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誰がアイデアを形にするかで、この世は変わる ~人の意思と品性がアイデアの価値を高める

2020 6/30
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【コラム】 この世界は人間のアイデアの結晶

アイデアを持ち続ける意義 大友克洋の『AKIRA』よりにも書いているように、『人間ってさあ、一生の間にいろんな事をするでしょう。何かを発見したり、造ったり……。家とかオートバイとか橋や街やロケット……そんな知識とかエネルギーって、どこから来るのかしら?』という問いかけがあります。

アイデアは人間の知的活動の産物に違いないけれど、その源泉どこにあるのか――という話ですね。

宇宙神の霊感か、それとも単なる神経細胞の電気刺激か。

それが、どこから訪れるにせよ、今、私たちが目にしている世界は、人間のアイデアの結晶といっても過言ではありません。

コップ、スマホ、ドレス、高層ビル、といった目に見えるものはもちろん、定額音楽配信、ポイント還元、一時預かり、等々、便利なサービスも、誰かのアイデアです。

時に、人ひとりのアイデアは、世界を滅ぼす力も持ちます。

誰かの思い付きが大勢を破滅させたり、社会を崩壊させることもあります。

景気や天候、技術や世論など、いろんな原因が複合的に絡み合った結果にしても、言い出しっぺの責任は非常に重いです。

このパートは、『パラディオン』という、富裕層向けの巨大な海上都市の建設計画が水面下で進行している事に対し、恋人のリズが、ヴァルターの胸の奥底に秘められた海洋都市のアイデアを引き出そうと促す場面です。彼は自分のアイデアに自信がないので、決して口に出そうとしないからです。そんな彼に、リズは「恐れずに話して」と力付けます。どんな優れたアイデアも、胸の内に持っているだけでは、存在しないも同然だからです。

アイデアを有益な形に昇華させるか、否かは、それを共有する人々の意思と品性によります。

それは技術や資本以前の問題です。

【小説の抜粋】 誰がアイデアを形にするかで、この世は変わる

病身の父親から『リングのアイデアを持ってこさせろ』と厳命を受けたリズと、いまだその価値に気付かないヴァルター。
リズは、ペネロペ湾で建設計画が進む巨大海上都市『パラディオン』を引き合いに出し、何とか『リング』の価値に気付かせようとする。

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このパートは『海洋小説『曙光』(第三章・海洋情報ネットワーク)』の抜粋です。作品詳細はこちら

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「だが、まだまだ問題山積みだ。もっと求心力のあるものを提示しないとね。誰もが一目で納得するような」

皿のものを平らげ、ほっと一息つくと、リズが革のバッグを開き、セスから受け取った《パラディオン》の画像をテーブルに広げた。

「あなたも知っているかもしれないけど、ペネロペ湾の湾岸開発の広告イメージとして出回っているものよ。設計したのは……」

「フランシス・メイヤーだろ。知ってるよ。年末にスカイタワーで会った」

「スカイタワーで?」

「年末にローランド島を訪ねた時、スカイタワーでメイヤーの講演会があった。催しの後、偶然、会場で出くわした」

「何か話した?」

「少し。だが、もう済んだことだ。あの人がここで何をしようと、俺には関係ない。分野も違えば、目的も異なるんだからね」

「だけど、パラディオンが着工に漕ぎ着けたら、アステリアの様相も大きく変わるかもしれないわよ」

「どういう意味?」

「パラディオンは一般向けの海上都市ではないからよ。メインの顧客は富裕層や大企業だと言われているわ。高度に管理されたインテリジェントビルにカンファレンスセンター、一泊何万もする高級ホテル、ハイセキュリティのレジデンス、高級食材を栽培するグリーンファクトリー。それはそれで有意義かもしれないけれど、一カ所に富と権力が集中すれば、バランスが崩れるのは必至でしょう。今でさえローランド島は慢性的な宅地不足で、公共住宅に入りきれない人々が水上に暮らしているのに。たとえ幾らかは社会に還元されるとしても、万民を幸福にするアイデアとは到底思えないわ」

「そうだね……」

「人間のアイデアって何なのかしらね。宇宙の塵のように人間の頭の中で生まれ、次第に形を取りながら、未だかつて誰も見たことがないような新しい物をこの世に送り出す。時には世界を席巻するような巨大市場を形成し、人々の暮らしや価値観を根底から変えることもある。それが社会を豊かにすることもあれば、大勢の人生を台無しにすることもあるけれど、それらは決して運などではない、人間の意思が形作るのよ。誰がアイデアを形にするかで、この世は変わるわ。どれほど優れたアイデアも、曲がった意思が働けば歪な世界を作り出すし、平凡なアイデアでも、善き意思が人々に幸福をもたらすこともある。専門家だから、その道の権威だから、必ずしも優れたアイデアを生み出すとは限らないのよ。私も建築や都市開発について提言できるだけの資格も知識もないけれど、一つだけ確言できる。未来のアステリアに必要なのは、富裕層だけが楽しく暮らすパラディオンではなく、アステリアの人々が安心して暮らせる広々とした都市空間だということ」

