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アイデアを持ち続ける意義 ~今は必要なくても、いつかは誰かが必要とするかもしれない with 大友克洋の『AKIRA』

2020 6/24
目次

【コラム】 アイデアはどこからやって来るのか -大友克洋の『AKIRA』より

サイバーパンクの傑作と名高い大友克洋の『AKIRA』の映画版にこんな台詞があります。

前にリュウが言ってたわ。アキラって、絶対のエネルギーなんだって。

人間ってさあ、一生の間にいろんな事をするでしょう。何かを発見したり、造ったり……。

家とかオートバイとか橋や街やロケット……

そんな知識とかエネルギーって、どこから来るのかしら?

猿みたいなものだったわけでしょう。人間って。 その前は爬虫類や魚――そのもっと前はプランクトンとかアメーバ。

そんな生物の中にもすごいエネルギーがあるってことでしょう。

そのもっと前の水や空気にも遺伝子はあるのかしら。宇宙のチリだってそうでしょう。

もしあるとしたら どんな記憶を秘めているのかしら

宇宙の始まりの そのもっと前の……

誰でもそんな記憶を持っているのかもしれないわね

もし何かの間違いで順番が狂って そんなアメーバーみたいなものが人間みたいな力を持つことになったら・・

『AKIRA』は暴走族の下層のメンバーだったテツオが、超能力者のタカシに衝突したことがきっかけで、性格も一変し、強力なパワーを持つようになります。

テツオの幼馴染みで、暴走族のリーダーでもある金田は、その謎を追う途中、軍に捕らえられ、反政府ゲリラのメンバーであるケイと共に留置所に拘束されます。

上記の台詞は、留置所の一室で、「君はなぜテツオを追っているんだ。あの不思議な力と関係があるのか? それに、何なんだ、アキラって?」と問いかける金田に、ケイが答えるもの。

もし、何かの間違いで順番が狂って、アメーバーみたいなものが人間みたいな力を持つことになったら、自分の周りのエサを食い尽くすだけだ、と、懸念します。

そして、ケイの懸念は的中し、テツオは手の付けられないモンスターに変貌するわけですが……

当時のCMから、新手のエスパーものと軽く見ていた私も、この台詞で見る目が変わりました。宇宙の根源に問いかけるような、奥の深い話だったんだな、と。

しかし、よくよく考えたら、ケイの言うとおり、不思議なのですよ。

家も、オートバイも、橋も、街も、最初からそこにあったわけではないですね。

誰かが設計し、建材を組み立てたから、そこに形が現れたのです。

その源流はどこにあるのかと問われたら、人の頭の中、あるいは心と呼ばれるところに違いありません。

ケイの言うとおり、人間の中にも、宇宙に匹敵するようなエネルギーが備わっている、ということですね。

大友克洋の『AKIRA』では、マッドな科学者や軍人らが、その力をコントロールしようとして失敗し、東京崩壊に繋がった経緯を描いています。

最終的には、制御不能になったテツオも肉体を失い、宇宙的なエネルギーに還元するのですが、もし人がそうした力を信じ、自身の中から掘り起こすことができたら、偉大な創造へと繋がっていくし、現に、今わたしたちをとりまく製品や設備は、みな誰かのアイデアから生まれてきたのです。

AKIRA「エネルギーってどこからやって来るのかしら」

【小説の抜粋】 アイデアの源流:『空想ごっこ』も真剣に考え抜いてこそ

海底鉱物資源の本採鉱を前に、プロジェクトリーダーの失踪という憂き目に遭ったアルは、海中技術に長けた潜水艇のパイロットを探し求め、半年前に海洋技術センターを解雇されたヴァルター・フォーゲルを紹介される。

アルがヴァルターに接触を図ったもう一つの理由は、彼の居場所を突き止める過程で彼のPCを覗き見、円環の海洋都市『リング』の鳥瞰図を目にしたからだった。

これこそ海の星アステリアの未来を変えるアイデアと確信したアルはヴァルターからリングの秘密を聞き出そうとするが、彼は頑なに心を閉ざし、何も語ろうとしない。

ヴァルターがフルカスタマイズのPC、”Leopard”に後生大事に持ち歩く『リング』の鳥瞰図には、13歳の時、大洪水で命を落とした土木技師の父の教えと思い出が込められていた。

このパートは『海洋小説『曙光』(第一章・運命と意思)』の抜粋です。 作品詳細はこちら

縦書きPDFで読む(Google Drive)

三日後、ヴァルターはアステリアに向かう船の中に居た。

あの後、彼は魔法にかかったようにアル・マクダエルの契約書にサインし、二年の約束で採鉱プラットフォーム及びアステリア・エンタープライズ社の仕事を手伝うことになった。

