇場公開時は、ここまで鮮やかな色彩ではなかったのです。
ブルーレイ画像で、初めて「凄さ」を実感しました。

クリーチャーのジューシー感

細部にまで凝った作り

ブルーレイ高画質の威力

やがて基地内の常温で生命活動を取り戻したエイリアン細胞は次々に隊員を襲い、擬態を繰り返す。

こちらは人間コピーの最中。
もろに作り物と分かるけど、触手のグイグイと締め付ける感じが妙にリアルなんですね。

次々に隊員に寄生する

寄生されたベニングス隊員は基地の外に飛び出すが、もはや人間ではない。
手だけがエイリアンで、叫び声も獣のよう。
隊員らは戸惑いながらも、ベニングスを焼却する。

手だけがエイリアン

マクレディは死を覚悟し、メッセージをカセットテープに吹き込む。

隊員たちは互いにエイリアンではないかと疑い、基地内を不穏な空気が包む。

死を覚悟するマクレディ

パニックになる中、マクレディは、各自の血液を熱した鉄線で焼くことを思い付く。
エイリアンならば、血液さえも意思を持ち、シャーレの中から反撃するからだ。

だが、誰かが先回りして、血液バッグを壊し、検査を阻止する。

互いの疑念とストレスも頂点に達し、ついに殴り合いの修羅場になる。

殴られ、心臓発作を起こした隊員に心臓マッサージを施そうとすると……

この場面の動画クリップは Chest Defibrillation - The Thing (5/10) Movie CLIP (1982) HD 【YouTube】でどうぞ。

突然隊員の腹が割ける

エイリアンの擬態

マクレディたちは慌てて焼却するが、頭だけがもげ落ちる。
この場面の色使いも、ブルーレイ画像で初めて知りました。
細部まで精密に作り込まれた、特殊メイクの芸術ですね。

首だけ切断

もげ落ちた頭部は触手が生えて机の下に逃げ込み、カニと化します。
頭部が逆さま向いてるのが気持ち悪い。

カニと化した頭部

カニ化した頭部が、どさくさに紛れて、トコトコと部屋から逃げ出す演出が凄まじい。
映画館で見た時も、のけぞりました。

カニになって脱出する頭部

さらにエイリアンによる寄生は進み、正体がばれた隊員の顔面がぐちゃぐちゃに崩壊。
とにかくロブ・ボッティンの特殊メイクが凄いです。

顔面崩壊

最後はモンスター化したエイリアンとマクレディの一騎打ち。
巨大化したモンスターの体内から、一番最初に寄生された犬の頭の擬態が再び出てくる演出が秀逸です。
エイリアンの細胞が、コピーにコピーを重ね、新たなボディを獲得する過程がきっちり描かれています。

最初に寄生された犬の頭

映画史に残る特殊メイク職人 ロブ・ボッティン

私も、ロブ・ボッティンの存在は、『物体X』で初めて知りました。
この後、ハリウッド映画に登場する凄い特殊メイクの大半はロブ・ボッティンによるものでしたね。

一番有名なのが、アーノルド・シュワルツネッガー主演のSF大作『トータルリコール』の特殊メイク。

トータルリコールの『2weeks』といえば、非常に有名です。

火星に不法侵入を試みるシュワちゃんが、特殊メイクで中年のおばさんに化けて、入国審査を誤魔化そうとするものの、途中で装置が故障し、「滞在期間は?」「2週間よ、、、2週間よ、、、2週間よ、、、あわわわ」となる名場面。

次に有名なのが『ミッション・インポッシブル』のイーサンの変身。
作品に登場するマスクはロブ・ボッティンによるものです。

今はCGが主流で、ロブの出番もだんだん少なくなってきましたが、やはり昔ながらの手法は質感が違いますね。

物体Xも臭ってきそうでしょう。

映画の技術もいっそう進歩して、「臭い付き」なんてのが出てきたら、観客全員、あまりの生臭さに失神するのではないでしょうか。

そこまで感じさせるのは、ひとえに職人芸。

そして、それを明らかにしたのが、30年後のデジタル技術と思うと、実に感慨深いです。

当のロブ・ボッティンもブルーレイ画像を見て「オレ、こんな凄い仕事をしてたのか」と感涙にむせび泣いたのではないでしょうか。

Amazonでベストレビュアーの「ヒー」さんが『吹き替えは魅力ですが輸入盤の方が・・・・』というタイトルで熱いレポートをされていますが、ここまで拘る気持ちも分かります。

やはり公開当時、劇場で体験した者には特別な思い入れがあるんですね。

多分、ブルーレイを観た往年のファンの感動のポイントは、みな同じじゃないでしょうか。

こんな凄いものを作ってたんだ、と。

Amazonカスタマーレビュー

私自身も、カスタマーレビューを読んで安心しました。

公開当時、スネークが好きとか、ロブ・ボッティンが凄いとか、こんな話をする人もなくて、「物体Xがイイと思っているのは、世の中で私一人ではあるまいか」と孤独感を抱いてきましたから。
全国にこれほどの同志がいたことが分かって、感慨もひとしおです。

インターネットもバンザイなら、日本語吹き替え版でリニューアルしてくださったユニバーサル様にも感謝感謝です。

オタクも長生きすると、いいこといっぱいあるよ (^_-)-☆

次なる私の楽しみは、「臭い付き 遊星からの物体X」です (´ー`) くっさー

初稿 2018年11月11日

この記事を書いた人

石田 朋子のアバター 石田 朋子 サイト管理人

作家・文芸愛好家。80年代サブカルチャーの大ファン。普段はぼーっとしたおかあさんです。昭和の名作漫画はほとんど空で台詞が言えるほどの元祖ヲタ。車と猫が大好きな東欧在住。サイトでは作品紹介ではなく、作品を題材とした文芸コラムを掲載しています。

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