彼はしばらく黙っていたが、ぽつりと言った。

「もし海を割ることが出来たら、アステリアの未来も変わると思うかい?」

リズは思わず身を乗り出し、

「え……え! あなたの故郷のように水を堰き止め、大地を現すことができれば、何十万、何百万という人々が暮らせるようになるわ。干拓地のように広々とした海洋都市が創出

できれば、アステリアの存在意義そのものが変わるはず。あなた、何かいいアイデアがあるの?」

「ローレンシア島の南部に干拓に適した地形がある。何十万が暮らすのは無理だけど、住民を賄うに十分な農耕地や牧草地が確保できるかもしれない」

「他には?」

「何も無いわけではないが……現実に建設するとなれば相当に難しい」

「技術的に難しくても、ビジョンとして示すことはできるんじゃないの? パラディオンのように」

「ビジョン?」

「ええ、そうよ。パラディオンはファルコン・マイニング社やロイヤルボーデン社など、有力企業が後押ししてるようだけど、まだ現実に決まったわけではないし、技術的に建設可能かどうかも分からない。だけども新時代の海上都市として強力な訴求力を持っている。何も説明しなくても、パースを見るだけで未来のペネロペ湾を思い描くことができるでしょう。それと同じで、大事なのは万民に訴えかけるビジョンよ。ビジョンを描くのに資格や実績は関係ないでしょう」

(そうかもしれない)と彼は思った。ビジョンとしてのリングなら有りかもしれない。だが、何の為に?

頭の片隅で思い巡らす彼にリズは言う。

「もし、あなたがアイデアを持っているなら、恐れずに話して欲しいの。何故って、それが世界を変える鍵になるかもしれないからよ。私なら決して嗤ったりしない。あなたのどんなアイデアでも、活かす道がないか、一緒に真剣に考えるわ。だから、何か思いついたら、恐れたり恥ずかしがったりせず、気軽に教えて欲しいの。アイデアを形にする最初の一歩は、誰かに話してみることだと思うわ」

「君も父さんと同じ事を言うね」

「お父さまと?」

「『たとえ君が世界を変えるアイデアを持っていたとしても、それを口にしなければ誰にも伝わらない。だから勇気をもって話してみよう。お前もいろんな可能性を秘めた海だ』と教えてくれた。もちろん、今もそのつもりだ。だがね、今でさえ海洋情報ネットワークに四苦八苦してる。それを差し置いて、また新たな何かを口にするのは大風呂敷みたいで気が進まない。もう少しこの地への愛着が湧いたら、その覚悟も芽生えるかもしれない。その時には君に一番に話すよ。どんな事も、君に一番に」

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【リファレンス】 アイデアは資本に優先する

アイデアは資本に優先する 映画『ソーシャル・ネットワーク』201にも書いていますが、『アイデアは資本に優先する』は本田宗一郎の言葉です。文字通り、資金も知名度も乏しい中、アイデア一つで業界の頂点に上り詰めた一例ですね。

ところで、このFacebook、個人が発信力を持ち、影響力が数値で可視化される時代に、非常にマッチしたサービスだったと思います。「だった」と過去形なのは、アイデアが具現化された時点では一つ頭抜いていたから。今はネットの繋がりにも新たな価値観が求められています。

しかし、人間の価値が数値で可視化されるサービスは、過剰な自意識や劣等感を生みだし、メリットよりもデメリットの方が目に付くようになりました。

当初は画期的なサービスも、運営する側のセンスによって、あらぬ方向に転落していく典型だと思います。

「いいね」も「フォロワー数」も、運営側にしてみたら、「手軽に応援できるツール」に過ぎなかったのかもしれませんが、数値が人間の印象や力関係にもたらす影響を軽く見積もっていたかもしれませんね。本来、フラットであるべき世界――多くのユーザーがそれを夢見ていた仮面の息抜き空間に、数値というヒエラルキーを持ちこんだ結果、ユーザーに飽きられ、失望されたのは、当然至極といえましょう。そして、それは、今後いろんな分野で加速するような気もします。

もしかしたら、人々を孤独から救い、豊かな繋がりをもたらしたかもしれないアイデアが、それに携わる人間(ユーザーも含む)の意識によって歪められていくのも皮肉ですが、どんな優れたアイデアや設計も、人間が関わる限り、そこには人間くさい欠点が伴うのかもしれません。

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