契約書の末尾にWalther Lacroixとサインし、アルに借りた万年筆をぶっきらぼうに差し出すと、アルはWalther Lacroixのサインを二本線で消した。

「わしの事業に財閥の跡取りは要らん。お前が生きたい方の名前を書け」

彼は再び万年筆を手に取ると、半信半疑でWalther Vogelとサインした。

アルは契約書をブリーフケースに直すと、当座の生活費とアステリア行きのチケットをテーブルに置いて、席を立った。そして、トレーラーを出る際、振り向きざまにもう一度彼の顔を見ると、安堵したようにその場を立ち去った。

アルが行ってしまうと、彼は直ちに冷蔵庫の残り物――一かけのバターと粒入りマスタードを洗面所の屑籠のゴミと一緒にビニール袋にまとめ、最後の食料として取っていたツナ缶を手早くかっこんだ。

それから着替えと洗面用具を深緑のミリタリーバッグに詰め、室内を整理すると、最後にPCの収納に取りかかった。

わずかな着替えとPCと自転車。それが彼の持ち物の全てだ。十五歳でマルセイユのラクロワ邸を出てから、いつでも、何所でも、すぐに移動できるよう、余計な物は一切持たないのが彼のライフスタイルだ。

パソコンデスクに向かい、Leopardのトラックパッドに指先を滑らせると、ディスプレイに電源が入り、GeoCADのメインウィンドウが立ち上がった。

『キャンバス』と呼ばれるグリッド状の編集画面には、二重の円環ダムで仕切られた干拓型海洋都市の鳥瞰図が描かれている。この十年間、何度も描き直し、これがVer. 8になる。トリヴィアに来てから半年間、寝る間も惜しんで完成させた最後の鳥瞰図だ。

プロジェクトの名は『Der Ring(デル リング)』。父が大好きだったリヒャルト・ワーグナーのオペラ『Der Ring des Nibelungen(ニーベルングの指輪)』にあやかって、そう呼んでいる。

実際、それは世界を統べる指輪のように大海原に輝き、希望と悦びに満ちている。『ニーベルングの指輪』は持ち主に災いをもたらすが、彼と父の描くリングは平安の象徴だ。二重の円環ダムに守られた海底の干拓地は緑に彩られ、運河で区画された町には人々の笑顔が溢れている。

初めて『リング』を描いたのは十歳の時。父と故郷の海岸で語り合ったのがきっかけだ。

父はドイツのカールスルーエ市で生まれ育ったが、ネーデルラントの『アフシュライトダイク(締め切り大堤防)』に魅せられ、大学で土木工学を修めた後、ゼーラント州の干拓地フェールダムで治水局の仕事を得た。

彼が子供の頃、父は堤防や治水について、いろんな話をしてくれた。

「これからは機能だけでなく、美観やエネルギーも考慮した拡張型堤防が主流になるだろうね。Anno Dominiの時代にもたくさんの巨大堤防が作られたが、今はどこも異常気象と施設の老朽化に手を焼いている。築堤を根本から変えるような技術や建材の開発が必要だ。堤防には幾多の人命がかかっている。まさに社会の守護神だよ」

「だけど、どうして自然な水の流れを変えてまで、そこに住もうとするのかな。カールスルーエのお祖父ちゃんがいつも言ってるよ。『海抜の低い所に住めば、水害に遭うのは当たり前だ。そんな場所に好んで暮らす方がどうかしてる』って」

「山好きなお祖父ちゃんは、そう言うだろうねえ。でも、その土地に暮らす人の理由は様々だ。住み続ければ愛着も湧くし、社会的な繋がりもできる。土地への思いは理屈じゃない。自身の血肉だ。君だって、いつか遠く離れたら、フェールダムが一番だと思うようになるよ。その時、水の流れを変えてでも、そこに暮らしたいと願う人々の気持ちが分かるんじゃないかな」

それから、世界中の専門家が考案する未来のダムについて話してくれた。娯楽施設を兼ねたアミューズメント・ダム。発電、淡水化、貯蔵、港湾機能などをもったハイブリッド・ダム。水位に応じて高さや形状を自在にアレンジできる拡張型ダムなど。

「それじゃあ、こんな円いダムはどう? 海のど真ん中に指輪みたいな堤防を築くの。頑丈なコンクリートダムに守られたリング状の干拓地だ。これなら大西洋のど真ん中にも大きな町が作れるよ」

