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処世の知恵と真理の違い 『人は魂で生き、理性で現世を渡る』

2020 6/26
目次

【コラム】 処世の知恵と真理の違い

世の中、いろんな○○論が溢れています。

情熱をもって生きろと説く人がいる一方、ゆっくり生きればいいと説く人もあり、どちらが正しいのか、分からなくなりますよね。

それとは別に、この世には絶対不可侵の規律が存在します。

殺すな、盗むな、嘘をつくな、etc。

こうしたことは、文化や宗教の違いにかかわらず、大抵共通しています。(細部にまで目を向ければ、それが正当化される世界もありますが)。

後者を真理とするなら、○○論に相当するものは、処世の知恵といえるでしょう。

真理は変わりませんが、処世の知恵は、その時々に応じて変わります。

あえて言うなら、処世の知恵は、自分が損しない為の戦略といったところでしょうか。

真理は万人に救いの手を差し伸べることを良しとしますが、現実社会で、善人にも悪人にも、同じように施していたら、身が持ちませんよね。

現世を生きるには、二つの認識が必要で、真理を重んじつつ、処世の知恵を駆使するのが理想だと思います。

相反する○○論が存在したとしても、迷う必要はありません。

どちらも本当で、どちらも現実。

なぜなら、○○論は、現世の鏡のように、その時々に応じて形を変えるからです。

どちらが正しいか正義の天秤で量ろうとするから迷うのであって、その時々に応じて、都合のいいように取り入れたらいいだけのこと。

処世の知恵は、真理と異なり、その時々に応じて沈んだり、もてはやされたりする、浮き草みたいなものですから、そんな教えに絶対的な価値観や正義を求める方が間違いなのです。

ある意味、魂は真理に、理性は処世の知恵に習うのが理想かもしれません。

人は魂で生き、理性で現世を渡るからです。

【小説の抜粋】 処世と真理の違い

父グンターを失い、フォンヴィエイユの港町で、母子二人、身を寄せ合うようにして暮らしていたが、とうとう生活が立ち行かなくなり、アンヌ=マリーは病に倒れる。
そんな母子に手を差し伸べたのは、アンヌの元婚約者で、マルセイユの裕福な実業家、ジャン・ラクロワ氏だった。
最初は躊躇していたが、ヴァルターの治療に莫大な費用がかかることもあり、アンヌ=マリーは再婚を受け入れ、ラクロワ氏の大邸宅で一緒に暮らし始める。
しかし、やり手の実業家であるジャン・ラクロワと、善徳の人だった父グンターの哲学はあまりに大きく違った。
暮らしが豊かになるほど、父グンターの教えが懐かしくなる。

このパートは『海洋小説『曙光』(第一章・運命と意思)』の抜粋です。 作品詳細はこちら

縦書きPDFで読む(Google Drive)

だが、裕福であればあるほど彼は違和感を覚え、上辺だけの人生を生きているような気持ちになる。ラクロワ氏が父とは違った明達の士であるのも理解できるが、その言葉は少しも心に響かない。

「道理のわからぬ者に理屈を言って聞かせようなどと思わぬことだ。彼らはやがて君を敵とみなすようになる。それより本音は胸の奥に隠し、実になる部分だけで付き合うことだ。この世で賢人と言われる人はみなそうしている」

「世の中というのは、一割の利口者がそうではない九割から金や時間を奪って儲ける場所だ。それが嫌なら、楽しむ側より楽しませる側に立つことだ」

「良いことも正しいことも、ほどほどにすることだ。徹すると、善行も毒になる」

理屈としては解るが、永遠の真理とも思えない。

それはあくまで処世に過ぎず、仁慈や気高さとは別ではないか。

それに対して、父の教えは春の日差しのように胸にしみた。

「学校でも、サッカークラブでも、納得いかないことはたくさんあるだろう。人の悪意に触れて愕然とすることもあるはずだ。でも、そんな時は、心の中でこう唱えるんだ。『父よ、彼らをお許し下さい。彼らは自分が何をしているのか、わかっていないのです』――これは十字架にかけられたイエス・キリストが彼を侮辱する人々に対して言った言葉だ。君をいじめる子供たちも、今は自分たちがしていることの意味を分からずにやっている。もしかしたら、一生理解せずに終わるかもしれない。それでも赦すんだ。相手を赦すことが君の心も救う。だから君も辛く悔しく感じた時は、この言葉を胸に唱えてごらん。真の心の強さがどういうものか、きっと分かるから」

もし、サッカークラブの子供たちが父とラクロワ氏の言葉を聞いたら、子供たちは父の周りに集まるだろう。

一見、損で遠回りに思えても、父の教えは身体の真ん中でしっかり心を支えてくれる。たとえ世知においてはラクロワ氏が正しいとしても、どうして父の教えから離れて生きていけるだろう。それこそ永久不変の真理に感じるのに。

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潜水艇のパイロットを目指す ~深海調査と豊かな生命圏
潜水艇のパイロットを目指す ~深海調査と豊かな生命圏商船学校の特別研修で初めて潜水艇プロテウスを目にしたヴァルターは深海に強く魅せられる。そこは暗く冷たい死の世界ではなく、生命に満ちた温かな揺りかごだった。父の面影を求めてヴァルターは潜水艇のパイロットを目指す。

【リファレンス】 原罪とは神の教えから離れること

このあたりのエピソードはキリスト教の『原罪』をモチーフにしています。

原罪といえば、「知恵の実を食べたアダムとイブ」のエピソードが有名ですが、イブをそそのかしたのは、「知恵の実を食べてごらん。神のように賢くなれるよ」というヘビの言葉。

神のように賢くなれる=人間が真理から離れ、自分の頭で考えて行動するようになる という意味です。

一見、いいことのように思われますが、「真理から離れる」というのが災いの元であり、いつも人間の判断が正しいわけではない、ということを示唆しているわけですね。

上記に喩えれば、真理と処世の知恵の違いです。

処世の知恵に長けても、真理から離れれば、魂も枯れていくのです。

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