彼が砂の上に大きな円を描いてみせると、

「それは面白いアイデアだね。でも、海のど真ん中に作るなら、一重のダムでは持たないだろう。二重にしてはどうかな。外周ダムは鋼製ケーソンで構築し、内周は重力式コンクリートダムにする。二つのダムの間に幅数十メートルの運河を廻らせて、水量をコントロールするんだ。万一、高波が鋼製ケーソンを超えたり、ケーソン自体に不具合が生じても、運河と内周ダムで海水を堰き止めることができる」

彼と父はいろんなアイデアを出し合い、砂の上にどんどん円環の海洋都市を築いていった。日も暮れる頃には、海上空港や浮体式エネルギープラントなどを併せ持つ一大海洋都市に発展し、新たな時代を感じさせた。

やがて潮が満ち始め、波が徐々に砂の都市を掻き消すと、

「みんな、海の向こうに流されていくね」

彼は淋しそうに呟いた。

「そんなことはない。もしかしたら、この海の向こうに、それを必要とする人々がいるかもしれないよ」

「海のど真ん中の干拓地など誰も欲しがらないよ。狭いし、危険だし、所詮空想ごっこだ」

「どうして誰も欲しがらないと決めつけるんだい? 遠い将来、それこそ何世紀という未来、海面が著しく上昇して、海抜の低い島や沿岸のデルタ地帯に住み続けることができなくなった時、海のど真ん中でも建設可能な干拓都市の構想が必要とされるかもしれないよ」

「そうかなあ……」

「考えてもごらん。産業革命で機械化工業が始まるずっと以前、レオナルド・ダヴィンチは飛行機のアイデアを図案に残している。ガスも電気もない太古の時代でさえ、人々は『どうやったら鳥のように空を飛べるだろう』と考えを巡らせ、絵や文章にアイデアを書き留めてきた。当時にしてみたら、空を飛ぶなど奇想天外だったろう。だが、数世紀を経て現実になった。TVや電話、パソコンやカメラもそうだ。今すぐ実現するかどうかは問題じゃない。それこそ君が言うような『空想ごっこ』を真剣に考え抜いた人がいたから、恒星間航行も可能になったんだ。誰のアイデアも無限の可能性を秘めている。どうせ理解されないからと、そこで考えることを止めてしまったら、それこそ無に終わってしまう。お前もいろんな可能性をいっぱいに秘めた海なんだよ。たとえ君が世界を変えるアイデアを持っていたとしても、それを口にしなければ誰にも伝わらない。だから勇気をもって話してみよう。そうすれば心ある人は必ず耳を傾けてくれる。そして、それが価値あることなら、いつか形になる。もっと自分を信じてごらん。それが創造の源だ」

父は彼のアイデアをDer Ring(デル リング)と呼び、幾度となく治水や都市構想について語り合った。「中学生になったら新しいPCを買って、一緒にGeoCADでリングを描こう」という約束だったが、それも叶わぬ夢となった。父は洪水で亡くなり、彼も家と故郷を失ったからだ。

それでも父の思い出や理念を形にしたいとの願いから、二十歳の頃から描き続け、とうとうイメージ通りに仕上げることが出来た。このVer. 8こそ、父と語り合った構想そのものだ。肉体は失われても、父の教えは『リング(Der Ring)』の中に生きている。誰に必要とされなくても、ずっと大切に持っていたい。

彼は天板を閉じ、Leopardの電源を切ると、ウレタン樹脂の防護カバーで厳重にくるみ、PCバッグに収納した。

次のエピソード
オランダの治水と締め切り大堤防 ~意思が世界を形作る
オランダの治水と締め切り大堤防 ~意思が世界を形作るオランダのアフシュライトダイク(締め切り大堤防は、1927年から1932年にかけて、国家的な治水事業の一環として建設された。全長32キロ、幅90メートル、高さ7.25メートルの威容を誇る治水施設の魅力を写真と動画で紹介。

【リファレンス】 もう始まっているからね

上記のAKIRAですが、最後の台詞もなかなか意味深。

「今の僕たちには無理だったんだ」

「でも、いつか私たちも……」

「もう始まっているからね」

”今の僕たちには”の目的語は、「テツオの力」に違いないですが、技術、情報、思想、政治、いろんなものに当てはめることができます。

一度、始まった潮流は、簡単には変えられない。

自分たちで制御しきれると、どうして言い切れるのか。

最後には崩壊して、ゼロに還るまで、誰にもどうすることもできないものかもしれません。

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 著者  大友克洋 (原著), 大友克洋 (監督), 岩田光央 (出演), 佐々木望 (出演), 小山茉美 (出演), 大友克洋 (脚本), 橋本以蔵 (脚本)
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※ 自分たちで制御できないモノを作り出してはいけないという教え。

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